第一章 36話 「入隊」
開いた口が塞がらないとは、まさにこういうことを言うのだろう。
「親衛隊とは、〈Savior Lord〉における「PINPIN」のファンクラブ。 そして、会員番号0001番にして隊長であるのが、この俺だ!!」
「だから、お前何者だよぉぉぉぉぉ!!」
ナヤギは叫ばずにはいられなかった。
型破りではあるとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。
人狼であることがバレれてしまえば殺されるのに、これほど大胆に行動できるのは異常と言える。
「羊皮を被りし狼」という正体を隠すのに有効なスキルを所持しているとは言え、それも絶対的に安心できるものではない。一度でもしくじり正体がバレれば死に繋がる。
ソウキもそのことを理解できているはずだ。
それを踏まえてここまで大胆になれるのは、ある種の才能かもしれない。
「だから、俺が親衛隊の隊長だって」
「いや、そうじゃねえよ! そういうことを聞きたいんじゃなくてだな……」
「ふっ、分かってるって――――」
ナヤギの肩にソウキは手を置き、耳元で囁く。
「今ここでする話じゃねえだろ」
ソウキの言葉にナヤギはハッとする。
冷静さに欠け、もうすぐ口を滑らせるところだった。
冷静さを取り戻すことができたのは、ソウキのおかげだ。
「すまねえ、ありが……って、そもそもお前のせいじゃん!」
「そうやって何でもかんでも人のせいにするのは良くないぜ」
やべえ、ぶん殴りてえ――――!
諭すような顔をしているソウキに、ナヤギは怒りを覚えた。
せっかく取り戻した冷静さが吹き飛びそうだ。
「……それで、プライベートライブはさっきライブと何が違うんだよ」
「よくぞ聞いてくれました! そこの君、この“新入り”に説明してあげたまえ」
ん? 新入り――――?
「はい、隊長! 了解であります!」
ソウキの後ろから小太り男性が一歩前に出る。
「新入り」という言葉に引っ掛かったナヤギだが、男の説明が始まったのでおとなしく聞くことにした。
「プライベートライブとは、親衛隊以外の部外者の立ち入りの一切を禁じて秘密裏に行われるライブであり、「PINPIN」が我ら親衛隊に与えてくれるご褒美のことであります! 通常のライブよりも「PINPIN」との距離が近く一体感を得ることができるのが特徴かと! また、未発表の新作を披露してくれることもあります! そして! 何といってもライブ後に行われる握手会こそが我ら至上最大の至福の時と言って間違いないかと思われます!」
説明を終えた男の背筋はピンっと伸ばしたまま威風堂々と胸をはっている。
そんな彼にナヤギは若干の気持ち悪さを感じた。
ナヤギとは対称的に、ソウキはうんうんと頷き彼に拍手を送っている。
「その通りだ。 ありがとう、下がってくれていいよ」
「……おい、新入りってだれのことだ」
まさかとは思いつつナヤギは、ソウキに疑問を投げかける。
「ふっ、決まっているじゃないか。 お前以外に誰がいる、新入り君」
まじかー……――――
予想していたこととは言え、ナヤギは天を仰ぎたい気分になった。
一応「PINPIN」のファンではあるが、ファンになったのはほんの1,2時間前のことであり熱狂的なファンというわけでもない。
なにより、こんな異様な集団の一員になるのは抵抗がある。
「ほら、お前の法被」
ソウキからピンク色の法被が手渡された。
背中には、「PINPIN LOVE」と大文字で書かれており痛々しい。
「……これ着なくちゃだめか? 正直、気持ち悪いから着たくないし、そもそも親衛隊に入――――っ!」
その時、ナヤギは悪寒を感じた。
先ほどの賑やかな雰囲気とは一変し、重く苦しい空気が周囲を支配する。
「気持ち悪いだとよ……」
「奴は我らの愛を侮辱した」
「異端者だ……」
「異端者には裁きを」
ナヤギ以外のその場に居る全員が殺気立っている。
言うまでもなく彼らが殺気を向けている相手はナヤギ唯一人。
20人以上からの殺気に、ナヤギは冷や汗をかく。
「……お、おい、ソウ――――っ」
ソウキに助けを求めようとするが、彼も例に漏れずナヤギを睨みつけていた。
むしろ誰よりも殺気立っている。
ソウキがゆっくりと手を上げる。
それを合図に親衛隊がナヤギを取り囲む。
「なっ……!」
慌てふためくナヤギに対して、ソウキはゆっくりと口を開く。
「……今から質問する。 一度しか言わない。 だから、慎重に答えた方がいい――――お前の中に「PINPIN」への愛はあるか?」
ナヤギに緊張が走る。
答えを間違えれば殺される、そんな雰囲気。下手な回答は出来ない。
「……っ」
ナヤギは覚悟を決めた。
手に持っていたピンクの法被を羽織る。
「当然だ!」
そう言い切った。
「ようこそ、親衛隊へ!」
「歓迎するぞ、同志よ!」
「共にPINPINへの愛を語ろう!」
「新しい仲間にばんざーい!」
重く苦しい空気から一転して歓迎ムード。
気づいたら、ナヤギは胴上げされていた。
やだ、こいつら怖い――――
ナヤギは泣きそうになっていた。