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【WEB版】レア・クラスチェンジ!〜魔物使いちゃんとレア従魔は異世界ゆる旅がしたい〜 - 新種族、検証
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新種族、検証

レナパーティが魔王国を訪れた目的は、従魔たちの服飾保存ブレスレットを買うため。

このブレスレットは主に魔人族たちが使う魔道具。


ヒト型の時の服装を数パターン、ブレスレットに記録させておくと、魔物型からヒト型に変化した時の着替えをスムーズに行うことができるのだ。

ヒト型から大きな魔物になった時には服がブレスレットに収納されるので、破ってしまう心配もない。


レナの従魔たちは全員見目が麗しく、珍しい種族ばかりなので、魔人族の少ないミレー大陸で耳の尖ったヒト型で出歩くのはあまりに目立ちすぎる。

そのためオシャレをして街を歩く機会を作ってあげられなかった。

ジー二大陸のシヴァガン王国には多種多様な魔人族たちがいるので、そこまで悪目立ちしないだろう……と判断し、オシャレ解禁を決めたのだ。

大歓喜しているのは従魔たちよりもレナである。


せっかくはるばる魔王国を訪れたのだから、スライムジュエルの財源に物を言わせて、複数のコーディネートが記録可能で、収納したら服が洗濯済みになる高機能なブレスレットを買おう! とレナは決断した。

高価な買い物になるため、従魔それぞれが一番気にいるデザインのブレスレットを買ってあげるつもりだ。



アネース王国トイリアにいるモスラも呼び寄せたいな、と皆で相談した。

しかしモスラは多忙なため、悠長に船旅をする暇はないだろう。

ギガント・バタフライ姿でなら早く着けるはずだが……間違いなく騒ぎになる。

困ったなぁ。

そんな時には、この手段!



「まさかこんなに早くに呼び出されるとは、予想外でした。……それも、仲間の巨大従魔を目立たないよう魔王国に呼び寄せたい、とは。

難題を申される」


「ありがとうございます、ロベルトさん」


「有無を言わせない対応、やりますねレナ様。

思っていたより貴方はしたたかなようだ」


「そうでなければ、この子たちと平穏に旅をするなんてとてもとても」


「なるほど」



あまりの身に覚えのなさに、平穏が激しく首を横に振っている気がする。


深く頷くロベルトも希少種の雪豹、目立つ者はトラブルに巻き込まれやすいと身をもって理解しているようだ。

しばらく思考していたロベルトだが、「承知しました」とレナパーティのお願いを快諾した。


レナの新たなレア従魔、それもミレー大陸で名を馳せる大商人スチュアート家の従者。良い繋がりが期待できる……というのが決定打だった。

その利益以上の厄介ごとがこれでもかと舞い込んでくる上、執事が従魔たちの中でもかなりの曲者だなどと、レナパーティとまだ付き合いの短いロベルトは予測できなかった。合掌。



魔王国政府で申し出を検討するため、解決策を提案するには数日はかかる、とロベルトが告げる。

どーせもう自分たちの情報はある程度知られているのだし、とレナたちはひるまなかった。

再び、よろしくお願いします、と頭を下げて魔王国の使者を見送る。

諜報部の重役をパシリに使っているレナたちはかなりいいご身分である。


ロベルトに恐る恐る連絡を取った街の警備員は、すぐさま駆けつけてきてとんぼ返りで帰っていく上司を目を丸くして眺めて、喫茶店のテラスでのんびりとお茶を再開したレナパーティを5度見して、「この子が……例の赤の女王様なのか……」と戦慄した。


レナパーティは本人たちの預かり知らぬところで、早くも地位を確立し始めていた。

だいたいいつもの流れである。




***




「今日もいい天気だねぇ。シヴァガン王国に来てから丸っと2日のんびり過ごして、体力も回復したし。ルーカさんのレベルアップをしておこうか」


シヴァガン王国を訪れてから3日目の爽やかな朝。

お宿♡最上階の窓から、賑やかに魔人族たちが行き交う街道を見下ろしたレナが、声を弾ませて皆に話しかけた。

軽めの朝食を済ませて思い思いにくつろいでいた従魔たちが、元気よく返事をする。



『『賛成ー! そろそろ戦闘しないと、身体なまっちゃうもんねっ。ルーカの!』』


「まあ、否定はしないよ。いつも従魔のみんなが活躍してくれるから、すっかり補助に回ることが多くなってるし。

久しぶりに僕が主力で戦ってみてもいい? ネコ属性が追加されて、どれだけ身体能力が向上してるかきちんと測っておきたい」


『シュシュ、ルーカは魔眼で戦闘力も把握してると思ってた』


「ステータス数値はいつでも確認できるし、動いたらどんなものかだいたいは予測できる。でも実際に動いてみた方が感覚が掴めるからね。

それに、ネコミミヒト族への進化は強制的だったでしょう。レベルアップを伴ったものじゃなかったから、ステータスに魔物進化時のような補正値が足されていないんだ」


「あ、本当だ」


レナが自分のギルドカードを取り出して、ルーカのステータスを眺める。

確かに、腕力が向上したと本人が実感しているにも関わらず、ステータス上で変化があるのは運の値のみ。


<またタイムラグで御座いますか……ラナシュの仕事が遅すぎて、ムズムズします……はあ>


几帳面なスマホがうんざりとため息をつく。

実際に息が吐き出される訳ではなく、念話で<はあ>とハッキリ言ってのけた。


『気分転換に……ボタン連打してあげても、いいのだよ?』


<ああーーんっ! リリーさぁん!>



スマホとリリーが戯れ始める。リリーはよくスマホでWEB検索して遊んでいるので、特に仲がいいのだ。

こうしてスマホと触れ合うことで、感情が育ち、魔物への進化が早まる。

……もう感情は豊かすぎるくらいだが。



「じゃ、今日の予定はネコミミヒト族のレベリングに決まりね!

よい子のみんなー、もし後輩くんが危なくなったら助けてあげてくれるかなー?」


『『『『いいともーー!』』』』


レナと従魔たち4名がドヤ顔でルーカを見た。


「さっそく昨日見たビデオの影響受けてる……。

先輩たちが助けてくれるっていうなら、後輩は安心して魔剣を振り回せます。

フォローよろしくお願いしますね」


「そっち!? ルーカさんが戦闘主力ってことは、そうなるのかぁ……気をつけて指示を出さなきゃ。

リリーちゃん、シュシュ、ルーカさんがもし暴走し始めたら蹴って正気に戻してあげようね」


『『押忍!』』


「そうきたか。やるね、レナ」


「貴方といるとどんどんこういう言葉回しが上達します。おかげさまで! ロベルトさんたちにも言い負けないくらいになりましたよ」


「お役に立ててるようで何より!」



ルーカが妙にポジティブな返事をしたので、おかしくて皆で爆笑した。



外出装備を整えて、再び寝こけていたハマルを鞭の[みね打ち]で起こし(悦ばれた)、レナたちは魔王国の外の草原に出かける。


国内にも、野性味あふれる森林公園や鍛錬場はあるのだが、人目が多いため国外を選んだのだ。

ネコミミヒト族が全力を出せば、雷で周囲一帯が消し炭になる予感しかしないので力加減はするつもり。しかしある程度派手に動くだろう。

冒険者ギルドで依頼を受ける機会は先延ばしにした。


▽野外で鍛錬しよう!




***




訪れたのは魔王国の近くの森林地帯。

危険すぎる魔物がいないか、様子を窺っている者がいないか……周辺をしっかり索敵した。


ルーカはすでに黒色尻尾(野外で他人に見られても大丈夫なよう、[幻覚]をかけている)を出現させており、ネコミミと合わせてネコ比率10%。

瞳孔が魔人族らしく縦に細い形に変化している。

魔眼を使った時の負担が軽くなっている、と感じているようだ。


まだ全身をネコの魔物に変化させることはできない。

爪は魔剣を握る時に邪魔になるため、とりあえずこの10%の状態で戦う事が多くなりそうである。



ズボンだけ、魔王国の服屋で獣人用のものを購入しておいた。

長い尻尾が出せるよう、後ろのベルト下辺りに切り込みが入れられた一般的なデザインのもの。

獣人は尻尾をローブの下に収めるか、飾り布をくるりと巻いて根元付近を隠す。

無防備に尻尾を全て晒すのは「腹を割って話そう」という合図、もしくは相手に心を許しているという証である。


ハマルやシュシュは尻尾が短いうえ、腰紐の緩いズボンを履いているのでヒト族用の服でも問題はない。

が、可愛いデザインの獣人用衣装があればレナは絶対買う! いくつも買う!




「まずは筋力がどれだけ上がったのか、試してみたい。近くに木の魔物がいる。それを対象に、戦ってみるよ」


ルーカが瞳孔の細い紫眼で周囲をぐるっと視渡して、さっそく標的を定めた。

能力の向上をしっかり調べるため、眼球だけ[幻覚]を解いていて本来の紫色である。



「あれが化けスギ。幹がねじれていて、体内の魔力を循環させるため、たまにクネクネ動く。近付くと、柔軟な木の根を足に絡ませてきて生気を吸い取る。

木の根はそこまで頑丈じゃないから、頑張って攻撃すれば抜けられるよ。

もちろんずっと捕まってたら死んでしまうけれど。

弱い魔物や動物を主食にしているから、危険度はクエストランクDくらいかな」


つらつらと説明を述べて、「だから心配しないで」と付け加えた。



「主人は従魔を心配するものです」


「ああ……そっか。じゃあ、心配して気にかけてて。安心させてみせるから」



レナが堂々と言い放った言葉にクスリと笑うと、ルーカは「行ってきます」と言い、1人で駆け出していった。



<従魔の先輩方が『頑張れー!』と申しておりますよ! 私も含めて、貴方を応援しておりますので>


「ありがとう」



大きな声を出すと化けスギに気付かれてしまうかもしれない。そのため、先輩たちはルーカへのエールを念話が使えるスマホに託したらしい。

ルーカの足取りがいっそう軽やかになった。

気分が高揚している、と自覚する。


「スキル[鼓舞]!」


主人の支援。大切にされているな、としみじみ感じた。


身体がカッと熱くなり、ルーカは口角をくっと上げると、化けスギの背面へと躍り出る!

化けスギは視野が広いものの、全方位を索敵できる訳ではないと通していた。

もちろん死角を狙って移動している。



▽ルーカの 先制攻撃!


「スキル[感電]!」



バチイィィ! と耳をつんざく鋭い音が響き、目視できるほど強く光る白紫の雷が、化けスギの濃い茶色の幹を覆った!

……これははたして[感電]なのだろうか? とレナたちが唖然と戦闘を見守っている。

ルーカはかなり豪快に魔力を込めたようだ。それにしても威力が強すぎる。


木の表皮がバキバキとヒビ割れ始める。


化けスギはルーカから見えない位置に、不気味な叫び顔の模様を黒く浮き上がらせると……声も上げられないまま”絶命した”。

黒く焦げた葉がバラバラと落ちてきて、地面に虚しく散らばる。

根っこを伸ばす隙もない、素早い攻撃であった。


+1の補正があり、[鼓舞]スキルの援助があったとはいえ、ただの[感電]スキルで魔物をほふる者がどこにいるというのだろう。ここだ。


▽ルーカは 化けスギを 倒した! ×1



「ええええええ……!?」


『『うっひょーー! はやーい!』』


『久々に、戦ったのに……すごい! 完璧、だねっ』


『『おめでとー!』』


「やあ、見ててくれた? 貴方たちと一緒にいられるくらいの力はあるようだ。

これからも抜かりなく、精進するからね」



満足げに笑って尻尾を揺らすルーカに、レナは驚きながらも、微笑ましいものを眺める視線を送った。

立派に主従関係が築かれている。



とはいえ、筋力を試したいとルーカは言っていなかっただろうか?

黒く煤けた故・化けスギにレナたちが近寄って行って、そう問いかけると、ルーカは手にした魔剣をぐっと両手で強く握りしめ、軽快に幹に打ち付け始めた!


ズゴーーーーンッ!!

ゴッ! ゴガッ! ゴウッ!


説明しよう! ルーカの動作はとても軽快なのだが、打撃が重いのでギャップが生まれているのだ。

ルーカはしっかり下半身を落として軸にして、思い切り魔剣をフルスイングする! 気分爽快ー!



またもポカンと口を開けている仲間たちの前で、ルーカは己の筋力の上昇を冷静に測っている。

楽しげに、ひたすら魔剣を振るい続けた。


使い方が激しく間違っている。超高価な魔法装備なのだが? 魔剣が泣いている。

もしレナたち以外にギャラリーがいれば、気が触れた者がいる! と解釈しただろう。



化けスギという魔物は、身体が普通の木よりも柔軟。よって、折れやすい木だと言える。

ルーカの容赦ない攻撃により、幹はどんどんと真横に裂かれていき、ついに……ドスーーン! と倒されてしまった!



「な、なななにをしてらっしゃるんですか、ルーカさん……!?」


レナがようやく、動揺しながら声をかける。


「ここ、見てて」


「?」


ルーカはマジックバッグからさっと採取用の小瓶を取り出すと、切断された幹の真ん中にそっとナナメに添えた。

レナと従魔たち全員が小瓶と幹を不思議そうに覗き込む。

魔物木の幹には年輪が刻まれておらず、真ん中にポツンと小さな丸い線が浮かんでいるのみ。

その丸の範囲に、じわっと銀色の水分が滲んできた……。

雫となって、小瓶に流れ落ちる。



「計算通り。これは化けスギが溜め込んでた生命力が凝縮された、生命の樹液ってアイテムなんだよ。高価な回復ポーションの材料になる」


「そうなんですか!? それで、この化けスギを狙ったんですね」


「魔物を倒して経験値を得る、筋力を測る、アイテムを手に入れる。

どれも一度に達成できて一石三鳥、ってね」



ルーカは得意げにそう言うと、小瓶に数センチだけ溜まった樹液を眺めて「なかなか質がいい。冒険者ギルドに持っていけば、良い値で売れるだろう」と[鑑定]する。

瓶にしっかり蓋をすると、はい、と当たり前のようにレナに渡した。



「狩りの成果だよ。ご主人様」


「あ。どうもありがとう、ルカにゃん。これ、綺麗な銀色ですねぇ」


瓶の中身を、先輩従魔たちと目を輝かせて眺めながら、レナはルーカの行動にそこはかとない既視感を覚えて首をかしげた。




***




場所を少し移動して、再び獲物を探すレナパーティ。

ルーカのレベルアップまで、あと少し。

本人が経験値計算機なので、狩るべき魔物の数があとどれくらいかだいたい算出できる。便利なものである。

弱い魔物を数体倒せば、レベルアップできそうだとのこと。


しかし歩けど歩けど、妙に魔物に遭遇しない。

「ああ、運悪いから……」と全員がそれとなく思い始めた時。

ようやくルーカが新たな獲物を視つけた!



「リボン・スネークがたくさん集まってる! ちょっと遠方だけれど……全部、逃がさず仕留めよう」



ルーカは目を細めて、迷いのない視線で一角を鋭く睨んだ。

これらをまとめて倒せば、確実にレベルアップできると視た。

やっと発見した魔物たちをどう逃がさずに仕留めようか……と、顎に手をやり少し考える。



『ねぇ。囲い込みとか、手伝うなら……言ってね? ルーカ』


「うん、ありがとう。どうしても困ったら頼らせてね、リリー。

まずは僕がやってみるよ。

たまにはいいところ見せたいからさ。……よし」



作戦がまとまったようだ。

レナが改めて[鼓舞]スキルをかけてやり、小さな先輩たちがガッツポーズして見送る。


「じゃ、行ってくるね」



ネコミミと尻尾に嬉しい感情を暴露されまくっているルーカが、少し恥ずかしそうにはにかんで魔物の元に向かった。


早く行かないと、魔物がバラバラの方向に逃げてしまったら面倒だ。

静かに忍び足で、しかし急いで歩いていく。


魔物の説明をはしょったせいで、仲間が心配しているようだ、と背中に刺さる視線で気付いたルーカ。

自分の周囲をこっそり巡っている小さな丸いレンズに眼を向けた。



<ピンポンパンポーン! 皆さーん、ルーカティアスさんからのお知らせで御座いまーす。

リボン・スネークはリボンのように平たい胴を持つ蛇。牙は鋭いが毒はなく、それぞれ個性豊かなスキルを持つ。

弱点は頭。危険度はEランククエスト相当。

倒したあと、胴を魔法リボンに加工することが可能。

その際、スネークが生前持っていたスキルが反映されることがある。……とのことで御座います>



ルーカ経由のスマホ放送。便利と便利が合わさって、スペシャル便利。


とりあえず、懐かしの毒殺ヘビのような凶悪な種族ではないと知った仲間たちは、ほうっと安堵の息を吐く。

ルーカの実力なら、複数の毒殺ヘビだろうと余裕で倒すだろうが、彼はもう、それぞれにとって可愛い従魔であり後輩という立ち位置である。

皆、お互いに過保護になっていた。


背に向けられる視線が和らいだことを感じて、ルーカも肩の力を抜いた。



「さあ。行くよ! 光魔法[サンクチュアリ]!」


▽リボン・スネークを 光の聖結界が包み込む……!

▽ルーカは リボン・スネークを 捕らえた! ×4


((((!?))))


スネークはぎょっと身体を伸ばして、何が起こったのか把握しようと懸命に周囲を見渡す。

ルーカが姿を現してみせると、牙を剥き出しにして威嚇した!


▽リボン・スネーク(青)の [冷化]!

▽リボン・スネーク(緑)の [突風]!

▽リボン・スネーク(黄)の [穴掘り]!

▽リボン・スネーク(白)の [目眩し]!


それぞれがスキルを使って、サンクチュアリを攻撃、または逃げ出そうとする。


[冷化]によって結界の内側表面が青みを帯びて、その部分は零度近くまで冷え込むが、結界は壊れない。

[突風]も同じく、成果を上げる事はなかった。

[穴掘り]で地面に潜り込み、地中から逃亡を試みたスネークは、全方位をカバーする卵型に作られていた結界に頭を打ち付け、星を飛ばしている。のろのろと地表に出てきた。


[目眩し]スキルは眩しい光を発生させるスキル。目にしみる特殊な光である。

多少はルーカに効いたのだが、すぐに顔を背けたため、視力を奪うまではいかなかった。

数回パチパチ瞬きすると、目の痛みも回復している。

遠方から、念のためレナが[従魔回復]スキルを使用していたのだ。



「称号[器用裕福]セット」


助けられた分は成果で返さなくちゃね、と気合いを入れたルーカが、サンクチュアリの壁に魔剣を突っ込んだ!

ドスッ!

魔剣が泣いている。


ルーカは結界の一部分のみを、一瞬で薄く作り変えた。

もちろん、本来ならば、一度作り上げた結界に再度干渉するような芸当は不可能である。

実力のある魔法使い職がじっくり集中して、やっと再構築が可能になる……かもしれない、というビックリ芸当具合だ。

ルーカは厚さが変わる境目に、多めに魔力を込めて分厚くしてみせた。


魔剣を突っ込んだ衝撃で、周囲十数センチの極薄の結界がバキンッと壊れる!

穴が空いた結界は急激に耐久性が下がるものだが、分厚くした部分で損壊が止まっているため、残った結界の耐久性は高いままだ。


チャンス! とばかりに結界に思いきり体当たりしたスネークたちは、結界が壊れずに悶絶することになった。

この結界は普通じゃなさすぎるので、スネークたちの判断は悪くなかった。



「スキル[雷剣]……圧縮しようか」


魔剣が眩しい雷を纏う。

サンクチュアリの空間内に、バチッ! バチバチッ! と小さめの火花を舞わせる。

小さくても、雷が圧縮されているものなので、威力はすさまじい。



▽リボン・スネークの 頭部に 火花が命中した!

▽リボン・スネークの 頭部は 消し炭になった……



真っ黒く焦がすだけでなく、頭を丸ごと消し去ってしまった!

残ったリボンのような胴体のみが、ダランと地面に横たわっている……。

外傷はなく、とても状態が良い。


魔剣で頭を切り離すこともできたが、このリボン・スネークは体内に血液ではなく魔力のみを循環させている。

切り口を作ってしまうと、先ほどの化けスギのように、断面から魔力が漏れてしまうのだ。魔力を漏らしすぎると、リボンに加工した時に、生前のスキルが反映されない場合が多いそう。

それを危惧して、焼くことで血止めならぬ魔力の流出を止めてみせた。


ジーニアレス大陸の魔物は、このように魔力を体内に秘めている種族が多い。

これらの素材を使って作られるアイテムは、こちらの大陸の特産品となっている。



<従魔:ルーカティアスのレベルが上がりました! +1>

<ギルドカードを確認して下さい>

<☆クラスチェンジの数値が反映されました!>


無事にレベルアップをはたしたルーカは、とても満足げな表情。

結界を解いて、リボン・スネークの胴体を回収した。



「うん! 断面は焦げて、しっかり閉じられているね。

身体全体を焼いてしまうこともなかったし。イメージした通りに魔剣の雷を制御できている。腕が鈍ってなくてよかったよ。

魔剣の扱いについては、ヒト族の職業[魔法剣士]の熟練度のみが適用されるようだ……。雷の威力に補正はなかったと感じた。

ネコ化が与える影響は、筋力と感覚の鋭さ、ってことか。

これ以上魔物の比率を上げると、そもそも魔剣が持てなくなってしまうし、魔剣に関係した強力なスキルは使えなくなるから、ここまでの変化が望ましいようだね。

まるっとネコの魔物に変化できるようになったら、別の戦い方も出来るだろうし、また改めて検証してみよう。

今までのように魔剣を扱えて、そのうえ身体能力が向上しているってだけでも素晴らしいよね……良い事しかないんだから!

これからしばらくは、ネコミミと尻尾の具現化が必須になるなぁ」



今回の雷の威力を冷静に分析したルーカは、いつになく饒舌に独り言を話した。

おそらくスマホがレナたちに伝えているだろう、と図ったのだ。


紫の瞳が、視界の端にチラチラ入ってくる揺れる尻尾を見つめている……。

……うずうず、と妙に心がざわめいたのは気のせいだろうか?



<ルーカさんすごーい! えげつなーい! だがそれがいいー! と、皆さんからの伝言で御座います>


ルーカが違和感を探ろうとしていると、スマホが脳内に念話を響かせてきた。

ルーカの気がパッとそちらに逸れる。

嬉しそうに、スマホの第2のレンズを眺めて「今回もいい素材が取れたよって伝えて」と語った。

念話組はどちらもやりたい放題である。



手にしたリボン状の胴体を丁寧に袋に包んで、ルーカはいったんマジックバッグに仕舞う。



<おや? マスター・レナにお見せしないのですか?>


「まだ、ね。あとで見せるよ。

5匹目のリボン・スネークを発見したから、それも狩っていくね!

しかも赤色で大きい個体だよ。長いリボンが作れる。保持スキルは[浮遊]……レナの運動センスで使いこなせるかなぁ」


<なんと! 赤色アイテムは重要で御座います>


「いいお土産になりそう。行ってくる!」



▽ルーカが 駆け出した!



スマホが再びレナたちにアナウンスをかけて、第2のレンズがルーカを追う。



「ええっ!? ルーカさん、私たちから離れすぎると悪運の餌食になるんじゃ……!?」


レナの言葉が真理すぎた。

従魔たちと共に、慌ててルーカを追いかけ始める。



あの黒猫、どうやら[瞬発]スキルまで使って絶好調で駆けている!

追いつくのに時間がかかってしまいそうだ……森は木々が気ままに生えていて、かわしながらハマルで走るとなるとレナは確実に酔う。

今は後ろで支えてくれる人物がいないのだから。


いつも冷静なルーカが、どうして今日はこんなに突発的な行動を取るのだろう!?

レナたちから離れすぎない、という約束を忘れるなんて、あまりに彼らしくない。



遠くに赤いリボン・スネークを追うルーカの姿が小さく見えている。

まるで、獲物を逃すまいとするネコのような………………………………………それだーーーー!!



「これが、ネコ化の弊害かー!」


良い事しかない、などという不平等はラナシュに存在しなかった。

幸運が訪れたならそれ相応のトラブルにも見舞われるし、たくさんの従魔を使役できる魔物使い職は初回テイムがとても大変。

バランスが調整されている。

それを乗り越えた者だけが、成り上がることが出来るのである。



ここからは、レナたちの視点で実況していこう。


レナの頭に警報音サイレンが鳴り響く!

ルーカが強い不安を感じている、という首輪からの合図だ。



「さっそく……!? うわ、すんごい脳内うるさい。キンキンする。

待っててルカにゃん、主人が今行くからねーー!

リリーちゃんシュシュ、先に行って助けてあげて。スキル[鼓舞]! ハーくんっ!」


『『押忍!』』


『従魔のためなら速攻覚悟をキメてみせるレナ様、ちょーカッコ良いですー!

おおせのままにー、スキル[体型変化]、からの〜[駆け足]ッ!』


『『スライムベルトだよーーん!』』


「アーーーーーーッ!」



この怒涛の会話の最中、何が起こっていたのかというと……力強く返事をして、ルーカの元に急いで向かうリリーとシュシュ。

レナはいったん立ち止まり、大きくなったハマルによじ登った。主人が騎乗した瞬間、ハマルも駆け出す!

ヒツジの頭に乗っていたスライム達はロープのようになり、ハマルの首元とレナにぐるぐると絡みついた。

座った状態で、無理やり身体を固定され、木々の間をドライブする羽目になったレナはぐわんぐわん左右に揺すられ、悲鳴を上げてしまっている……というわけだ。

首が絞まっているハマルは鼻息荒く駆けるのみ。時折、細い木ををごしゃっとなぎ倒す。その衝撃でレナがぽんっと弾んで、涙目になる。



それでも、ネコミミヒト族のピンチに駆けつけない選択肢などない!

レナは目を凝らして、前方をきつく睨みつけた。

おのれ、うちの子を不安がらせる不届き者は、絶対に許さない!



『スキル[幻覚]……!』


『[覇]ッ! [覇]ぁッ!』


リリーとシュシュがすでに戦っているようだ!

何が起こっているのだろうか!?



皆は小さな広場で足を止めていた。

レナたちもようやく追いつく。


ヒツジに揺すられてぶれる視界でレナが目にしたのは、ハイエナの魔物たち!

数は5匹。

リリーが[幻覚]で足止めし、シュシュが遠方から[衝撃覇]スキルの短縮詠唱でキックの衝撃を飛ばして攻撃していた!

不幸中の幸いで、ハイエナは強い種族ではなかったらしく、シュシュ渾身の蹴りを顔に数発くらったら怯んで後退しかけている。


ルーカは……広場の中央で、ぐったりとうつ伏せに倒れこんでいる!?



「私の大切な従魔になにしてくれたのかなァーーッ!? スキル[鼓舞]ッ」


『『『制裁ーー!』』』


▽ハマルの 撥ね上げ!

▽ハイエナが 空高く 吹っ飛んだ! ×5



暴君の主人の怒りに触れたらこうなる。よく覚えておこう。



「ルーカさん!」


レナたちが大慌てで、苦しそうに呼吸するルーカに近寄り呼びかけた。

顔が上気していて、熱っぽい。


「スキル[従魔回復]……イズミ、おでこ冷やしてあげて」


『了解なり! 青魔法[アクア]〜』



ひんやりイズミが熱を冷まして、少しだけルーカの体調が楽になったようだ。

しかし口を開こうとはしない。

喉か口内が痛いのだろうか?

レナに抱き起こされた姿勢のまま、ルーカは目を合わせた。



「ふむ、[テレパシー]ですね。はい。……飛んで逃げるリボン・スネークを追いかけていって、迷い込んだのがこの広場。

雷で獲物を仕留めたあと、唐突に頭がくらっとして、身体が熱くなり力が入らなくなった……。魔剣を満足に握ることも出来なくなった、と……。

そこにハイエナの魔物が現れて、この場から逃げられなくなってしまい、時間経過とともに体調が悪化していった。

倒れたタイミングで、リリーちゃんとシュシュが来てくれた……。

……こら、はしゃぎすぎですよ。助けが間に合わずに、貴方が襲われていたらと思うと肝が冷えました……っ!」



レナが唇を噛み締めながら気持ちを伝えると、先輩従魔たちも、うんうん! と頷く。

ここで黙り込んでいたら人としてダメだ……と判断したルーカが、重い口を開く。



「………………ごめんにゃさい…………」


「…………なるほど、そういうことでしたか」



死ぬほど恥ずかしかったらしくルーカが震えていたので、レナたちは「にゃ」をスルーした。

レナたちも肩が震えているが、ここで笑ってはいけないのだ!

さりげなくお互いをつねって、込み上げてくる笑いを堪える!


<激写致しました!>


台無しであった。

スマホの一言で、レナたちの笑いのダムが決壊しかける。耐えろ!

ルーカがげんなりとネコミミを伏せている。



<皆様、広場の周囲をご覧下さいませ。

ここら一帯のみ、たくさんのマタタビツリーが生えているようで御座います。

ネコ科の魔物全般に『酔っぱらう』効果を与える植物。

これのせいで、ルーカティアスさんは体調不良となったようですね。

少量ならば心地よく気持ちを昂ぶらせてくれるのですが、量が多すぎて気持ち悪くなったのでしょう。

なんと運の悪い!

……と、ご本人が申しております>



ルーカはスマホにチラリと目を合わせて、状況説明を任せたようだ。

恨みがましそうな視線を受けたスマホは<えへ!>と可愛い顔文字を画面に映してみせた。

音声動画を消すつもりはないらしい。



ルーカは割り切った。

どうせ小さな先輩従魔たちに助けられ、レナに上体を抱き起こされている時点で情けないのだから……とネガティブとポジティブを同時発動させる。

ふうっとため息を吐いて、かなり体調が回復していることを確認すると、「もう大丈夫」と告げて立ち上がった。


マタタビと聞いて、匂いを嗅がないように……とレナがハンカチを差し出している。

イケメンな対応である。

ルーカは「ありがとう」と苦笑しながら言って、ハンカチを鼻と口にあてた。



「な、のつく言葉もう話さないんですか? ルーカさん……」


「攻めるね。怖いもの知らずというか……笑い死にしたいの?

実体験だけれど、アレは相当辛いよ」


『『ちぇっ』』


「まさかネコ化していると、マタタビツリーで酔ううえ、喋り方にネコらしい影響が出るとは……恐ろしい種族だ、ネコミミヒト族。

そして僕の運。赤いリボン・スネークを見つけられたのは幸運だったんだけどね」


「ルーカさんにとって幸運というには、ささやかじゃないですか?

反動でやってきたトラブルのヤバさが尋常じゃなかったですけど……マタタビツリーで酔わされて戦闘力を奪われた上に、ハイエナに狙われるだなんて。

本当に、下手したら死んじゃってたかもしれないんですからね……!」


「ごめん。今後は暴走に気をつけるよ。

ネコ化、本能や好奇心に正直に行動してしまうらしいね。

あと、僕は宣教師で、従魔だよ。ご主人様。

良いプレゼントを見つけられたのは最高の巡り合わせだった」



ルーカはそう言うと、得意げに赤いリボン・スネークをレナに渡す。

華奢な手のひらに、ひんやりヌメッとしたスネークの胴がズルリ……と横たわった。

頭はもちろん消し炭になっている。猟奇的。

これではロマンスが始まる予感が欠片もしない!

……後ほど、エルフ族の衣装店で加工してもらおう。



「どうぞ、受け取って!」


嬉しそうにネコミミを揺らすルーカを見て、レナはとある既視感に気付いた。

ーーこれ、仕留めた獲物を飼い主に見せにくるネコの習性そのまんまだ!


生臭い贈り物にどう対応しようかと少し悩んでいたレナだが、一気に目元が和らいだ。

微笑ましいものを見る目、再び。

サラサラの黒髪をよしよし、と撫でてやる。黒い尻尾がパタパタ揺れる。

ロマンチックが裸足で逃亡した。もう帰ってこないだろう。



『『偉いぞ、後輩よー! よくやった!』』


「結局助けられちゃったね、先輩方。おかげさまで助かりました。

スマートフォンには後で相談があります」


<あ、いえ、結構です>


「そこ遠慮しにゃいで! …………あっ」


『『……あははーーーっ!』』



森に明るい笑い声が響いた。

ネコミミを再び伏せていたルーカも、そのうちつられて笑い始める。


スマホがキレッキレの茶々を入れるたび、空間に花が咲いた。


朗らかに笑いながらハイエナの死体を回収したレナパーティは、無事にネコミミヒト族のレベリングと検証を終えて、シヴァガン王国に帰還した。




「名前:ルーカティアス

種族:ネコミミヒト族

職業:魔法剣士 LV.22

装備:高級ローブ、シャツ、スラックス、従属の首輪、厚底靴、Mバッグ、魔剣+5

適性:白魔法[光、雷]


体力:55(+15)

知力:64(+7)

素早さ:57(+10)

魔力:49(+8)

運:5[+-100]


スキル:[身体能力補正]、[瞬発]、[感電]+1、[雷剣]、[雷光]

ギフト:[魔眼]☆7

称号:麗人、制雷マスター、器用裕福、話題のイケメン、赤の宣教師、精霊の友達、調教師、笑い上戸

(従属状態・主人:藤堂レナ)」



▽Next! 予期せぬ来客、




読んで下さってありがとうございました!



ネコのターンはいったん終了。次はまた新たな出会い(強制)です!




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