トラだーーー!★
レナは駆けていた。
今回ばかりはいつものようにドジをして転ぶ訳にもいかない。
背後からは付かず離れずな絶妙な距離を保ちながら、獰猛なサーベルキャットが追いかけて来ているのである。必死で身体のバランスを取りつつ走っていた。
…キャットでしょう?などと、侮ってはいけない。
なぜキャットと名付けた…!と叫びたくなるほど、普通に虎なのである。大きさは確かに虎にしては小柄で1Mほどだが、もう素直に虎と名付けてほしかった。
もちろん、レナは称号[逃亡者]をすでにセットしている。
いつもよりは駆ける速度は速いが…
しかし、現状ギリギリ追いつかれてはいないのは少女が逃げる様をキャットが楽しんでいるからで、ヤツが本気を出して走ればすぐにでも肉塊がひとつ出来上がるだろう。
それでもレナは走るしかない。
両腕には可愛い従魔全員を抱え込んでいた。
揺れるためか、彼らはきゃーきゃーと騒いでいる。
その声を聞く余裕もなく、この局面をどう切り抜けるか主人は必死に頭を回転させていた。
なぜ、こんなことになっているのか…。
事の発端は数刻前に遡る。
***
トイリアに来てから、早くも7日目の朝を迎えた魔物使いとその従魔たち。
休みなくギルドのGランク依頼をこなしていった彼女らは、ついにランクアップの最終クエストを受けようとしていた。
優秀な魔物の能力と、主人の知恵のおかげで、これまで一度も失敗はしていない。
一つめ、二つめのクエスト内容は皆さんももうご存知なので省こう。
三つめは庭の草刈り、四つめは食堂の清掃クエストをきちんとこなしたのだ。
マジメで堅実な仕事ぶりは、ギルドからも高く評価されている。
ランクアップ条件は、"Gランククエストを連続で5回成功させること"。
そして、記念すべき5つめの依頼。
これには、久々に街の外に出ることになる「薬草採取」の依頼を受けることにした。
常時依頼であるこのクエストをランクアップ条件としてカウントしてもらうには、一日で相当量の薬草を集めるという条件がプラスされる。
そこそこ難しい達成条件だが…レナたちには勝算があった。
薬草の近くには野いちごが自生している事が多く、それを目当てに虫が集まるので、リリーの[魅了]で虫たちを従え薬草の自生する場所に案内してもらおうと考えたのである。
主人に頼りにされたリリーは、嬉しそうに胸を張っていた。
そして、アネース王国の国境門を再び越え、久しぶりに草原に出たレナたち。
さっそく虫を[魅了]し薬草を集め始める。
たまにはこうして外の野生の環境にも触れておかないと、気が緩んでしまうとも考えていた。
小都市トイリアは安全で、人々はレナたちに優しくて、ひたすら居心地がいい場所なのだ。
ぬるま湯のようで…だからこそ、それに浸りきり日和ることが少し不安だった。
いつでも最悪の事態に対応できるよう、自分たちの力を磨いておかなくては、と気を引き締める。
マジメなことを考えながらも、時間が余れば以前のようにハマルドライブで魔物肉を調達しようかなーと、レナはベーコンに思いを馳せて表情をゆっるゆるにしていた。
規定量の薬草を効率よく採取し、早々にクエストの達成条件をクリアした一行。
ここで、重要なポイントである。このような会話がなされていた。
「はぁーー。魔物肉のベーコンって、美味しいよねぇ…」
主人がうっとりと、今朝の厚切りベーコンとレタスのサンドイッチを思い出しながら呟く。
『『うむっ!肉の味が濃くて、大変美味でしたなぁ!』』
『リリーも、あれ、大好きだよー!
肉食獣のお肉なら…どんな味のベーコンに、なるんだろうね…?じゅるり…』
『肉食獣かー、この辺にちょっとならいるねー?
レナ様、食べてみたいー?』
魔物たちも皆、彼女の言葉に同意の返事を返している。肉食獣。それも美味しそうだなぁと、レナはもっと笑顔になった。
「…うん!興味あるなぁー。肉食獣のお肉も美味しそうだよね」
あっ。
…フラグが立つ音が確かに聞こえた気がする。大変ご苦労様である。
さあ!これから魔物を撥ねようか!というベストタイミングで……来てしまった。
いつぞやのクマを思い出させる、鋭い咆哮が草原に響き渡る!
…小さな身体のどこからそんなに大きな声が出ているのかと思うほど迫力があった。
ーーガオオオオオォォォン!!!
声が聞こえたのは、レナたちの背後から。
わざわざ自分の存在をアピールしたのは、弱そうなヒト族を十分にいたぶり遊んでから殺すためだった。
驚いた少女が振り向けば、とんでもないキバを口の端から覗かせてニヒルに笑っている、悪そーな顔つきの小さな虎が駆けてきていた。
「……え"っ…!」
『『きゃーーー!?』』
『…レナ様っ!サーベルキャットだよ、逃げてー!』
『…強そう…!』
こうして、生死をかけた恐怖の追いかけっこが始まったのだった。
「ーーーいや、あれ、虎だよねーーッ!?」
ハマルが巨大化する前にうっかり彼を抱え込んでしまったご主人さまは、もう自分の足で走るしかない。
青ざめながらも、涙を流すヒマもおしんでひたすら足を進めている。
ああ、ハマルの[駆け足]スキルが恋しい。
しかし走りながら羊の背に飛び乗る実力などレナには無かった。合掌。
***
まあ、こういう訳だった。
超幸運ご主人さまのうかつな発言により、ステータスがまたも暴走してキャットを呼んでしまったようである。
確証は無いが…前回の人喰い大クマといい、彼女が望んだ途端に現れるモンスターたち。運が関係しているとみていいだろう。
「ーーーーーッはあ、はあ…ッ!」
早くも、息が切れてきているレナ。
逃げることに必死だ。
地球にいた頃に比べれば、貧弱な現代っ子の体力もだいぶ強化されていたが、もともとのステータス値が低すぎる。
キャットは少女の限界を、余裕の表情でうかがっていた。
ここで足を止めてしまえば、お遊びは終わりとばかりに皆まとめてヤツに捕えられてしまう。
…何か、利用できるものは無いか?
真剣に辺りをぐるりと見渡す。
レナたちはいつの間にか、見通しのいい草原を抜けて、低緑樹と草むらの多い林に迷い込んできていた。
石ころがゴロゴロしていて足場が悪く走りにくいが、地形が特殊なぶん、それらを利用した罠をはることも出来そう…。
勝利を確信したキャットが油断しきっている今が、チャンス!
一度機会を逃したら、もう命は無いと覚悟を決める。
「!」
…レナの走る先の木々がほんの少しだけ開けている。
何故かと目を凝らして見てみたら、地面に大きな水たまりがいくつも確認できた。
水たまりの水面は濃い青に見えており、どのような構造になっているのかは分からないがずいぶん深そうである。
似たような水場がいくつも固まって存在しているため、そこにだけは木が生えなかったようだ。
「…ハーくん…!
この水たまりが、何か、知ってるっ?」
主人は息を切らしながら、腕の中のハマルに尋ねた。
『…多分、水モグラの住処だよー。草原の日陰にも、同じようなのがあったんだぁ。
穴を掘って青魔法で水を貯めて、底でエサの水草を栽培してるのー!
水深は、だいたい2Mくらい?』
「そっか…!」
即座に、水たまりを逃げるために利用しようと、作戦を考え始めたレナ。
…考えがまとまったらしく、従魔たちに小声で指示を出す。
「…うん!逃げ切るための作戦、思いついたよー…!
聞いてくれる?」
『『ガッテン!!』』
『『はーーい!』』
息を切れさせながらも、レナは落ち着いて話す。
「水たまりを利用しようと思う。
…まず、リリーちゃんが[幻覚]で、キャットに目くらましをしかけるでしょっ。
次に、ハーくんが[駆け足]で走って、スライム達を私より早く水たまりまで運ぶ。
クレハとイズミは、そこに行ったら水面に身体を伸ばして[超硬化]…膜をはって。
…私が上を走り抜けても耐えられる?」
『『おまかせあれー!』』
「助かるよ…!
[超硬化]ボディの上を駆け抜けて私が向こう岸に逃げるね。
リリーちゃん。
私が渡る予定の、あの水たまりに…また別で[幻覚]スキルを使って、普通の地面のように偽っておいてほしい。
キャットに錯覚させたいの」
『分かった…!』
「サーベルキャットは、[幻覚]に気付かなければ、水たまりの上をそのまま通るはず…!
クレハとイズミはその時、身体を元のサイズに戻しておいて。
キャットが水に落ちたら、すぐにもう一度伸びて水面をカバーして…[超硬化]するの!
ーー"溺死"させるよっ」
『『うし!ヤったるでぇーーーっ!』』
『…頑張るのっ!』
『おおせのままにー!』
「運要素も強い作戦だけど、今、私が考えられるのはこれが精一杯だったから…。
…うん、絶対成功させようねっ」
『『『『おおーーーー!』』』』
かくして、逃げるための作戦は決定した。
"溺死"とは…
今回も安定のえぐさだが、きれいごとにこだわり悩む時間を作れば、レナたちはヤツに喰われてしまうだろう。
絶対生き残りたいのだ、作戦がえげつなかろうが関係ない。確実性の高いものを選んで、勝つ。
魔物使いちゃんは確実に逞しくなっていた。
すぐ目の前にはもう、たくさんの水モグラの住処が迫ってきている。
一番大きな巣穴を即座に見極めて、遠慮なく利用させてもらうことにした。モグラには悪いが、こちらも命がかかっているのだ。
巣穴の直径は1.5Mほどもあるため、キャットも余裕で落とせるだろう。
「ーースキル[鼓舞]ッ!」
『…スキル[幻覚]!』
『スキル[駆け足]ぃーー!』
お互いを信頼しあっている主従は、もうそれぞれに声かけをする事もなく思い思いのタイミングでスキルを発動させる。
スライムはとりあえず、ハマルの毛にぐにょんとひっ付いた。
リリーの[幻覚]で、サーベルキャットの周りにはうっとおしくまとわりつく黒い靄が出現する。
キャットは身体をブルリと震わせて黒い空間を割くように爪で攻撃してきたが、物理攻撃は効果なし。即座に理解して、すぐに戦法を変え高くジャンプして靄を潜り抜けてきた。
しかし、ヤツがその場に留まって攻撃していた時間のぶんだけ、さっきよりもレナたちの間には距離が開いている。
ハマルはスライムを纏わり付かせたまま[駆け足]スキルを使い、勢いよく主人の元から駆けだす。
水たまりを思い切り飛び越えたその瞬間に、スライムはポロポロと自ら離れて水面に落ちた。
そのまま水の表面でうすーく伸びて[超硬化]。
作戦通り、水たまりにはレナ専用の橋が渡される。
大きくなったボディの端は地面にしっかりと届いているので、主人が乗ってたゆむ事も無さそうである。
リリーが再び[幻覚]スキルを使って、水たまりの見た目を偽の地面に変化させた。
幅広のまっすぐな一本道を、レナが渡り切る…!
キャットはそれを追いかけてまっすぐに走っていき……派手な水しぶきを上げて、水たまりに落ちた。
「今ッ…!!」
『『スキル[超硬化]ーーー!!』』
主人の号令で、スライムが間髪入れずに再び水面に広がって、ダイヤモンドよりも硬くボディを硬化させる。
唯一の逃げ道である水面を閉ざされたキャットは、呼吸が出来ずに苦しそうにもがいていた。
必死で、ごつい爪で何度もガンガンとスライムボディを攻撃している。
「スキル[従魔回復]!スキル[従魔回復]!スキル[従魔回復]スキル[従魔回復]ッ…!!」
過保護なご主人さまはこれでもかと回復魔法をスライムに使用する。
時々、[鼓舞]スキルもついでにとばかりに重ねがけしていた。
リリーがサーベルキャットの魂の灯火を、空中から目を細めて視定めている…。
激しくもがいていたキャットの動きは、だんだんと鈍くなってきた。
口の端から時折りごぼっと溢れていた気泡も、今ではもうほとんど見られない。息を吐き切ってしまったのだろう。
それでも…相手は絶対的な強者。
皆、キャットからは目を離さない。
『…あっ』
ふいに、可愛らしい小さな声が、妖精の可憐な口からこぼれ落る。
花が咲くように柔らかく、彼女の表情が歓喜の色に染まった。
『…ご主人さまぁーー!
サーベルキャットの、魂の光が、いま消えたのっ!
もう、大丈夫だよ。…私たちの勝ちだよぉーー!』
リリーの声を聞いた主人は、しばらく呆けたように口をぽかんと開いて立ち尽くしていたが、徐々に頬を高揚させていくと興奮したように小さく叫ぶ。
「…やったあーーっ!!」
スライムたちが、ぷるるん!と元のグレープフルーツ大の大きさに戻って、レナの元へと駆けつけた。
『『…やりましたな、ご主人さまーー!』』
「うん…!
逃げ切れて良かったぁ。
はあ……ほんと、みんなのおかげだよー。頑張ってくれてありがとうね…!!」
『みんなお疲れさまー。
レナ様もー、頑張ってたよー?』
『『うむ。レナもえらいえらーい!
よしよしー!』』
「うわっぷ…!?」
レナの顔面にスライムがぷよぷよと張り付いている。揺れているのは「よしよし」しているつもりらしい。
『…クスクスッ!
……あ。…ねぇ。
でも、早く引き上げないと、サーベルキャット沈んじゃうよー?』
「…あっ!そうだね」
『『ちぇ。離脱ーーーー!』』
『引き上げますかぁー』
水たまりの側で巨大化したハマルに、スライムが触手ロープになって巻きついて、反対の先端を水中のサーベルキャットの胴に巻きつけ(水中担当はイズミである)、徐々に身体を収縮させていく。
水を含んで重たくなったキャットの体は、水たまりから引っ張り上げられた。
どこにも外傷のないきれいなモンスターの素材は、買取に出せば高い評価を得ることだろう。
…死体に対して、レナは一度だけ両手を合わせる。
自分たちの敵だったとはいえ、亡くなった者への礼儀だと考えていた。従魔もそれを真似る。
そんな彼らの頭を、主人はやさしく撫でてやった。
クレハのドライヤー魔法でサーベルキャットの身体を乾かして、今回は[溶解]はせずに、そのままマジックバッグに収納する。
今まではスマホ検索で肉の部位分けページを見てスライムに解体してもらっていたのだが、さすがに虎肉のページは無かったのだ。
地球にいたころと変わらず使えるスマホを、レナは不思議そうな表情で眺めている。
ふと、空を見上げると、もう薄紫色に染まりかけてきていた。夜が近づいている。
「わ。大変だ…!いそいで帰らなくちゃ。
…ハーくん、お疲れの所申し訳ないけど、大きくなって国境門までとばして走ってくれるかな?」
『おおせのままにー!』
アネース王国の玄関口だけあって、トイリア付近の門の閉門時間は遅めだ。
それでも、大事をとって早めにくぐり抜けておきたかった。
ギルドに今日中に薬草採取の報告をしなければいけないのである。
ご主人さまは、走りすぎてだるくなった身体になんとか鞭打って、激しく揺れるヒツジを乗りこなして街に向かっていった。
乗りこなせなくて軽く酔った。
***
夜になり、閉店間際で人のまばらなトイリア冒険者ギルドにレナたちが勢いよく駆け込む。
街の入り口からは主人本人がダッシュしてきたので、またもぜぇはぁと瀕死状態になっている。
「だ、大丈夫かな…!?
今日は遅くなっても貴方たちが帰ってこなかったから、心配していたのよー」
受付のお姉さんは、レナに優しく声をかけていたわってくれた。
「だ、だぃじょぅぶですぅぅ……はふぅ…ぁ、ぁりがとぅござぃまふ…」
明らかに大丈夫じゃない返答をする新人冒険者の様子を見て、お姉さんは苦笑している。
少し休憩してようやく息を整えたレナは、普通のカバンに入れ替えていた薬草の束をカウンターに置いた。
受付嬢の目の前にはみずみずしい緑の薬草がいくつかの山になって積まれる。
彼女は驚いたような表情になった。
「まあ…!ふふっ、えらいわねー。
きちんと依頼をこなして来てたのね?
今回はダメだったのかと思ったわ」
「ダメだったらこんなに急いで走って来ないですよー」
「あははっ、確かにね!」
査定は無事に終わる。
慣れないナイフでの採取だったため、薬草の切断面は少しだけ痛んでいたが、これくらいなら何も問題はないと告げられた。
ようやく、レナもホッと肩の力を抜く。
ギルドカードの更新はこの場ですぐにしてもらえた。
Eランクまでの昇進は、受付カウンターで済ます事ができるのだ。
「ギルドカード:ランクF
名前:藤堂 レナ
職業:魔物使い(モンスターテイマー)LV.8
装備:麻のシャツ・キュロットスカート・革靴・鞄・Mバッグ・ローブ
適性:黒魔法・緑魔法
体力:23
知力:54
素早さ:16
魔力:54
運:測定不能
スキル:[従魔契約]、[鼓舞]、[伝令]、[従順]、[従魔回復]、[みね打ち]
従魔:クレハ、イズミ、リリー、ハマル
ギフト:[レア・クラスチェンジ体質]☆7
称号:逃亡者、お姉様」
異世界ラナシュに放り出された時にくらべたら、レナも随分強くなっている。
レベルも、以前確認した時より4つも上がっていた。
サーベルキャットを討伐したぶんの経験値はまだレベルに反映されていないので、次のレベルアップはすぐかもしれない。
従魔たちのステータスの確認は、また時間がある時にすることに決めた。
レナは嬉しそうな表情で、ギルドカードをしっかり眺めると再び首に下げて、更にシャツの中にしまい込む。
ギルドカードは地球でいうパスポートのようなものなのである。
無くさないよう、こうして身につけている冒険者が多いのだ。
「あ。すみません、お姉さん。
魔物の図鑑を見せてもらえますか?
サーベルキャットのお肉の部位分けとかが載ってたら嬉しいんですけどー…」
レナが受付嬢に控えめに尋ねる。
遅い時間帯に本をねだることを少しだけ気にしたらしく、小声だった。
今日は他に草食獣の魔物肉を得られなかったので、頭の中は虎ステーキの事でいっぱいなのである。
脂の多い部分はベーコンに回すとしても、赤身の肉はミディアムレア程度に炙ってステーキにするのが一番いいだろう。
厚切りもいいし、サイコロステーキもいいなー…と、そんな事ばかりを考えているレナ。
食材を扱っている店はもう閉店してしまっているので、今夜は虎を食べるつもりでいたのだ。
一気に表情のゆるんだ少女と、なぜか踊り始めたスライムを、お姉さんは困惑した表情で交互に眺めている。
彼女が口を開いて何かを言いかけた瞬間……、おそらくパーティを組んでいるのであろう4人組の冒険者たちが、騒がしく大声で話しながらギルド内へと入ってきた。
その話の内容に、レナはピキンと背筋を凍らせることになる。
「…あ"ーーーーッ!!
なんっで、見つからないんだよサーベルキャットぉ!少女を即座に襲うんじゃ無かったのかよお前ーーッ!ここにいるだろうが少女!
腹立つ!」
少年のような風貌の、薄茶色の髪の年若い冒険者がイライラしたように髪を掻いて叫んでいた。
話の内容をしばらく聞いていると、討伐クエストが失敗してしまったらしい。
「ぶはははッ!
そりゃ、パトリシア、お前さんがそんなガサツだから、男だと思って襲われなかったんじゃねーかぁ?
もっと淑女っぽくだなぁー」
これは、以前ギルドで会ったスキンヘッド冒険者の声。相変わらず、声も体格も目立つ目立つ。
「あはーーーん♪
こうだよぉ、こう♪ 語尾にハートマークもつけたらもっと女の子らしいかもねぇ?」
「ぶはははははッ!!…腹いてぇーー!」
「それ、少女じゃなくね?熟女?熟女なの?」
「…うっせぇーーー!
こちとらEランク昇進試験落ちて落ち込んでんだよ、もっといたわれよ、全員!
一からやり直しだよ!?
私マジかわいそうだろうがッ!」
「「お前が一番うるせぇーんだよ!」」
「あらあらぁーー♪」
……目立つ。
叫ぶ少年娘、声も体もとにかくデカイスキンヘッド、体をクネらす踊り子風に、何故か熟女を連呼する魔法使い。…濃い。
そんな濃い連中とは必ず縁ができてしまうあわれなレナさんである。
「あ、あのー…サーベルキャットという魔物について、詳しく教えて頂けますか…?」
こっそり、こっそり、受付嬢に耳打ちしたレナ。
だが、本当に小さな声だったにも関わらず、"サーベルキャット"の単語はパトリシアとやらに拾われてしまう。
がしっと、荒ーく肩が組まれた。
ビクゥ!とご主人さまは肩を跳ねさせる。
「今、サーベルキャット、って言ったかなァ…?
お嬢ちゃん…?」
ひくーい地を這うような声が、レナの耳をゾワゾワと撫であげた。
「…ひえーーーーーーッ!?」
思わず甲高い叫び声を上げてしまったレナ。ギルド内の視線は、目立ちたくない彼女に釘付けである。
ああ、関わりたく無いと思ったのに。
ホラーさながらに気配を感じさせず近づいてきていたパトリシアに、レナはもう捕らわれてしまっていた。
ギラギラとしたグリーンの瞳が、魔物使いをじっとりと睨めつけている。
パトリシアの頭に従魔一同のぷよもふタックルが決まった。
更に目立った。
▽レナたちは 注目を 集めている!