Deprecated: The each() function is deprecated. This message will be suppressed on further calls in /home/zhenxiangba/zhenxiangba.com/public_html/phproxy-improved-master/index.php on line 456
暁のカトレア - episode.80 覚悟を
[go: Go Back, main page]

表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁のカトレア  作者: 四季
5.シブキガニとダリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/147

episode.80 覚悟を

 ゼーレに向かって駆け出した、ネコ耳の少年クロ。

 彼はベッドの方へ接近しながら、両の手の爪を伸ばす。これまた信じられないことだが、本当に、爪が一メートルほどに伸びたのだ。こんなことができるとは、もはや人間ではない。


「ばいばーい!」


 クロは、長い爪のついた両手を、ベッドに向けて振り下ろす。


 だがゼーレは、咄嗟にベッドから飛び降りていた。さすがの反応速度だ。しかし着地の際、顔に苦痛の色を浮かべる。


「……くっ」

「あははっ。痛そーだねー」


 笑いながらすぐに再びゼーレの方を向くクロ。


「次、いっくよー!」


 クロはさらに迫ってくる。

 ゼーレはまだ立てない。ボスにやられた傷が深いからだろう。


 このままではまずい——その思いが、私の体を動かした。


「止めて!」


 ゼーレとクロの間へ入る。

 しかし、本気でゼーレを狙いに来ているクロが、動きを止めるわけもない。鋭い爪が私の胸元へと近づいてくる。


「カトレア!」


 耳に飛び込んできたのは、緊迫したゼーレの声。


 クロの素早さは、私の想像を遥かに越えていた。腕時計に指を当てる時間なんて、あるわけがない。だが、何としても直撃だけは避けなくては。その一心で、私は体をひねる。


「……あっ!」


 結果、クロの長い爪は、私の左腕と脇腹を抉った。


 赤い飛沫が視界に散る。

 一瞬後から襲ってくる痛みに、そのまま倒れ込んでしまう。


「カトレア!」


 ゼーレの声が再び耳に飛び込んできた。


「何をしているのです! 馬鹿ですか、貴女は!」


 その声は、らしくなく荒れている。いつもとは違い、激しい調子だ。


「あっちゃー。やっちゃった。お姉さん、ごめんねー?」


 起き上がろうとしている私に、クロは軽いノリで声をかけてきた。さほど悪いとは思っていなさそうな雰囲気である。


「でもぼくは悪くなーいよー。お姉さんが急に入ってきたせいなんだからねっ」


 ……やはり、反省していない。


 だが、こんなことをしている場合ではない。クロはまたゼーレを狙うだろうから、早く体勢を立て直さなくては。


 しかし、体が思い通りに動かなかった。

 脇腹の方はまだしも浅いが、左腕に負った傷は結構深そうだ。少なくとも、私が今までに受けた傷の中では、一番の酷さである。


 ただ、それでも止まってはいられない。


 私は可能な範囲で上半身を起こし、左手の指を腕時計の文字盤へと当てる。そして、右腕をクロへと向けた。


「なーんのつもりかなっ? お姉さんったら、ぼくに攻撃する気ー?」


 クロはまだにこにこしている。余裕どころか、私のことなど微塵も警戒していない様子だ。

 これだけ油断している相手なら、もしかすれば、一撃くらいは当てられるかもしれない。倒せるかどうかは別として、退けられる確率はゼロではないはずである。


「おもしろーい。お姉さんって、冗談が楽し——」


 最後まで言わせないタイミングで、光球を叩き込む。

 しかしクロは、高いジャンプでしっかりかわしていた。


「って、もしかして本気ー?」


 近距離から仕掛ければ命中するかと思ったのだが、そう簡単にはいかないようだ。だが、一度で諦める私ではない。


「これってー、もしやもしやー、冗談じゃなかったってことなのかなっ?」

「……ゼーレを狙うのは止めて」


 その瞬間、クロのネコ耳がピクッと動く。


「へー。お姉さん、結構言うんだね。面白いや」


 ——直後。


 クロがその場から飛び上った。

 その赤い瞳は、今度は私を捉えている。どうやら、狙いが私に変わったようだ。良いのか悪いのかはよく分からないが、これでゼーレは助かるかもしれない。そういう意味では良かった、と私は思った。


 両手の爪を下へ向けながら、私の頭上から下りてくるクロ。


 私は咄嗟に体を動かし、立ち上がれないままではあるが、彼の着地を避けた。危ないところではあったが何とか回避。爪の餌食にはならずに済んだ。


 だが、ゼーレと分断されてしまう。


「気に入ったから、お姉さんを先にやっちゃうねっ」


 クロは標的を完全に私に変えた。

 危険は伴う。けれど、私が相手なら、殺しにはこないだろう。生かしてはおくはずだ。

 本気でかかってこられない分こちらが有利——なんて思ってはいたのだが。


「うあっ!!」


 見えないほどの速度で接近してきていたクロ。

 その爪が、再び私の左腕を切り裂いた。


「カトレア! すぐに止めますから!」


 ゼーレの声だ。だが、物凄く遠くで聞こえたような気がする。


「さっせなーいよー」


 クロは愉快そうに言った。


 それから彼は、白いネコを大量発生させる。

 普通のネコのようにも見えるが、一斉にゼーレの方へ向かっていったことを思うと、恐らくは化け物の一種なのだろう。ネコ型化け物といったところか。


「お姉さん。これでぼくと二人きりだよっ」


 確かに、クロの言う通りだ。

 あれだけのネコ型化け物に邪魔をされては、いくらゼーレといえども、こちらにまで手を回せはしないはず。

 もはや私とクロの一対一。これは結構まずいことになってしまった。


「大人しくしてねっ」

「い、嫌よ!」


 こんなものはただの強がりにすぎない。だが、こうでもしていないと、心が折れそうになるのだ。だからこうして、強気な発言をする外ないのである。


「そっかー。じゃあ仕方ないねっ」


 楽しそうに言いながらさらに近づいてくるクロに向け、赤い光線を放った。しかし、やみくもに放った光線が命中するはずもなく、いとも簡単にかわされてしまう。


 迫るクロの爪。

 もはや私に反撃の手などありはしない。


「動かなかったら、苦しまずにすーむよっ」


 苦しまずに済む——ほんの一瞬だけ、その方がいいのではと思ってしまった。


 このまま痛みに苦しみ続けるより、終わってしまった方が幸せなのではないか、と。


 けれども、私の本能は、それを許さなかった。


「……いいえ」


 まだだ。私はここで終わるわけにはいかない。

 しなくてはならないことや、したいことが、私にはまだたくさんあるのだ。


「貴方の思い通りになんてならない!」


 私は覚悟を決めた。

 クロを倒す、という覚悟を、だ。


 彼との距離は数メートルしかない。数秒後には爪が突き刺さることだろう。

 しかし、爪が刺さることはもう怖くない。いや、怖くないと言えば嘘になるが、それよりも「クロを倒す」という決意の方が強いのだ。目的を達成するためなら、痛みなど厭わない。


 私はただ、クロの姿を懸命に捉えるように努めた。


「おしまいだねっ!」


 ——来る。


 狙うのは、クロの爪が私の体に刺さる直前。

 つまり、彼の気が緩む瞬間だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ