第一章 幕間 「赤ずきんの墓参り」
曇った日の昼下がり
王都、大聖堂の裏にある共同墓地――――
広い敷地に無数の墓標が立ち並ぶ。
ある程度清掃はされているのか汚れている墓石はほとんど見受けられない。
静寂が支配し、纏わりつくような淀んだ空気が立ち込めている。天気だけのせいではないだろう。墓地という場所の特有の雰囲気。
とある人物が墓地の隅にある1つの墓標の前に立っていた。
真っ赤なローブを着た小柄な少女。
普段はフードを被っているが、今日は珍しく顔を出している。
黒髪ショートで整った顔立ち。
10人中10人が美少女と言うだろう。危うさが見え隠れする容姿ではあるが、その透き通るような緋色の瞳には強い意思がこもっている。
少女は膝を折って、墓標に刻まれた無数の名前の内の1つをなぞる。
「……すみません……今日もいい知らせを持って来れませんでした……」
目を落とし悔しそうに少女は呟く。
共同墓地
その名の通り、死者が集団で眠る場所だ。
<Savior Lord>においては、然したるイベントが行われるわけでもなくほぼ意味がない場所であったが、デスゲーム開始後は死亡したプレイヤーのプレイヤー名が記されるようになった。
おそらく少女も知人の墓参りに来たのだろう。
彼女は墓標に向かって話始める。
「兄さんが死んで半年以上にもなるのに敵の一人も討てないなんて……やっぱり兄さんがいないと私はダメですね……」
自分の無力さを嘆くかのように、少女の小さな手が強く握られる。
少女の口ぶりからするに、墓に眠っているのは自身の兄。
そして、敵という言葉から何者かにPKをされたのだろう。
「昔から守られてばかりでしたね……。 まだ何も返せていないのに……なんで、なんでですか……! なんで兄さんが……!」
ポツリ、ポツリと少女の心を映すかのように雨が降り始める。
雨が染み込みローブに跡を作っていくが、少女は墓標の前から立ち去る気配はない。
そんな少女に近づく影。
少女よりも淡い赤色のローブを纏った女性。
長い茶髪を後ろで1つにまとめ、少し吊り上がった目がクールな雰囲気を纏わせる。
おそらく少女よりも年上であろうが、成人しているという歳でもないだろう。
「やっぱりここでしたか、団長。 そろそろ攻略会議が始まりますよ」
女性は手に持った傘を少女に差し掛ける。
「……分かりました。 行きましょう」
少女は立ち上がると、女性と共に墓標から離れていく。
去り際、少女は少しだけ振り返り横目で墓標を見つめた。
「……待っていてください。 必ず人狼を根絶やしにして見せますから」
第一章完結になります。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ここまでこれたのも応援してくださる読者様のおかげです。
しばらくしたら第2章を始めようと思うので、今後もお付き合いいただけたら幸いです。