閑話 専属侍女ルナの華麗なる考察 其の二 ~新たなる人物との邂逅について~
今回は久しぶりに、専属侍女ルナの止まらない心のつぶやきをお贈りします。
私の名はルナ。
オンタリオ家にお仕えして十年超。
ハルカお嬢様の専属侍女として、日々お嬢様の幸せを第一に考える忠実なる僕である。
さて、前回は「お嬢様に相応しい婿」について熱く語らせていただいた。
あれから時は流れ——グランフェルト領訪問を終えた今、私は再び筆を取る。
なぜか?
理由は簡単 —— 新たなる婿候補が登場したからである。
◇◇◇
まずは、近況報告から始めよう。
雪像祭りの成功。
澄み酒を初めとする、特産品の開発と普及。
王都、及びグランフェルト領への訪問と交流。
そして——魔法の上達と岩塩鉱床の情報入手。
お嬢様は、またしても素晴らしい成果を上げられた。
流石としか言いようがない。
私のお嬢様は、本当に完璧だ。
だが——。
私が注目すべきは、そこではない。
今回の旅で、重要な出来事があった。
それは——。
新たな独身貴族たちとの出会いである。
◇◇◇
では、今回新たに出会った方たちを、一人ずつ見ていきたいと思う。
お嬢様とアーサー様が、王宮で顔を合わせた重要な人物たち。
まずは——。
レイノルド・エヴァーランド第一王子(十二歳)
アーサー様の兄君。
次期国王となられるお方。
婚約者は、アルトリウス公爵家令嬢ソフィア様。
つまり——婿候補としては除外である。
だが、重要な人物であることに変わりはない。
なぜなら、関係を修復された今、今後のアーサー様の選択に大きな影響を及ぼしてくる可能性があるからだ。 ——これについては、後ほど詳しく考えてみたいと思う。
次に、レイノルド殿下の側近たちについても見てみよう。
殿下には、三名の側近がいる。
一人目:エドウィン・アルトリウス様(十五歳)
アルトリウス公爵家次男。
父は財務長官。
殿下のご婚約者ソフィア様の兄君。
冷静沈着、知的。
政治的駆け引きに長ける。
お嬢様との接点は——ほぼなし。
婚約者あり。
よって、婿候補としては除外。
二人目: リオネル・ヴァンダイク様(十二歳)
ヴァンダイク侯爵家次男。
父は王国宰相。
冷静で計算高く、観察眼が鋭い。
父から受け継いだ情報網を駆使した情報収集・分析に長ける。
闇属性魔法の使い手(希少)。
「影の参謀」として、殿下を支える存在。
お嬢様との接点は——ほぼなし。
婚約者あり。
よって、エドウィン様同様、婿候補としては除外。
三人目:セシル・ローゼンベルク様(十三歳)
ローゼンベルク伯爵家嫡男。
アーサー様の従兄。
そして——前回の王都訪問時にお嬢様と接触。
しかも、お嬢様からお手製クッキーを貰ってしまった!
これは、重要だ。
なぜなら、お嬢様のお手製クッキーの美味しさを私は知っている。
あれを食べてしまえば、間違いなく誰もがお嬢様に好意を持ってしまうだろう。
私は、すぐに調査を開始した。
専属侍女として、お嬢様の周囲の人物を把握するのは当然の務め。
セシル様について徹底的に調べ上げねば!
◇◇◇
【セシル・ローゼンベルク様 調査報告】
★基本情報
- 年齢:十三歳(お嬢様より六歳年上)
- 家柄:ローゼンベルク伯爵家嫡男
- 父:ロデリック・ローゼンベルク(騎士団副団長)
- 母:エレノア・ローゼンベルク
- 弟:フェリックス・ローゼンベルク(九歳)
★家系について
ローゼンベルク伯爵家は、代々騎士団を統率する武官系名門。
亡きローズ王妃の実家である。
つまり——レイノルド殿下とアーサー様の母方の親戚筋。
爵位は「伯爵」だが、騎士団への影響力は絶大。
ただし、経済力や政治力では公爵家や侯爵家に劣る。
★立場
レイノルド殿下の側近。 将来の騎士団長候補。
第一王子の側近という立場は、将来的に非常に有力。
レイノルド殿下が次期国王となれば、セシル様の影響力も増大する。
★性格
豪快で裏表がない。
熱血漢。
義理人情に厚い。
レイノルド殿下を「殿下」と呼びつつ、プライベートでは「レイ」と呼ぶほど親しい。
アーサー様のことは「可愛い従弟」として気にかけている。
ラオウ様に憧れており、「いつかオンタリオ領に遊びに行きたい」と公言している。
★ 能力
- 剣術:騎士団伝統の剣術(優秀)
- 魔法:風属性(身体強化が得意)
- 体術:系統だったものは学んでいないが、幼少期から運動神経が良く、喧嘩は強い
- 学問:普通
- 政治:普通
★婚約状況
現時点で婚約者なし。
—— ここは重要だポイントである。
お嬢様の婿候補として一考の価値はあるかもしれない。
よし、暫定的にリストに追加しておくことにしよう。
◇◇◇
ではここで、改めて現在の婿候補を整理しよう。
1. アーサー・エヴァーランド第二王子(七歳)
前回評価:65点
現在評価:70点
成長している。間違いなく成長している。
特産品作りや岩塩鉱床探索における情報提供。
『ウィンドシールド』や『紅蓮』の習得。
そして——兄レイノルド殿下との和解。
ここ最近は、法や行政機構にも強い関心を示している様子。
この数ヶ月で、アーサー様は確実に「前」へ進んでいる。
だが——。
だが、である。
最近、アーサー様の様子が少し変わった。
レイノルド殿下から手紙が届いて以降、時折物思いに耽っておられる。
王都やグランフェルトで王族と間近に接し、何か気づきを得たように見受けられた。
そこへきてレイノルド殿下の手紙。
詳細は分からないが、何かを悩んでおられる。
そう、私の第六感が告げている。
ひょっとして、アーサー様は王宮に戻りたくなったのだろうか。
やはり、血のつながった家族と共に暮らしたい——まだ七歳のアーサー様であれば、ごく自然な思考の流れだ。
長年の誤解も解け、脅威も去った今となっては、王宮へ戻ることに大きな障害はない。
そう考えると、今後の展開として、いくつかの可能性が思い浮かぶ。
♦︎可能性その一:アーサー様が家族の元へ戻り、王族として生きる
ソルティスの脅威が下がり、家族との和解も果たした今であれば、王宮に戻り、改めて王族として生きていく道もあるだろう。
その場合、お嬢様との関係は
「第二王子と、その後ろ盾となる貴族家のご令嬢」
という立場に変わる。
そうなれば、同様に後ろ盾となれる有力貴族のご令嬢と、政略結婚話が浮上する可能性も高い。
お嬢様が領主の道を諦めない限り、お二人が結ばれる可能性は、極めて低くなるだろう。
♦︎可能性その二:現状維持
お二人が成人するまで、これまで通りオンタリオで共に暮らす。
その間に関係が進展すれば、ご結婚に至る可能性は高い。
ただし、婿入りか嫁入りかといった点で、問題が生じることは容易に想像できる。
いずれにしても、政治が絡む話であり、私の出る幕ではない。
私はただ、お嬢様と旦那様方の判断に従い、お嬢様と行動を共にするだけだ。
♦︎可能性その三:お嬢様が、アーサー様以外の方を選ぶ
この場合は……致し方ないだろう。
アーサー様には速やかに王宮へお戻りいただき、
お嬢様には、ご自身で選ばれた方とオンタリオで幸せになっていただく。
お相手の方が、私がお嬢様の側に在ることを認めてくださるのであれば、私としては何の問題もない。
もっとも、お嬢様がお選びになった方であれば、きっと理解してくださるはずだ。
——そう考えていくと、この選択肢が、案外、誰にとっても一番幸せなのではないかと思えてきた。
いずれにせよ、現時点では判断できることではない。
引き続き、厳重に状況を観察していくことにしよう。
さて、一人目の候補について長々と語ってしまったが、そろそろ他の候補についても見てみよう。
現在候補として挙がっているのはあと二人。
2. レオ(十一歳・修行中)
前回評価:50点
現在評価:保留
レオは、現在山で修行中である。
まずは三年間の修行。
だが——それ以上になる可能性もある。
オンタリオ流体術の習得。
彼の覚悟は本物だと、私は認めている。
ただ、本当に習得して帰ってこられるのかは、まだ分からない。
それゆえに、現在は評価不可能。
戻ってきた時、彼がどれほど成長しているのか。
それ次第である。
もしも——。
もしも彼が、ラオウ様のような武人に成長していたなら。
評価は、一気に跳ね上がるだろう。
私としては、かわいい弟分でもあるレオのことを、応援したい気持ちもある。
戻ってくるのが楽しみだ。
3. セシル・ローゼンベルク(十三歳)
今回初登場:評価60点
さて、新たな候補である。
セシル様。
基本調査の結果は、先ほど記した通り。
それら情報から導き出されるポイントを以下に整理してみた。
【良い点】
その一:家柄と立場
ローゼンベルク家は、武官系の名門。
騎士団への影響力も大きい。
お嬢様の婿として、申し分ない。
その二:性格
豪快で裏表がない。
この性格は、お嬢様との相性が良い。
お嬢様も、真っ直ぐな人を好まれる。
その三:アーサー様との関係
アーサー様を「可愛い従弟」として気にかけている。
これは、重要なポイントだ。
お嬢様は、アーサー様を大切にしている。
その想いを理解し、共有できる人物——これは、大きなプラス要素である。
但し、セシル様が選ばれた後、アーサー様とのご関係がどうなるのかは未知数。
最悪、お二人の仲が拗れたとしても、セシル様は王太子であるレイノルド様の側近。きっとレイノルド様が間に入ってくださると信じている。
その四:武人としての適性
ラオウ様に憧れている。
剣術に優れ、運動神経が良く、喧嘩も強い。
武官系名門の嫡男として、将来的には騎士団の中核を担う人物になれるだろう。
王都での模擬戦では、ヒロに瞬殺されてしまったが、伸び代はある。
これからの頑張りに期待することにしよう。
【懸念点】
その一:年齢差
六歳差。
貴族の結婚では許容範囲だが——。
お嬢様はまだ七歳である。
セシル様が十三歳。
現時点で、恋愛感情が芽生える可能性は低い。
その二:接点の少なさ
今回、初めてお会いした。
今後、どれだけ交流が増えるか。
これが、重要である。
そういえば、先日お嬢様宛にセシル様からお手紙が届いていた。
内容は分からないが、お嬢様が楽しそうにお返事を書いていたことを思えば、今後もこういったやり取りが続けられる可能性は高い。
そうなれば、セシル様との関係に変化が訪れることもあるだろう。
その三:お嬢様への好意
セシル様は、ラオウ様に憧れている。
オンタリオ領に「遊びに行きたい」と言っているのは——。
正直なところ、「ラオウ様目当て」である可能性が高い。
だが、オンタリオに訪れる機会が増えれば、自然と交流も増える。
お嬢様への好感度も、必然的に上がっていくに違いない。
その四:私を認めるかどうか
ここが一番重要な点である。
これが認められないとするならば、私は全力でお嬢様に対し、セシル様のネガティブキャンペーンを展開しなくてはならない。
だから是非、理解していただきたい。
お嬢様には必ず私が付いてくるということを——それが、お嬢様のお相手として必要不可欠な条件であるということを。
【総評】
スペックは申し分ない。
性格も悪くない。
嫡男ではあるが、弟君もいらっしゃるので婿入りも可能。
だが——。
まだ「婿候補」として見るには、決め手に欠ける。
しかしながら、今後の交流次第で、評価は大きく変わる可能性もある。
引き続き、彼の動向には注視していこう。
◇◇◇
今後の展開として予想される出来事としては、
社交界デビュー。
学院生活。
そして——アーサー様の選択。
この三つが、大きな鍵となるだろう。
もしもアーサー様が王宮に戻られ、お嬢様と離れることになるのなら——。
セシル様の存在感が増す可能性がある。
もしもレオが、圧倒的な強さで戻ってくるなら——。
レオの評価が跳ね上がる可能性がある。
そして——。
もしもアーサー様が、お嬢様を選ばれるなら——。
私の見たところ、お嬢様はまだどなたに対しても『恋情』をお持ちではないように思う。
ただ、これからは学院や社交界で多くの殿方と接していくことになる。
お嬢様自身も、心身ともに日々成長されている。
やがて、お嬢様自身がご自身の幸せのために『選ぶ』日がくるだろう。
その日が来るまで、いや、その日が来たとしても、
私は変わらずお嬢様の傍で、お嬢様と共に在ろうと思う。
そして——。
誰を選んだとしても、どの道を選んだとしても、お嬢様が笑顔でいられるように。
全力でサポートしていく。
それが、私、専属侍女ルナの使命である。
少しお休みをいただいて、次回より第四章スタートです!
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします╰(*´︶`*)╯♡