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国に飼い殺され続けた魔女、余命十年の公爵の養女になる? 〜養女契約のはずが、妻の座を提案されてしまった〜 - 48.つかの間の覚醒(セレスティン・エルデン・ナイトフォール目線)
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48.つかの間の覚醒(セレスティン・エルデン・ナイトフォール目線)

 遠くから誰かの声が聞こえる。


「……だからちょっと自己嫌悪に陥ってる」


 耳慣れているようで初めて聞く気がする不思議な声に、セレスティンは半分だけ覚醒した意識を傾けた。


「そんなに変な事言ってたっけ?」


 相対する声は間違いなくペテン師の声だ。ひょうひょうとして掴みどころがなく、それでいて仕事が完璧でナディアとの仲が良い。とにかくセレスティンの癪に障る人物だ。とすると、先ほどの声はもしかして。


「……要するに『お前の方が恵まれてる、下を見ればキリがないから我慢しろ』って事を言った訳でしょ。不幸自慢みたいになっちゃったし大人げなかったなあって。まだ十三の子供なんだから、彼女の苦しみにもっと寄り添ってあげるべきだったよね……」


「まあでもさ。悲劇のヒロインぶってるところにこう、がつん!ってもっと悲劇的な話をされたら浸ってられなくなるでしょ。荒療治かもしれないけど、彼女の為って意味では正解だと思うよ」


「んー……。そうだと良いんだけど」


「それより例の侍女達。まだ軟禁二日目だっていうのに既に限界みたいだよ? 皇女を(おもんぱか)るでもなく、むしろわざわざ彼女の部屋を訪れて激しく罵倒してる。部屋の外まで丸聞こえだからバーナードへ報告が上がるのも時間の問題だね」


「どうやら皇室と公爵城では『大人しく過ごす』の意味が違うみたいだね。念の為怒鳴り声が聞こえたタイミングで理由を付けてメイドに入室してもらおうか。わざわざ自分達の部屋から皇女の部屋へ移動して怒鳴ってるんだから状況は限りなく黒だけど、万が一『皇女様を罵倒してた訳じゃない』なんて言い逃れをされたら面倒だから」


 どうやらこの城にヴェレクンディア皇女が来ているようだ。とはいえ話の内容はあまり穏やかとは言えない。怒鳴り声? ……皇女を相手に? 眉根を寄せようとして、それが出来ない事に気付いた。どれだけ力を込めようとも、まぶた一つ動かせそうにない。


 そういえばあれだけ気を付けるよう言われていたのに、結界修復儀式の時にありったけの魔力ポーションを使用したのだったか。よくよく思い返してみれば、最後の記憶は皇城での報告の途中だ。誰かが公爵城まで運んでくれたという事だろうか。


「了解。じゃあ僕は侍女達からどんな方法で話を聞き出すかでも考えておこうかなあ」


 愉しげな声に、「ほどほどにしてくれよ」と咎めるような女性の声。イノセント相手にそれが出来るのだから、やはり声の主はナディアで間違いないだろう。……大人の姿に戻ったのだろうか。確かめられないのが実に残念だ。


「……皇女が置かれた状況を知ってたら、セレスティンは婚約を破棄しなかったかな? むしろ今からでも事情を知ったら手を差し伸べると思う?」


「さあ、どうかな。僕が知る限り閣下は……そんなに紳士的じゃないと思うけど。ナディアは彼がそうすると思ってるの?」


「そりゃだって、私を引き取る選択をしたんだから。紳士的、どころか私にとっては神様みたいな存在だよ」


「うーん……? ちょっと閣下を美化し過ぎじゃない? ナディアを引き取ったのは、ナディアが初代公爵の血を色濃く引いてるからって話じゃなかったっけ」


「そうだけど。でもいくらなんでも容姿だけが理由で悪名高い魔女を抱え込もうとはしないんじゃないかい……? 赤子姿の私を放っておけなかったとか、きっとそういう理由があると思うんだけど……」


「どうかな……まあナディアがそう信じてるならそれで良いと思うけど。もし閣下が皇女と結婚しなかったらがっかりするの? 皇女は確かに可哀想な人かもしれないけど、彼女と結婚するという事は閣下にとってもエバーナイト公爵家にとってもマイナスでしかない。情だけでは爵位や領地は守れないんだよ?」


 イノセントは思ったよりも広い視野を持っているらしく、セレスティンが言いたい事を全て代弁してくれた。最初の印象が悪すぎたせいで意図的に遠ざけてはいたが、これを機に少し評価を改めても良いかもしれない。とはいえ手段を選ばない側面があるのも事実、手放しで信用する事は出来そうにない。


 ただ話を聞いている限りではナディアの言う事をよく聞きつつ、必要であれば諌言も辞さない様子。仕えている意識がなく対等だからこその言動という可能性はあるが、今までもこんな感じだったのなら、ナディアが相談相手としてイノセントを選んだ理由が分かるというものだ。


 自分がどれだけの間こうしているのかは分からないが、ナディアがしっかりと公爵としての役割を果たしてくれているようで一安心だ。


 そう思った途端、セレスティンは抗いようのない強烈な睡魔に襲われた。どうやら身体はまだまだ本調子ではないらしい。意識だけが戻り、身体が動かせなかったのもそのせいだろう。


(まあもう少し寝ていても……問題は……な……いか……)


 つかの間のセレスティンの覚醒に気付いた者は、誰一人として居なかった。

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