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探偵など要らない学園生活 - 経験 或いは影響
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探偵など要らない学園生活  作者: 塚山 凍
Case 6 ホラーの対象事件

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経験 或いは影響

 最初、俺は久しく聞いていなかったその名前に、多少目を瞬かせた。


 学校の怪談。

 中学生になって以降、めっきり聞いていない単語だ。

 小説や漫画、アニメの類ですら、ここのところ触れられていない節すらある、古典的な話である。

 大流行したのは、きっと俺たちが小学生だった頃よりも、さらに昔のことだろう。


 しかし勿論、流行りの世代ではなかったとはいえ、俺もそれが何なのかは知っている。

 知らない人の方が、少ないかもしれない。


「……あれか?トイレの花子さんとか、口裂け女みたいな」

「んー、口裂け女の方は、ちょっと違う都市伝説な気もしますけど、だいたいそんな感じです」


 唇に指をあてながら、早見妹は一度頷く。

 そして、いい加減立っているのにも飽きたのか、イートインスペースの椅子を引いて、ちょこん、と座った。

 どうやら、長い話になるらしい。


 それを察した俺は、とりあえず早見妹と同じように椅子を引く。

 弁当が冷めるし、試験勉強がかなり遅れるが────まあ、このくらいのロスは大丈夫だろう。

 ただの勘だが。


「要するに、小学校とかで流行りやすい、その学校を舞台にした怖い話たちですけど……例えば、葉さんが小学生の時は、何か代々伝わっているような話、ありました?」

「あったような、無かったような……」


 今一つ思い出せず、俺は首を捻る。

 一つくらいあったような気もするが、特になかったような気もする。


 俺が小学生の時だから、せいぜい四、五年前の話だというのに、覚えは悪かった。

 ある意味では、仮に怪談話があったとしても、そのくらいの認識しかされない程度だった、ということだが。


「そうかー……。まあ、最近はあんまり怪談が流行る感じでもないですしね。そんなものかもしれませんけど」

「それで?わざわざこうやって話題に出したってことは……」

「はい。最近、聞いたんです。というか……」


 そこでしばしの間、早見妹は言葉を躊躇った。

 しかし、そのうちに躊躇いよりも好奇心の方が勝ったらしい。

 意を決したようにして、彼女はそれを述べ始めた。


「私、学校の怪談の中に出てくるお化けと、()()()()()()()()()






<早見百の証言>


 さっきも言いましたけど、私、つい最近中間テストが終わったんです。

 この前の木曜日と金曜日の話なんですけどね。


 ええ、それは良かったんです。

 テストが終わるのは、やっぱり嬉しいことですから。

 ただ、高校生はどうか知りませんけど、うちの中学校の場合、テストの日って言うのは、多少厄介でしてね。


 まあ、何というか、ほら、テストが終わった日って、やっぱり皆、開放的になるじゃないですか。

 やっと終わったぞ、ひゃっほーって感じで。

 今日は夜中まで遊ぶぜーって。


 それは別に良いことだと思うんですけど、私の先輩の世代──二、三年前の三年生だったそうです──がそうやって遊んで、大きな事故を起こしたことがあるらしくて。

 そのせいで、うちの中学、変な校則が出来たんですよ。


 どんなルールかって?

 それはですね……笑わないでくださいよ……「テストが終わった日は、社会に貢献する活動をすべし」っていう校則。

 まあ、平たく言えば、ボランティアですね。それをやれ、と。


 ……正直に言えば、面倒くさい話ではあるんですけどね。

 こっちだって、出来ればさっさと遊びたいし。

 こんな気持ちでボランティアに行くというのも、アレだと思うんですけど。


 ただまあ、校則は校則ですから。

 テストが終わった金曜日────私、隣町にある小学校に、ボランティアに行ったんです。

 尤も、私ももう二年生ですから。

 このボランティア自体は慣れていたので、気分的には楽でしたけど。


 そうやって向かった小学校────そこが、学校の怪談が流行っている、小学校でした。


 えー、それで、怪談について話す前に、ボランティアの内容について話しておきますけど。

 平たく言えば、お楽しみ会のお手伝い、でしたかね。


 そこの小学校、月一くらいの頻度で、学年ごとに集まってお楽しみ会を開くらしくて。

 ほら、皆で集まって、ゲームとかクイズとかをやる、あの会です。

 ああ、葉さんも覚えがありますか。

 それのお手伝いをする、というか、子どもたちと一緒になってその手のゲームをするっていうのが、その日の私の仕事でした。


 まあ、ゲームやらクイズやらは、この際関係無いです。

 行ったこと自体は、物凄くありふれたものでした。

 何というか、どこの小学校でもやっていそうな、普通のレクリエーション。


 問題は、それが、ものすっっっっっごく、盛り上がらなかったことです。


 いや、本当に凄まじかったですよ、会場の空気。

 よく、出し物がウケなかった時、それを「滑る」、とか「しらける」とか言いますけど、あの時の空気はその域にありませんでしたね。

 南極でも、もうちょっと暖かいんじゃないかってレベルで寒々しい、物凄い状態でした。

 余計なお世話でしょうけど、必死に盛り上げようとする先生の方が可哀想になってくるくらいで。


 一応言って置きますけど、このボランティア、いつもこうってわけじゃないんですよ。

 さっき言ったように、私、これまで何度かこのボランティアをしてきたので、間違いなく言えます。


 普段は、本当に子どもらしく、盛り上がる会なんです。

 その日の盛り上がりの無さ────子どもたちが、あまりにも上の空になっている状況は、あまりにも変でした。


 だから、聞いてみたんです。

 適当に、子どもたちの一人に話しかけてみて。

 何を、気にしているのかなって。


 私、昔からこういうことには敏感というか、結構気になる性質なんです。

 気になることは、とりあえず聞いておく。

 知らない相手にでも。


 まあ、好奇心が強いんでしょうね。

 葉さんも、この前の猫の話で知っているかもしれませんけど。


 ただ、その日、子どもたちに聞いた時点では、明確な回答が出てくることは、あまり期待していませんでした。

 こう言うと、上から目線になっているように思うかもしれませんけど、所詮は子どもの話ですしね。


 単に、子どもたちがそう言う気分だったのかもしれない。

 或いは、私みたいに、直前にテストでもあって、落ち込んでいるのかもしれない。

 明確な理由なんてなくても、そう言う空気になるって言うのは、有り得る話じゃないですか。


 だから寧ろ、明確な理由が即座に出てきた時は、私の方が驚いたくらいです。


「……ボボさんが、出るから」


 子どもたちは皆、口をそろえて、そう言いました。








「ボボさん?何だ、それ?」


 話の腰を折るのは悪い、とは思いつつも、俺はそこで声をあげた。

 聞き慣れない単語に、気を惹かれたのだ。

 早見妹も俺が気になった理由が分かったらしく、どことなく手慣れた様子で説明する。


「私も別に深く聞き出したわけじゃないんですけど、何というか、学校に出没するお化けの名前らしいですね。それこそ、トイレの花子さん、みたいな」

「ボボって言うのが名前か……」

「まあ、あの手の怪談って、間違いなく人名じゃないような名前がついていることはよくありますしね」


 少し笑って、早見妹は手に持っていた飲み物を口に含む。

 その様子を見ながら、俺はポケットからスマートフォンを取り出す。

 一応、その「ボボさん」について、検索しておこうと思ったのだ。


 怪談を口伝でしか広めることが出来なかった昔とは違い、今は情報化社会である。

 身もふたもないが、有名な怪談であれば、検索すれば出で来る。

 何なら、その話の元ネタすらわかるくらいだ。


 だから、けっこう広まっている話ならヒットするのではないか、と思ったのだが────。


「……無いな」

「でしょう?」


 既に実行していたらしく、早見妹が確認する。

 その言葉通り、スマートフォンの画面に、怪談の名前は一つも出てこなかった。

 せいぜい、たまたま名前が一致する芸能人の名前が出てくるくらいである。


「他の人にも聞いたんですけど、本当に私が行った小学校でしか広まっていない話らしいです」

「……そんな、マイナーな怪談を、全員が信じているのか?」

「そうです。お楽しみ会を楽しめない程、信じていました」


 そう言いながら、早見妹は話を続けた。

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