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探偵など要らない学園生活 - 来客 或いは展開
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探偵など要らない学園生活  作者: 塚山 凍
Case 7 双子のどちらかに恋をした事件

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来客 或いは展開

 双子、という存在が、この世にはいる。

 この世にはいるも何も、そこそこの頻度で見られる兄弟姉妹のバリエーションの一つではあるが。

 それでも、「私たち、双子なんです」と言えば、へえ、驚いた、と言った感想が帰ってくる程度には、珍しがられる社会記号だ。


 そして、現実で珍しがられる記号的特徴ほど、よく取り扱われやすくなるのがフィクションの世界である。

 古来から、双子の登場人物、というのは様々な作品に登場してきた。

 登場人物が多い作品などでは、必ずといって良い程出現する。


 考えてみれば、双子、というものを属性として捉えてみれば、これは中々便利なものである。

 現実に置いて普通にあり得る存在でありながら、いくつものフィクションならではの展開を作ることのできる、秀逸な舞台装置。

 この辺りに、数多の小説やドラマに双子の登場人物が現れる理由となっているのだろう。


 ────しかし、推理小説においては、少しばかり、事情が異なる。

 およそあらゆるフィクション作品で歓迎される双子の登場人物だが、彼らは推理小説の世界においてのみ、歓迎されない。

 いや、はっきり言えば、忌避されている。


 この理由は簡単だ。

 双子というのは、トリックを作るにあたって、便利すぎるからである。


 極端な話、双子──特に一卵性双生児──という設定を使えば、あらゆるトリックが可能となる。

 可能と、なってしまう。


 双子の片方に外を歩かせ、もう片方が犯罪を犯せば、アリバイトリックが。

 双子がいることを読者に伏せる形で、双子の片方が一人語りをすれば、叙述トリックが。

 双子の片方が部屋の鍵を持ち、もう片方が鍵など無い、と言えば、密室トリックが可能となるのだ。


 トリックというのは難儀なもので、便利すぎると、推理小説家としては困ってしまうのだ。

 何しろ、どんな不思議な謎であろうと、「実は容疑者には双子の弟が……」とやれば、いかようにでも理由付けができる。

 物語としての面白さを、かなり減じることにはなるが。


 この便利すぎる──もっと言えば、いくらでも後付けが出来てしまい、読者に対してフェアではない──特性から、推理小説に置いて双子の犯人が扱われることは少ない。

 仮に扱われるとしたら、最初から読者に明示される場合が殆どだ。


 ……ただ。

 こうやって双子と推理小説について語る際、いつも思うことがある。


 前提を覆すことになるが────そもそもにして。

 仮に一卵性双生児だったとしても、周囲の人間が、全く二人の見分けがつかない、というのはあり得るのだろうか?


 例えば、現実の一卵性双生児などは、顔は完全に同一らしい。

 しかし、細かな癖や仕草から、両親などは完全に二人を見抜くこともあるという。

 いくら遺伝子が同じでも、成長次第で人はいくらでも変わる、ということだろう。


 また、当たり前だが、あまりにも見分けがつかないとややこしいため、本人たちも髪型や服装を、もう片方のそれとは違うものにすることが多いらしい。

 それによって、そこまで親しくない人でも見分けがつくわけだ。


 尤も、この違いだって、完璧なものとは限らない。

 双子の両親だって、寝ぼけていれば見分けがつかないかもしれない。

 親しい友人だって、場合によっては間違うこともあるだろう。


 ある意味で、双子の周囲に居る人は、常に「日常の謎」に取り組んでいる、ともいえるかもしれない。

 自分が今話しているのは、双子のうちどちらなのか、と。


 今回の件で、日常探偵研究会は、まさにその「日常の謎」と関わることになる。













 ────今までさんざん述べたことだが、日常探偵研究会の部室は、概ね静かなことが多い。

 高校生の部活動ということを考えれば、殆ど無音、と言って良い程の静けさである。


 この理由は、偏に部員の性格に由来する。

 まず、部長である霧生が、会話をあまりしない。

 推理の時こそ饒舌だが、それ以外は口を開かないことが大半だ。


 次に、部員その一、すなわち俺。

 俺もまた、大して喋ることがない。

 そもそも、本を読んでいる時は集中しているので、口を開くような気分にならない。


 最後に、部員その二である早見。

 彼女も──俺としては結構意外だったのだが──あまり部室内では喋らない。

 興味がある本を読んでいるか、スマートフォンを黙って弄っているか、だ。


 場合によってはイヤホンを付けて音楽を聴いている時もあるが、この時も鼻歌すら漏らさない。

 もっと言えば、彼女はその広い交友関係のためによく電話がかかって来るが、通話の際は部室を出て、外で会話してくれてさえいる。


 言って置くが、会話を禁じるようなルールがあるわけでは無い。

 誰かに向かって「うるさい」と咎めたことも無い。

 また、会話を求められた時に明らかに不機嫌になるだとか、そう言った付き合い上の問題があるわけでも無い。

 何となく、自然に、無言の時間を過ごしているのだ。


 ただ、早見に関しては、俺たちに合わせてくれている、という側面も大きいだろう。

 部室用のキャラにせよ、「素」の方にせよ、恐らく──ただの勘だが──彼女はそこまで会話を嫌う性格ではない。

 寧ろ、本当はお喋りが好きな方なのかもしれない。


 だが、俺と霧生が会話をしないのを見て、そちらに合わせてくれている。

 何となく、そんな気がする。


 ……そんな、沈黙を好む空間に置いて。

 珍しく大きな音が響いたのは、六月の半ば頃。

 じわりじわりと蒸し暑くなってきた、梅雨の最中のことだった。




 珍しく、扉の近くで大きな足音が聞こえ、俺はふと顔を上げる。

 丁度読んでいた小説の展開が一段落付き、集中力が落ちていたのもその要因だった。

 何となく、気になったのだ。


 というのも、入部してからわかったことだが、この部室、すなわち第二図書室は、びっくりするほど人が来ない。

 理由としては、この階は図書室や職員室などが集められ、生徒が普通の授業で使う教室がないこと。

 加えて、用がある人間も、大半がこの部屋の手前の第一図書室へ向かうことが挙げられるだろう。


 このために、部室の扉にまで足音が聞こえてくる、というのは、それだけで珍しかった。

 何しろ、早見も霧生も既に部室に来ており、部員は全員揃っている。

 普段の活動の範囲内であれば、もうここに来る人間は居ないはずなのだ。


「……誰か来たの?」


 ポツン、と隣で早見が漏らす。

 つられてそちらを見れば、早見もまた、顔を上げて扉の方を見つめていた。

 彼女も彼女で気になったらしい。


 そうこうしているうちに、足音はさらに近くなった。

 パタンパタンという、一回の踏み込みにかなりの力を籠めていることがよく分かる足音。

 その力強さからすると、音の主は男性だろうか。


 その足音が、一気に部室に近づいて────パタリ、と鳴りやむ。

 そこで、しばらく音は止まった。

 まるで何かに思い悩んでいるかのように、一切の動きがみられなくなったのである。


 その間、部室にはいつもの沈黙が戻った。

 だが、それもせいぜいは五分程度の物。

 やがて、部室の扉が小さく揺れ、コンコン、というノックの音が響いた。


「……どうぞ」


 部室の奥から霧生の声が響き、俺はぎょっとして振り向く。

 そこでは、霧生が読んでいる本から一切の視線を外さないまま、返答をしている姿があった。

 どうやら、意識は本から離れていないが、音が聞こえては居たらしい。


「あー、失礼する、いや、失礼します」


 途端に、声変わりを終えた野太い声が響く。

 同時に、ガラリ、と部室の扉が開いた。




 ──誰だ?


 入ってきた影を反射的に見つめ、俺は率直にそう思う。

 入室したのは、一人の男子生徒だった。

 つけているバッヂからすると、同じ一年生のようだが、生憎と見たことがない顔である。

 恐らく、別のクラスの生徒なのだろう。


「あー、その、ここは、日常探偵研究会の部室、だろうか?」


 見つめられた生徒が、緊張した声で問いかけてくる。

 そして、返答を期待して、彼は一度固く口を閉じた。


「……」

「……」

「……」


 一瞬、三人の部員の沈黙が重なった。

 こう言う時、誰が返答すればいいのか分からず、迷ってしまったのだ。


 しかし結局、待たせるのも悪いため、俺が口を開いた。


「ああ、そうだ、ここは日常探偵研究会の部室だ。……何か用か?」


 口調に迷ったのだが、同級生であることは間違いなさそうなので、一応タメ口で返答する。

 俺の勘も、それで問題ない、と言っていた。


 俺の声を聴いた瞬間、目の前の男子生徒が分かりやすく安堵の息を漏らす。

 そして、もう一度口を開いた。


「この研究会は、毎日色んな謎を解いている、らしいな?……頼む。俺の初恋の人を、見つけてはくれないだろうか」

「……は?」

「いや、正確に言おう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、見抜いてくれないだろうか?」


 今度こそ。

 先程までとは別の意味で、全員が押し黙った。

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