62「姉妹っていいものじゃね?」
水無月家の一室。
水無月都は、自室のベッドの上で震えていた。
まさか自分が土地神の生贄になるとは思ってもいなかったため、突然すぎる人生の終わりに怯えているのだ。
無理もない。
まだ中学三年生だ。
突然、死ぬのだと宣告されて平然としていられるわけがない。
クラスメイトの由良夏樹が強い力を持った霊能力者だと知り、一族が招いたことで全てが変わってしまった。
当主である母は沈黙を保ったが、生贄を都に変更することは長老たちの中でほぼ決定しつつあった。
言い方は悪いが、一族の中で若く穢れていない者なら生贄としての意味があるのだ。
由良夏樹が余計なことを言ったため、才能があるとされている都になっただけの話だ。
「……お姉ちゃんも、こんな気持ちだったはず……」
自分よりももっと幼い頃に、生贄としての運命が決まっていた姉の澪は、もっと恐ろしかっただろう。
「……でも、よかった。お姉ちゃんが生きていてくれる。私が生贄になれば、お姉ちゃんはきっと幸せになれるはず」
唯一、安堵できるとすれば、姉がこれからも生きていけることだった。
水無月都は姉の水無月澪が嫌いだ。
生きることを諦めて、淡々と生きる姉が大嫌いだった。
もっと争うべきだ。
逃げたっていい。
誰かに助けてほしいと叫んだっていい。
しかし、姉は、なにもしなかった。
内心では、死にたくないくせに――自分が犠牲になればいいと思っているのだ。
とても不愉快だ。
姉だからと言って、全てを抱え込んでいることが、腹立たしい。
都のために、澪が生贄であることを甘んじて受け入れていることは知っている。
知っているから許せなかった。
――故に、姉に対して嫌な態度を取るようになった。
姉が生贄になる以上、都が次期当主だ。
そんな都が、仮にも生贄になる姉を姉として見ない態度を取れば、評判は悪くなる。
そうすれば、周囲もきっと姉のほうが次期当主となるべきだと考えを改めるだろう。
子供ながらにそう考えたのだ。
しかし、大人たちは意見を翻さない。
都は引くに引けなくなってしまった。
ついには、姉とどう接していいのかわからなくなった。
ならば、いつか大人たちが都を当主にふさわしくないと思うまで、傲慢な人間でいようと決めた。
客人として呼ぶように言われた、クラスメイトにも傲慢な態度を取った。
結果、都の態度がどうこうの以前に、身体を両断されて元に戻されるという二度と経験したくないことをされてしまった。
そんなクラスメイトによって、あっさり自分の目的が叶ったのだから喜ぶべきなのだが――死は怖い。怖いものは怖いのだ。
生贄になると痛い思いをするのだろうか。死んだ後はどうなるのだろうか。
そんなことを考えてしまう。
「――都」
「っ、だ、誰?」
「……あたし」
「……お姉ちゃん」
姉の声を聞いて安心した。
母が現れ、生贄として連れていかれるのではないかとさえ思ってしまった。
「大丈夫」
「え?」
「あたしが助けてあげるから。どんなことをしても、助けてあげるから」
「……どうして?」
扉越しに聞く、姉の声は優しかった。
なぜ理不尽な態度を取ってきた自分に、こんなにも優しい声を出せるのだろうか。
「理由なんていらない。あたしは、都のお姉ちゃんだから。妹が大事なだけ」
我慢できずに、都は部屋の外に飛び出した。
「お姉ちゃん! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
涙をボロボロ流し、姉に謝罪する。
なにに対して謝罪しているのか都はわからなかった。
澪はそんな都をゆっくり、力強く抱きしめてくれる。
「大丈夫。お姉ちゃんが絶対になんとかするから」
姉の言葉は嬉しかった。同時に、土地神を相手に、なにもできないことも都は理解していた。
泣きながら、こんな優しい姉が土地神の生贄にならずに済んだことを素直に喜んだ。
この日、ふたりの姉妹は幼い頃のように、お互いを大事に思い、抱きしめあって眠った。
都さんの態度が悪いのはそうすることで自分が生贄に……と考えていました。
今よりももっと幼い頃に考えたことなので、いろいろ荒はあり、引っ込みもつかなくなって現在に至りました。
納得できない部分もあるかもしれませんが、人間の感情なんてこんなものだと思って読んでいただけたら幸いです。