72「決着の時間じゃね?」②
三原優斗は、誰かの大事なものを奪うことが好きだった。
きっかけは、弟のおもちゃを無理やり奪ったこと。故意ではなく、おもちゃを壊してしまったのだが、その時の一登の悲しげに歪んだ顔と泣く様子にとてつもない快感を覚えた。
以来、優斗はいろいろな人から少しずつ大切なものを奪うようになった。
同時にひとつ気づいたことがある。
物理的な物を奪うのではなく、精神的に大切にしているものを奪った方が快感が大きかった。
つまり、他人が大切にしている人を奪うことに決めた。
物心ついた頃から、優斗は自分が容姿に恵まれていることと、異性がちやほやしてくれることを理解していた。だが、理由がわからないので異性に好かれるように努力した。
その努力が実を結び、些細な好意を抱かせた後、本格的な恋心に発展させることができるようになっていた。
最初は、クラスでも人気の少年だった。
彼が大切に思う、幼馴染みの少女。子供ながらに相思相愛だったふたりだが、一ヶ月ほどで少女は優斗にのめり込んだ。ついでに少年を嫌うように唆してみたところ、あっさり少女は少年を嫌ってしまった。物心つく前から一緒に育った少女に嫌われていると知った少年の絶望の顔はたまらなく、背筋に電気が走ったような快感を覚え――精通した。
弟の異性の友達をひとりひとり奪ってみた。
弟は孤独にこそならなかったが、女子から冷たくあしらわれることを悲しそうにしていた。
どんどん誰かから大切な人を奪うが、すぐに飽きてしまう。
優斗は、簡単に好きだった異性を乗り換えることのできる少女に興味を長く持てない。同時に、女子を軽んじ、また信用しなかった。
しかし、例外がいた。
由良夏樹という幼馴染みだ。
友人としていい子だと思ったが、友人だからこそ、彼から奪いたかった。
だが、彼には特別な人がいなかったのだ。
つまらないと思っていたが、ある日、彼に義父と義妹ができた。
義妹は最初こそ夏樹に懐いていなかったが、いつしか打ち解け、ついて歩くようになっていた。夏樹のことを好きだと言い、彼と結婚すると淡い恋心を抱いているのがわかった。
ずっと遠目から見ていた優斗は、今だ、と思った。
そして、いつも通り、握手から始めた。
優斗には不思議な力がある。
自分でもわかっていないが、異性に触れると好意を一時的に抱いてくれるのだ。
それを利用して、異性に触れ、好意を抱かせる。だが、それだけでは駄目だともわかっていた。そこで、甘い言葉を囁き、時には好意を抱いていると嘘を伝え、プレゼントを贈り、尽くした。
恋に恋する年齢の少女などこれくらいですぐに本当の恋心を抱いてくれる。杏も例外ではなかった。あとは少しずつ、夏樹を嫌うように仕向ければいい。
──しかし、優斗にも誤算はあった。
まず、あまりにもあっさり杏が優斗に恋心を抱いたのだ。優斗が何も言わずとも、優斗の気を惹きたい一心で夏樹の悪口を言う。夏樹よりも優斗のほうがいいと口汚く言うのだ。
もともとこういう子だったのだろう。がっかりしたし、嫌悪感も覚えた。
二つ目の誤算は、夏樹が絶望しなかったのだ。困った顔をするだけで、まあいいや、と言わんばかりの態度だ。
思えば、彼はあくまでも家族として杏を見ていただけで、それも時間が短いため、まだ大事ではなかったのかもしれない。
落胆したが、弟の一登が杏に恋心を抱いていたようで、兄に取られたことを知りショックを受けている姿を見られて溜飲が下がった。
なんとか夏樹を絶望させたいと思い、今度は幼馴染みの少女を奪ってみた。しかし、夏樹はそもそもその子を男子だと思い込んでいたようで、遊ぶ相手が変わったくらいにしか思わなかった。
次に、夏樹を可愛がり、家庭教師を買って出ていた高校生の少女を奪ってみた。夏樹は、勉強しなくてラッキーと喜ぶだけ。悔しくて、悔しくて、その少女を抱いてしまった。
どうすれば、夏樹の絶望する顔が見られるのか。どうすれば、彼が泣く顔を見ることができるのか悩んだ。
その間に、自分の自尊心を満たすために、他人の大切な者を奪い続けた。
するとどうだろうか、面白いように夏樹に男子たちが文句を言う。時には暴力に訴えることもあった。だが、夏樹は負けておらず、暴力には暴力をもってやり返していた。
気づけば、夏樹には男子の友人が増え、弟の一登も自分ではなく夏樹を兄のように慕っていた。あろうことか、両親までも夏樹を見習うように、などと言うようになった。
決して大切な者ではなかったが、逆に奪われた気がした。
夏樹の周囲には友人が溢れていた。
優斗の近くには女子たちが溢れていたが、夏樹は自分を羨ましがることはない。
知らないところで杏が暴走していたようで、由良家の家庭が崩壊したが、それでも夏樹は変わらない。
どうすれば彼を苦しめることができるのか、どうすれば彼が絶望する顔を見ることができるのか。
悩み続けてストレスが溜まる。
――ならば、彼の周囲をぐちゃぐちゃにしてやろう。
自分のことを幼馴染みでもなければ、友人でもないと言い放った、夏樹を絶望させてやるのだ。
きもいっすね。
決着つけますのでちょっと我慢をお願い致します。