27「解剖とか酷くね?」①
気がつけば夜になっていた。
星々が輝く向島市の夜空に、宇宙人と夏樹が自転車を相乗りする。
「あの施設だ。あそこに婚約者がいる」
「……一見するとただのビルだな。さて、たとえ宇宙人だろうと誘拐するような人間は碌な人間じゃない。施設ごとぶっ壊していいよね?」
夏樹の身体から、紫電がほとばしる。
バチバチと音を立て、今にも解き放たれんとしていた。
「待ってほしい、我が友夏樹よ。君の力では、婚約者ごと丸焦げだ」
「わかってる。でも、その前にビルにあるはずの監視カメラとか機械の類はぶっ壊しておきたいんだよね」
「……そちらは私に任せてほしい」
「おおっ、宇宙的な技術でなにかしてくれるの!?」
「いや、ただのハッキングだ……露骨にがっかりしたな、友よ」
宇宙的なにかを見せてくれると思っていたが、スマホらしきものを取り出して慣れた手つきでぽちぽちしているだけなのでがっかりしてしまった。
「友よ。あのビルの三階に婚約者は囚われている」
「カメラは?」
「すべて使えなくした。過去の映像も破棄した」
「よっしゃ。んで、中に何人いるの?」
「力を持たない人間が、五人。君と似た力を持つ人間がひとり、だ」
「ついに霊能バトルに発展していくのか。腕が鳴るぜ!」
「……友の力と比べると、いいや、なんでもない。では、早く救出に向かおう。婚約者は、ミス惑星の候補に選ばれるほど美人だ。……万が一、辱めなどを受ける前になんとしてでも助け出したい」
「え?」と夏樹は、つい驚きを口に出してしまった。
幸いなことに、宇宙人ジャックは婚約者の心配をしていたせいで夏樹の声は耳に入っていないようだ。
よほど宇宙人的には美人なんだろう。
外見で判断することは間違いだとわかっているのだが、さすがにそれはありえないと思う。
「ごめんね。さすがに宇宙人のグレイ型に欲情できる上級者はいないかな。どちらかと言ったら、解剖されるんじゃないかってほうが心配だよ」
「解剖だと!? やはり地球人は恐ろしい生命体だ。昔、やんちゃな若者たちがロズウェったときも、キャトったときも、運悪く捕まってしまった同胞たちが帰らぬ人となったが……」
「あー、聞こえない聞こえない! 俺は世界の秘密なんてなんも聞いてないですからー!」
ロズなんとかも、キャトなんとかも、知りたくない。
ファンタジーを飛び越えてSFにまで足を突っ込むつもりも、日本以外の事情を知るのも、まだ早い。
「とりあえず、婚約者救出大作戦だ! 覚悟はいいか、ジャック!?」
「できている!」
「じゃあ、突っ込むぞ!」
空飛ぶ自転車に乗ったふたりは、『河童・つちのこ研究会』のビルの三階の壁に突っ込んだ。
轟音が響き、崩れた壁の瓦礫と、埃が舞う。
夏樹は口元を制服の袖で抑えると、指を小さく振るった。
魔法の風が巻き起こり、粉塵を吹き飛ばした。
「あーあ、自転車の前輪が駄目になった! これは河童・つちのこ研究会とかいう秘密組織に弁償させるしかないな」
「酷い目にあったが、ある意味心強い。夏樹よ、気をつけてくれ。ひとり、おかしな力を使う」
「わかってる。その力がこっちに向かって近づいてきているな。その前に、婚約者を見つけよう。場所はわかるか?」
「……隣の部屋だ」
「まかせろ!」
拳を握りしめた夏樹は、少しの魔力と腕力だけで壁を破壊した。
宇宙人を確保している施設にどのような罠があるかわからない。なによりも廊下に出て部屋の扉を律儀に開けるよりも、壁を突き破った方が早かった。
壁をくぐり抜けて隣の部屋に入ると、手術台のような机にひとりのグレイ型宇宙人が寝かされていた。
手足と腹部を革ベルトで固定され、動けないようだ。
よほど辛かったのだろう。真っ黒な瞳からは、人と変わらない透明な涙が流れている。
「ナンシー!」
ジャックが駆け寄り革ベルトを外そうとするが、鍵がかかるタイプのようで難しいようだ。
夏樹が近づくと、ナンシーと呼ばれた宇宙人が怯えた様子を見せる。
「安心してくれ、ナンシー。彼は、由良夏樹。地球の友人だ」
「どうも、由良夏樹です。ジャック・ランドック・ジャスパー・ウィリアムソン・チェインバー・花巻の友達です! よろしく!」
笑顔を浮かべた夏樹が、革ベルトを引きちぎった。
触れて気づいたが、ただの革ベルトではなく、何かしらの動物の皮に血と墨を塗ったものだ。おそらく、日本の魔道具かなにかだろう。
(……ここの奴ら、本気で彼女を解剖するつもりだったな。胸糞悪っ!)
ナンシーが寝かされていた台の横には、メスを始めとした様々な器具が置かれていた。
使用される前でよかった、と抱きしめ合う宇宙人カップルを見て思う。
同時に、ここの人間どもは全員ぶっ飛ばすことに決めた。
27「解剖とか酷くね?」①