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国に飼い殺され続けた魔女、余命十年の公爵の養女になる? 〜養女契約のはずが、妻の座を提案されてしまった〜 - 58.判決
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58.判決

 ナディアが想像していたのよりも数倍早く、その日は訪れた。第二回公判。そして体感数分で判決は下された。勿論、それはナディアの体感であって、実際の時間はそれなりにかかっている。ただ、そう錯覚してしまうくらいトントン拍子に事は運んでいった。


 ——主文、被告人を無罪とする。


 当然と言えば当然だった。審問官側がねつ造した証拠は全て抹消された上に、今回の公判に出廷した検察官は前回とは違い、真実を求める人物だった。そして心を入れ替えた(・・・・・・・)裁判官によりエバーナイト公爵家顧問法理士が提出した証拠に一切のねつ造がない事も認められたのだ。これで有罪になる方がおかしい、というセレスティンの発言通りの結果だ。


 それでも、ナディアはすぐには理解出来なかった。今までの人生、ナディアの周りには悪意しか渦巻いていなかった。ナディアの事情など一切関係なく、悪人のレッテルを貼られた。悪人にはなにをしても良いと判断され、平気で身体に刃物を入れられた。ようやく解放されたかと思えば、人身御供として長い時を森で過ごした。


 そんな、何一つ自分の自由にならないどん底の人生が、たった一度の事故によって開け、ついには正真正銘の自由を手に入れた? ……本当に? なにか裏があるのではないかと疑うナディアをよそに、セレスティンもイノセントも顧問法理士の男性も、皆当然だとばかりに頷いている。


 最初こそ悪意に満ちた視線を向けていた傍聴人達も、今や哀れみの目を向けてくる。唯一の救いは、そこに多少の恐怖心や不安感が混じっていた事だろうか。それすらもなければ、突然の手の平返しは全て、新たな悪意へ進む為の演技だと判断していた。


 とにかく、ナディアは自由になった、らしい。


 森で長い時を過ごす間、自由になった自分を想像してやりたい事をまとめていた。本当に自由になるとは露ほども思っていなかったから、書き上げたリストは全て捨てていたけど、内容は覚えている。これからはそれら全て自分次第で叶えられる……。


 どうやら人間は、願う事は多いものの、いざ叶うとなると返って怖じ気づくものらしい。ナディアは今、己の震える手からそれを知った。




 大きな問題が片付いた途端、それよりも小さな問題が頭をよぎった。ナディアはこの先、どう暮らせば良いのだろうか。確かにセレスティンの養女となる契約をした。けどそれは、セレスティンの余命が幾ばくもないからだった。ラファエルやイノセント達が寝る間も惜しんで研究をした結果、最早その問題は解消しつつあるし、そもそもナディアは既に大人のなりをしている。とてもではないけど養女とは呼べないだろう。


 セレスティンの口ぶりでは、皇太后という目の上のこぶも直に居なくなるはずだ。そうなれば、それなりに自由に恋愛する事も叶う。愛する人との子を抱く日もそう遠くはない。


(お役御免だな……)


 当たり前の事なのに、何故か心臓がぎゅっと痛んだ。ナディアが求めていた自由には、貴族という記号はむしろ足枷でしかないはずだった。それなのに自分の心は今、明らかにそれらを惜しんでいる。


(分からない……、自分の気持ちが……)


 あの城に住んでから、随分と自分の名を呼ばれる回数が増えた。たった数ヶ月。だけどそれまで生きてきた何百年という歳月より、この数ヶ月に呼ばれた回数の方が遙かに多い。だからだろうか、すんなりとあの城を去る決心がつかないのは。


 セレスティンは一度交わした契約を、自分が健康になったからと言って反故にするような人物ではない、と思う。彼は優しいから内心ナディアを邪魔に思っていても、なにも言わないんじゃないだろうか。


(私から言うべきなんだろうね)


 世話になった恩を返す為に。立つ鳥は跡を濁さずに去るとしよう。そう、心に誓ったのだった。

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