第一章 21話 「ギルド」
ゲーム開始から5か月が経った。
第1エリア『ガカリ地方』 荒野地帯――――
5人組の若い男女が、サソリ型のモンスターと対峙していた。
男性4人に、女性1人のパーティー。その中には、ナヤギの姿が見える。
サソリ型モンスターの大きさは5メートル強。
サソリが大鋏を大きく広げ、突進してくる。
対して、二人の男が前に出た。
少し長めの茶髪の男と、黒い短髪に狐目の男。二人とも片手で持てる盾を装備している。
男たちが前に出るのに合わせて、ピンクの髪の女性が魔法を詠唱。
防御バフの魔法だ。
男たちの輪郭が緑色の光に包まれる。防御力が上昇している証拠。
前に出た二人は、両手の大鋏の攻撃をそれぞれ防ぐ。
かなりの衝撃。
二人とも足に力を入れて必死に踏ん張る。
多少引きずられ砂地に跡が残ったが、サソリの突進は止まった。
「先輩! 頼みます!」
茶髪の男が叫ぶ。
それを合図に、ナヤギが飛び出す。
「任せろ! ――――炎属性付与――――」
起動言語を呟くと、ナヤギの持つ白い刀身の剣に炎が纏い始める。
地面を蹴って飛翔。サソリの頭上へ。
サソリは毒針のついた尻尾で彼を貫こうする。
毒針に貫かれる寸前、ナヤギは体をひねって一撃を躱す。
そのまま、サソリの甲殻の隙間を狙って剣を深々と突き刺した。
「ギギギギギィィィィ!!」
悲鳴と共に、サソリは体をよじる。
そして、光の粒となりはじけ飛んだ。
「流石っすね、先輩! やっぱり、ギルドに入ってもらって正解でしたよ」
にこやかな笑みを浮かべた茶髪の男が、ナヤギに近づいてくる。
他のメンバーもナヤギの元へと集まってくる。
全員がナヤギに好意的な表情。
現在、ナヤギはとあるギルドに身を寄せていた。
**************
3ヶ月前
コロンとの一件の後、ナヤギはそのままエキシポに住み始めた。
あの後すぐに彼女はエキシポから離れたらしく、再会はできていない。
だが、チャットでのやり取りをポツポツとしており、彼女が元気にしていることは分かっている。
エキシポでの生活で、PK数は倍になった。
人狼専用スキル「PK経験値up」もLv.3に。
エキシポには中堅プレイヤーも多いのも合わせて、大幅にレベルが上がった。
ナイフ投げもぼちぼちと練習。
以前より、スキル「ナイフ投げ」のレベルも上がり、腕前も上達している。
しばらくエキシポで生活した後、別の都市へと狩場を移した。
人狼がいるという噂が立ったためだ。
エキシポも王都ほどではないにしろ巨大な都市ではある。しかし、住んでいるプレイヤーの数が圧倒的に違うため、1人1人しらみつぶしに調べられれば、見つかる可能性がある。
それを避けるために引っ越しをした。
新しい狩場は、第3攻略拠点都市「シンエトリ」
エキシポから50㎞ほど北の荒野地帯の真ん中に位置。エキシポと同じくボス攻略の拠点として利用されていた。
日干しレンガの建物や、乾燥した土の道で構成された街並み。ほとんどのNPCがターバンを巻いている。
他の都市からのアクセスが悪いためエキシポよりもプレイヤーの数は少ない。だが、荒野に現れるモンスターが経験値効率の良いことと、第3ボスからドロップするレアアイテム目当てから、ある程度の数のプレイヤーがシンエトリに滞在している。
シンエトリに住み始めてから、1週間ほど経ったある日。
「あれ? もしかして柳先輩じゃないすか?」
買い物がてらナヤギが都市を散策していた時に突然、背後から声をかけられた。
振り向くとそこには見覚えがある顔。
少し長めの茶髪の男だ。
歳は10代ほどに見え、両耳にはピアス、Tシャツ風のラフな装備、背中には湾曲した鉄製の盾と短刀。なんというかチャラそうなイメージ。
「もしかして‘トラ’か?」
質問を質問で返す形となったが、ナヤギはそう聞き返した。
「やっぱり柳先輩! 先輩も、“セビロ”手に入れていたんすね」
トラと呼ばれた男は嬉しそうだ。
ちなみにセビロとは<Savior Lord>の略。
瀬川 虎春
チャラそうな茶髪の男の名前だ。
ナヤギが通っていた高校の卓球部の1つ下の後輩。皆からはトラと呼ばれている。
ちなみに部活はサボりがちで、顔を出さない日も多い。
プライベートで会うほどではないが、ナヤギとはそこそこ仲が良い。流行っているスマホゲームの話で盛り上がったりしている。
「お前もか。 まさかこの世界で知り合いに会えるとは思ってなかったわ」
ナヤギは驚いていた。
全国で5万本しかないゲームを、自分と同じ高校の、しかも知り合いが手に入れているとは思ってもいなかった。
「なになに~、トラの知り合い~?」
トラの後ろから、1人の女性が出てきた。
ウェーブがかかったロングでピンクの髪を持つ女性。歳は、ナヤギたちと同じくらい。
アクセサリーを多く身につけており、ギャルっぽい印象を受ける。
「そうそう! 同じ部活の先輩!」
「ふ~ん、そうなんだ~」
ギャルはジロジロとナヤギを舐めるように見てくる。
ナヤギが苦手なタイプかもしれない。
彼はギャルの軽いノリや自己主張の激しさにただでさえ抵抗がある。その上、見定めるような視線を送られるのは、あまり気分が良いものではない。
「ちなみに童貞」
「おい!!」
自分のプライバシーを暴露されて、思わずツッコミをいれる。
トラは後輩ではあるが、ナヤギをよくいじってくる。
それだけ仲のよい証拠なのかもしれないが。
ギャルが思わず吹き出していた。
馬鹿にするような視線。嘲笑を含んだ目。
童貞で何が悪いんだよ! だいたい男子高校生の大半は童貞だろうが――――!
ナヤギは心の中に怒りを覚える。
「それで柳先輩――――って、そもそも柳先輩って呼んでいいんすか? プレイヤー名ってどうしてます?」
トラが疑問を投げかけてくる。
そもそもオンラインゲーム上で、本名を名乗ることや呼ぶことはマナー違反で危険な行為だ。
だから、たとえ苗字だけだとしても呼ぶのは避けた方が良い。
「俺のプレイヤー名は、ナヤギだ。 だから、なるべく柳と呼ぶのはよしてくれ」
怒りを抑えて、ナヤギは冷静に答える。
「ナヤギって……先輩らしい安直な名前っすね! ちなみに俺のプレイヤー名はトラです」
ほら、すぐいじってくる。
「お前も安直じゃねえか!!」
「あ、バレました? だから、俺のことはいつも通り呼んでくれていいっすよ。 先輩のことは、苗字をつけずに‘先輩’って呼びますね」
この世界でも相変わらずだ。
数か月ぶりのやり取りにナヤギは懐かしさを感じていた。
「それで、先輩はなんでシンエトリに? もしかしてボス討伐に参加するつもりとか?」
「……いや、レベル上げのためだ」
人狼だからPKをやりやすい場所を求めて来た、などと馬鹿正直に話すつもりはない。
無難な理由で乗り切る。
「じゃあ、俺たちと一緒っすね! 先輩は、どこのギルドに所属しているんです?」
「どこにも所属していない。 俺はソロだ」
あまりソロだと公言はしたくないが、下手に嘘をつくわけにはいかない。
ゲームでの死が現実の死に繋がるこの世界において、ソロプレイヤーは非常に少ない。
当然、ソロプレイの方が死にやすいからだ。死にたがり、だと思われても仕方がない。
だから、ソロプレイヤーはただでさえ目立つ。
なるべくなら目立つことは避けたいと、ナヤギは思っている。
目立てばそれだけ人狼であることがバレる可能性が高くなるからだ。
だが、下手に嘘をついて嘘であることが明かされれば、それこそ人狼であることがバレるかもしれない。
「まじっすか!? 先輩、もしかしてぼっち? やっぱり、ぼっちなんすね!」
周囲に聞こえるような大きな声で、トラは笑う。
隣のギャルも、一緒におかしそうに笑っている。
「うるせえよ!! ソロでもいいだろうが!」
「まあまあ先輩、怒らないでくださいよ。 笑ったのは謝りますから」
おちゃらけた態度。
絶対に悪いとは思っていない。
トラはたまに度が過ぎる時がある。ナヤギは、彼のこういうところがあまり好きではない。
「あ~笑った。 でも、ソロってすごいっすね。 それだけ実力があるってことですもんね」
さっきとは一転して、トラはナヤギを褒める。
いじった後のフォローはしっかりしている。だから、ナヤギは彼のことを嫌いになれない。
「そうだ! 俺のギルドに入りませんか?」
唐突なギルドへの勧誘。
ナヤギは一瞬、ポカンとした顔をした。
「実は俺、ギルドマスターやってんすよ。 まあ、俺とコイツと後2人で4人しかいない小さなギルドですけど。 でも、いつかはトップギルドになるんで。 先輩が入ってくれたら百人力っす」
トラは、ナヤギに笑顔を向けてくる。
期待している目だ。
「え~、コイツもギルドにいれるの~?」
ギャルが不満を口にする。
眉をしかめて、不快そうな顔。まるでゴミでも見るかのような目でナヤギを見てくる。
その態度にナヤギはいら立つ。
「いいじゃん。 俺の先輩だし、悪い人じゃねえし、きっと役に立ってくれるさ。 ダメか?」
「まあ、トラがそういうならいいけどさ~」
トラがギャルを宥める。
意外にも、ギャルはすんなりと受け入れた。
「で、どうすか?」
「そ、そうだな。 えっと……」
ナヤギは口籠る。
今すぐに返事をするのは難しい。
メリットとデメリットが存在するからだ。
ギルドに入るメリットは、ソロではなくなるため目立つ可能性は低くなることや、普段の話し相手できるため情報が手に入れやすくなったり、孤独感を味わわなくて済むことだ。
逆にデメリットは、行動が制限されるためPKがしにくくなることや、メンバーに人狼であることがバレる可能性があることだ。それに、メンバーを危険にさらすことになるかもしれない。
口に手を当てて、ナヤギは頭を悩ませる。
「なんで悩むんすか? もしかして先輩、人狼とか」
「ばっ、違うに決まってるだろ!!」
とっさに嘘をつく。
きっとトラは冗談で言ったのだろうが、ナヤギは内心焦った。
首筋を嫌な汗が流れる。
本当に人狼であることがバレたのかと、彼は思った。
「分かった。 入るよ、入ればいいんだろ」
半ばやけ気味に、ギルドに入ることを了承した。
返答を聞いたトラは嬉しそうだ。
「あざっす! これからよろしくお願いしますね!」
トラに差し出された手を、ナヤギは握り返した。
こうして、ナヤギはギルド『虚空の季節〈リリィ・シーズン〉』に所属することになった。