41.研究と結果
これで二章完結になります。次から三章です!
エバーナイト公爵領に住むファントム・マレーズ病発症者が研究に協力してくれる事になってから、ラファエルの研究は恐ろしい速度で進展していった。現在分かっている事は主に次の三つ。
一.ファントム・マレーズ病の原因となった魔力感応性遺伝子の存在は確定的になったものの、文字通り遺伝子であり、臓器ではない為外科的手術やナディアの治癒魔法での完治は難しい。
二.ファントム・マレーズ病発症後の悪化要因として、消費した魔力の回復及び特定の食べ物を口にする事が挙げられる。
三.魔力を回復出来ない状態で過ごした際のデータとして、魔力欠乏による体調不良は見られるものの、ファントム・マレーズ病の悪化は起こらなかった。
なお、特定の食べ物とは魔力をふんだんに含んだ物を指す。これにより皮膚吸収だろうが経口吸収だろうが、魔力を吸収する行為そのものが病を悪化させる事が分かった。ただし経口吸収の場合は摂取後一定時間経過で体調に悪化が見られた事から、ある程度消化が進む事によって悪化すると見られ、そこに打開策があるのではないかと睨んでいる。
ラファエルからの報告を一通り聞き終えたナディアは、頭の中の情報を整理がてら口を開いた。
「……つまりどんな方法であれ、魔力さえ回復しなければファントム・マレーズ病の進行は止められるって事か。それなら課題は二つ、皇都の魔法陣修復儀式を行う際に使用する防護服の開発と、魔力欠乏の治療法だね」
一般的に魔力欠乏症とは何らかの理由で時間経過による魔力回復が行えない者を指し、魔力ポーションや魔力をふんだんに含んだ食べ物の摂取をする事で対処する。ところがファントム・マレーズ病を発症した人物には魔力そのものが猛毒と同様の脅威となるので、この手は使えない。防護服で魔力の回復を遮断するなら、別の治療法を見つけなければならない。
「防護服はイノセント様と話し合って、ある程度形にする事は出来ています。ただ問題は、魔力を完全に遮断出来るほどの素材が見つからない事でして……」
魔法陣修復儀式は国典の意味合いも強い為、必ず正装で挑む必要がある。その為二人は、ドレスコードに引っかからないように透明化処理を施した防護服にしたらしい。勿論着用者へ影響を及ぼさないように設計されていて、透明化含め色々組み込んだ魔術のせいでセレスティンの病状が悪化する事はないという。
ただ、肝心要の「周囲の魔力を完全に遮断する」という部分について、どうしても完全にとはいかず、じわじわと微量の魔力は通してしまうとの事。
「自然回復時に比べ、防護服着用時は魔力の回復に三倍以上の時間がかかる事は実験から分かっています。とはいえ、魔力が回復する事それ自体は防げないので、病状は悪化してしまいます」
セレスティンの魔力量を考えれば、自然回復で半日から一日程度。それが三倍になったからと言って、治療方法を見つけるだけの時間は稼げない。
(遮断、遮断か……魔力の無力化……霧散……。そう言えば森には一風変わった植物があったね)
「私が住んでいた森に魔獣よけにぴったりの植物があって、そのお陰で魔獣に食べられずに作物を育てる事が出来た。……最初は魔獣にだけ作用する臭いかなにかで追っ払っているんだと思ったけど、調べた限り、その植物にはどうやら周囲の魔力を霧散させる効果があった。魔獣は魔術を使うから、魔力のない場所を本能的に避ける習性があったんだ。……この植物を利用出来ないだろうか?」
「……! 本当にそんな都合の良い植物があるんですか!? 実際に見て調べてみないとなんとも言えませんが、そういった効果があるのであれば防護服にも利用出来そうです!」
「それなら僕が採ってくるよ。見た目とか、群生地を教えてくれる?」
トントン拍子に事は進み、イノセントはセレスティンに許可を取った上で騎士団から数名を引き連れて出発した。数日後に帰還した彼と部下の荷物には、ナディアが話した植物が大量に詰まっていた。
「……素晴らしい。期待通りの出来上がりですよ、お二人とも! ひとまずはこれで閣下を儀式の脅威から救う事が出来るはずです!」
ラファエルの感極まった声に、ナディアとイノセントも神妙に頷いた。同時並行で研究していた魔力欠乏症に対する治療も、摂取後即時気体化吸収されるように既存の魔力ポーションに手を加えた結果、ファントム・マレーズ病に対して影響を及ぼさないとの結論に達した。
あくまで対症療法ではあるものの、日常的に防護服を着用し、使用した魔力に関しては新型魔力ポーションを使用して回復する事で、理論的にはファントム・マレーズ病の進行を完全に停止させられるという事だ。
「これでセレスティンを助けられる……!」
喜びもつかの間。迎えた魔法陣修復儀式当日、儀式成功に皇都の民が沸き立つ中、功労者であるセレスティンは意識を失った状態で公爵城へと運び込まれたのだった——。