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暁のカトレア - episode.38 初陣
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暁のカトレア  作者: 四季
3.化け物狩り部隊

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episode.38 初陣

「総員、配置につくように」


 新しく仲間入りした私の紹介を終えた後、グレイブは、落ち着きのある声で隊員たちに告げた。

 そして、私とトリスタンのいる方へ顔を向ける。


「二人は後方待機を頼む」


 グレイブの声は淡々としていた。

 信じられないほど落ち着き払ったその声は、今から戦場へ赴く者のそれとは思えない。


「後方で大丈夫ですか?」


 トリスタンが真剣な顔で尋ねると、グレイブは腕組みをしながら答える。


「まぁ大丈夫だ。お前が前線から下がるのは、正直少し痛くはあるが、マレイを一人にするのは危険だからな。仕方がない」


 彼女の漆黒の瞳は、トリスタンを捉えていた。

 しかし、彼女がトリスタンへ向ける視線は、他の女性たちのものとは違う。グレイブはトリスタンを異性としては見ていないからだと思われる。


「前はよろしくお願いします」

「あぁ。任せてくれ」


 トリスタンと言葉を交わすグレイブの態度は、淡白で、まるで男同士であるかのような雰囲気だ。


 その後、トリスタンは軽く微笑みながら、私の方へと視線を向ける。


「マレイちゃん、行こうか」

「え、えぇ。そうね。ありがとう」

「ふふっ。今日のマレイちゃん、なんだか丁寧だね」

「そう? おかしかった?」


 動くたび揺れる絹糸のような金髪。青く澄んで私の姿を映す瞳。

 幻想的、という言葉が相応しい彼の容姿は、いつもと何一つ変わらない。戦いの前だというのに、穏やかな微笑みさえ普段通りだった。



 グレイブと別れ、トリスタンと二人で、配置されている場所へと向かう。


 夜間というのもあって、基地内は薄暗い。もちろん真っ暗なわけではなく、明かりもあることはあるが、十分な視界とは言えない薄暗さだ。

 ぼんやりしていると、はぐれてしまいそうである。


「マレイちゃん、平気?」


 狭い廊下を歩いていた時、隣を行くトリスタンが、唐突に話しかけてきた。柔らかな声色だ。


「えぇ、もちろん」


 私は若干強がって返した。

 だって、今さら弱音を吐くなんて情けないじゃない。


「暗いけど、怖くない?」

「もちろん」

「本当? 表情が固いけど、本当に怖くない?」


 うっ……。


 あまり突っ込まないでほしい。


「……正直、緊張はするわ。初めてのことだもの」


 私は表情まで繕えるような器用な人間ではない。だから、本心が顔に出る。強がりを言ったところで、トリスタンにはばれてしまうだろう。


 だから、偽りの言葉を述べるのは止めることにした。

 私の顔をよく見ているトリスタンの前では、嘘など、何の意味も持たない。


「戦いなんて、したことがないもの……」


 ほんの数週間前まで、宿屋の従業員として働いてきたのだ。

 こんな未来、想像してもみなかった。


 すると、トリスタンはいきなり、私の手を握ってくる。「安心して」と言って微笑みながら。

 相変わらず、驚くべき唐突ぶりだ。


「僕がいるから大丈夫。もし危なくなったら、僕がマレイちゃんを護るよ」


 そして最後に、くすっと笑って、「あの時みたいにね」と付け加える。いたずらな笑みを浮かべるトリスタンは、どこか子どものようにも見えて、愛らしかった。



 化け物の襲撃を告げるけたたましい警報音が、私の身を引き締める。この騒がしい警報音にもそろそろ慣れてはきたけれど、戦闘員の一人として聞く、という意味では新鮮だ。


 トリスタンは既に、白銀の剣を抜いている。


「もし敵が来たら、マレイちゃんは僕の後ろから援護してね。基地付近だし、多分まだ当分来ないと思うけど」

「えぇ。やってみるわ」


 私たちの持ち場は基地付近だ。

 ほぼ基地内と言って差し支えのくらいの位置なので、かなり後方である。


「光球でいいからね」

「分かったわ」


 そのくらいなら私にもできるかもしれない、と思った。


 初陣をただの恥さらしで終わらせるわけにはいかない。トリスタンのためにも、帝国軍のためにも、少しでも役に立たなくては。


 そうでなくては、私がここへ来た意味がない。



 ——それから十数分後。戦いの時は、唐突にやってきた。


 私とトリスタンの前に化け物が現れたのだ。

 化け物は狼のような姿をしていた。四足歩行で、赤い歯茎を剥き、白い牙が目立っている。私は見たことのないタイプの化け物だ。


「来たね」


 白銀の剣を改めて構えるトリスタン。

 その表情は、固く、真剣さに満ちている。


「いいね、マレイちゃん。あまり前へ出ちゃ駄目だよ」

「え、えぇ」


 私は怯えつつも頷く。

 何とか気をしっかり持とうとするが、脚の震えが止まらない。


「……気をつけて」


 半ば祈るようにそう呟き、彼の背中を見守る。リュビエの時のようにトリスタンがまたやられたら、と一瞬考えてしまったが、すぐに首を振り、「大丈夫」と自分に言い聞かせた。


 ——刹那。


 狼型の化け物がトリスタンに向かって走り出す。爛々と輝く瞳と、鋭い白色の牙が、大迫力だ。離れたところから見ているだけでもゾッとする。


 しかし、トリスタンは冷静そのものだった。


 狼型化け物が飛びかかってくる瞬間に狙いを定め、彼は、白銀の剣を下から上へと一気に振り上げる。輝く刃が化け物の身を裂く。


「よし」


 トリスタンは納得したように小さく漏らす。


 だが、それだけでは終わらなかった。トリスタンが襲いかかる狼型化け物を斬った直後、周囲に何匹もの狼型化け物が現れたのである。

 一匹で突っ込んでくるただの馬鹿ではなかったらしい。


「囲まれてるわ!」


 すぐには気づけなかったのだが、狼型化け物は、私たちを取り囲むような位置についていた。


「ど、どうする?」

「どうもしない。撃退するだけだよ」

「でも、数が多いわ」


 額に冷や汗が浮かぶのを感じる。

 敵に取り囲まれているという事実は、私の強くはない心をぐりぐりと痛めつけてきた。


「マレイちゃんは光球を連射して、化け物を極力寄せ付けないようにしてくれるかな」

「分かったわ、やってみる」


 右手首の腕時計に指を当て、トリスタンに指示された通り、赤い光球を放つ。グレイブとの実力試験の時を思い出して、連射し続けた。

 命中率はあまり良くない。というより、もはやほとんど命中していない。撃ち出す光球の八割以上が、化け物本体ではなく地面に当たっていた。


「ごめんなさい、トリスタン! 当たらないわ!」


 威力自体は実力試験の時より上がっている気がする。それは恐らく、実力試験の時より危機的状況だからだろう。だが、いくら威力があろうとも、当たらなければ意味がない。地面に当たったところで、砂煙を巻き起こすだけである。


「大丈夫、続けて」


 トリスタンは冷静だった。そして、彼が冷静でいてくれるおかげで、私も何とか取り乱さずに済んだ。二人でいたことは正解だったと思う。


 狼型化け物は恐ろしい。


 だが、きっと大丈夫だ。


 私は心を落ち着けるよう意識し、赤い光球を放ち続けた。

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