第九十九話 双子の蟹姉妹
(……こいつらは一体、何者なんだ?)
俺の目の前には、全身の肌の色がそれぞれ赤色と白色に染まった、紅白カラーの少女達が立っていた。
少女達の体は、全て統一された色彩に染まっている。肌の赤い少女は、その髪色まで全て赤く。全身に着ている服の色や、瞳の色までも綺麗な赤色に染まっている。
もう片方の白い少女も、それは全く同じだ。肌や髪の色や服の色さえも、全てが白色に綺麗に染まっている。
唯一違うのは、それぞれの腕の先に付いている巨大なカニ鋏の位置くらいだろうか。
白い子は、左手に白色の巨大なカニ鋏が付いている。
赤い子は、右手に赤色の巨大なカニ鋏を付けていた。
今までこの異世界に来てから、俺はまだエルフとかドワーフのような、いわゆる『亜人種』タイプと呼ばれるような人間には一度も遭遇した事が無かった。
目の前にいる少女達は、皮膚や髪の色まで紅白色に染まっていて、RPGゲームなら魔族の敵キャラとして出現してもおかしくないような外見をしている事に驚いた。
「……お前達は一体、何者なんだ? どうして俺の命を狙おうとする!」
何となく答えは察しているけど、改めて目の前にいる2人のカニ少女達に尋ねてみる。
もちろんこれは、少しでも時間を稼ぐ為だ。
さっきこのカニ少女達は、女神教の枢機卿の指示で俺を殺しにきたと、自分達で既に答えを言っていた。
だとしたら、女神教がとうとうコンビニの勇者を抹殺する為に本格的に動き出したと考えるのが妥当だろう。
目的は、俺を精神的に追い詰める為か?
それとももう、無限の勇者とやらは女神教には必要がなくなったのだろうか?
どちらにしても、ここで問題なのは……。今の俺には、このカニ少女達と戦う術が全く無いという事だ。
頼りのアイリーンは、この場にはいない。コンビニ店長専用服の防御機能も、金森の攻撃を防いだ回数で既に2回分使用済み。
そしてさっき、俺の首を斬ろうとしてきたコイツらの攻撃を防いだ事で合計3回分全て使い切ってしまった。
赤魔龍公爵との戦いの時は、約3回くらい敵の攻撃を防いだら、コンビニ店長専用服の防御機能は完全に失われてしまったからな。
だとしたら、もう……俺の着ているコンビニ店長専用服の耐久力は完全に残弾切れ。その性能を失ってしまった可能性が高いだろう。
つまり、次に即死系の攻撃を食らったら。もう俺の命は無いって事だ。
だからここは、何としても時間を稼がないといけない。悲しい事にコンビニの勇者には、直接敵と戦う手段が全く無いのが現状だからな。
「私達が何者かですって? お姉様、どうしましょうかにぃ? 私達の事をコンビニの勇者には、どこまで伝えても良いのでしょうかにぃ?」
「そんなの答えられる範囲内であれば、別に良いんじゃないかにぃ? うちらは枢機卿様にお仕えしている女神教の魔女候補生だかにぃ。枢機卿様の命令で、お前の首を取りにきたかにぃ!」
「魔女候補生……? 一体、それは何なんだ?」
俺からの質問に、白色のカニ少女の方が胸を張ってドヤ顔で答えてきた。
「魔女候補生とは、女神教の幹部でもある『魔女』となる資格を手に入れる為に、猛訓練を積んだ訓練生達なのかにぃ! 私達は生まれながらにして『遺伝能力』を持っていて、枢機卿様の元で厳しい鍛錬を積んで、いつの日か次世代の魔女となり。女神アスティア様にお仕えする事を夢見ているかにぃ!」
「そうだかにぃ……! 魔女になれれば、アスティア様から決して老いることがない『永遠の寿命』を授けて貰えるかにぃ! だから、うちらは必死で枢機卿様の厳しい教えに従って、つらい訓練を毎日耐えているかにぃ!」
そういう事か。なるほどな……。
どうやらコイツらは、予想よりも遥かに頭の中身がおバカ過ぎる奴らみたいだ。
多分、女神教の核心を突くような貴重な内部情報を、この調子でポロポロと漏らしてくれる可能性があるぞ。
ここは時間稼ぎをしつつも、この馬鹿なカニ娘達からどんどん貴重な情報を引き出す事にしよう。
俺はドヤ顔の姉妹達に、聞き上手な話し相手役を演じながら、どんどん質問を続ける事にした。
「つまり、女神教に所属している幹部達は『魔女』と呼ばれているんだな? そして、その魔女達は女神アスティアから不老の寿命を授けて貰った特別な連中という訳なのか。この世界で暴れている魔王は、無限の寿命を持っているらしいが……。その魔王を倒して手に入る『何か』を狙っているのは、もしかしてその無限の寿命の能力を魔王から手に入れて、仲間達に分け与える為なのか?」
「そうだかにぃ! 魔王を倒せば『魔王種子』がもれなくゲット出来るかにぃ! うちらはそれをゲットして、この世界で永遠に生き続ける魔女様の仲間入りをするのが目的だかにぃ。そして、魔女となって永遠に女神アスティア様にお使えをするのが夢なんだかにぃ!」
……おおっ、何だか凄いぞ!
これでどうして異世界の勇者を闇堕ちさせて、強制的に魔王を作り上げているのか……という謎の理由と。
魔王を倒して、一体何を手に入れようとしているのかの答えが、ほとんど全て分かったんじゃないのか?
『魔王種子』だって? 初めて聞いた単語だが、それが魔王を倒した後に手に入るモノの正体なのか。
きっとその『魔王種子』は、無限の寿命を持っている魔王の体の中にあるモノで。それを手にする者は魔王と同じように、この世界で老いる事なく永遠に生きられるのだろう。
だとすると女神教の幹部の魔女達ってのは、大昔から生き続けている、文字通り怪しい知識を持った化け物みたいな連中なのかもしれないな……。
「――お姉様、いけないですかにぃ! もう時間がないですかにぃ。無駄話はこれくらいにしておかないと、他の魔女候補生達が、ここにやって来てしまうですかにぃ! 早くコンビニの勇者を仕留めて私達の手柄にしないと、チャンスを奪われてしまいますかにぃ!」
「おおっと〜、そうだったかにぃ〜! コンビニの勇者を早く倒してうちらの手柄にしないと、他の候補者達に手柄を奪われてしまうだかにぃ。ただでさえ、最有力の魔女候補としてリードしているクルセイスに、これ以上手柄を持っていかれる訳にはいかないかにぃ〜!」
巨大なカニ鋏を手の部分につけている少女達が、ゆっくりとこちらに向けて近づいてくる。
くそッ! どうやら時間稼ぎもここまでみたいだな。
俺はすぐさま腕に付けているスマートウォッチを操作して、上空のドローンを呼び寄せようとする。
今の俺に残されている攻撃手段は、ドローンによる煙幕やミサイル攻撃だけだからな。それらを駆使して、何とか最後の抵抗を試みるしかないだろう。
「――さあ、コンビニの勇者! 覚悟するかにぃ!」
「もう一度、私達の必殺技でその首をチョキ〜ンさせて頂きますかにぃ! お覚悟ですかにぃ!」
双子のカニ姉妹は、そう高らかに宣言すると。
もの凄い速さで高速移動をしながら大地を蹴り、2人で同時に、その場で大跳躍をした。
周辺にある木々を蹴るようにして、高速移動を繰り返すカニ少女達。最後には空から一気に俺の首に向けて、先ほどと同じように、姉妹揃って同時攻撃を仕掛けてくる。
「これでも食らえかにぃーー! 必殺、『双蟹十字斬』だかにぃーー!!」
巨大なカニのハサミを、少女達は空中でクロスするように綺麗に交差させる。美しい赤色と白色の曲線が、光のラインを十字に刻み込みながら、高速の速さで俺の目前に迫ってきた。
(――ヤバい、やられる……ッ!」
咄嗟に腕を首の前に構えて。何とか首が切断される事だけは防ごうとした、その瞬間――。
”カキーーーーン!!”
俺の目の前に、黄金色の光の剣閃が突然――眩いばかりの美しい曲線を描きながら輝く。
俺の首を狩ろうと、目前まで迫ってきていた2人組のカニ少女達が、黄金色の斬撃によって遥か後方にまで弾き飛ばされた。
「……かにぃ!?」
「……かにぃ!?」
10メートルほど離れた場所に弾き飛ばされた少女達が、尻餅をつきながら地面の上に倒れている。
ピンチを脱した俺の目の前に颯爽と現れたのは、美しい青髪を風になびかせたコンビニの守護騎士――アイリーンだった。
「店長、大変申し訳ございません……。帰ってくるのが遅れてしまいました!」
「アイリーン! 良かった……無事だったのか!」
「ハイ! グランデイル女王、クルセイスの親衛隊の襲撃を受けてしまい、その対処に時間がかかってしまいました。本当に申し訳ございません」
「大丈夫だよ、むしろ間一髪! 本当にナイスタイミングで戻って来てくれて助かったよ! ありがとう!」
アイリーンは、左腕に杉田の体を抱きかかえていた。杉田の様子は見た目はかなり、ぐったりしているようだけど。まさか、死んでたりはしないよな……?
「……杉田様は今、気絶しておられます。奥様の事が心配で冷静さを失っていましたので、申し訳ないのですが私が打撃を加えて、少しだけお休みをして頂きました」
「そうか。まあ、それはしょうがないさ。杉田には、ちゃんと後で謝っておくよ。それにこの戦いが終わったら、杉田の奥さんを迎えにグランデイルに行こうと思ってるしな。杉田が願っている結婚式も、うちのコンビニの地下でよければ特設会場を用意して開いてやるさ」
「了解しました。その時はぜひ、盛大に皆様でお祝いをしてあげましょうね、店長!」
アイリーンは一度、装甲車の上に飛び乗ると。上部のハッチを開けて、杉田の体を車の中にいる香苗に慎重に手渡した。
香苗は一瞬、ハッチを開けて上から覗き込んできたアイリーンの姿に驚いたようだったが……。
ぐったりしている杉田の様子を見て、ちゃんと息があるのを確認してから、すぐに杉田の体の治療を始める。
これからの戦いで誰がどんな酷い怪我を負ってしまうか、予想出来ない状況になっていく事を考えると。やはり『回復術師』の香苗には、ぜひうちのメンバーになって欲しい所だった。
少なくとも、コンビニで扱っている包帯や絆創膏だけで対応をするのには、もう限界があると思う。
「かにぃ〜! まずいかにぃ〜! 噂のコンビニの勇者の守護者が現れちゃったかにぃ〜!」
「お姉様、だから言ったですかにぃ! 必ず守護者が現れるから枢機卿様が気を付けろと仰ってたですかにぃ!」
カニ少女達は、再び巨大なカニのハサミをこちらに向けて構えると。アイリーンに対峙するように、戦闘態勢を取りながら身構え始める。
「アイリーン! あの2人のカニ少女達は、動きがかなり素早いから注意してくれ!」
「了解致しました! 確かに先ほど彼女達の攻撃を防いだ時に、見た目よりも遥かに強力なパワーを感じました。決して油断する事は出来ない危険な相手だと思います!」
アイリーンは俺のすぐ目の前に立ち、黄金剣を構えて迎撃態勢を整える。
……もしかしたら、俺のコンビニ店長専用服の防御機能がそろそろ限界だって事に、アイリーンは気づいているのかもしれないな。
さっきのは本当にギリギリ、ナイス過ぎるタイミングでアイリーンが駆けつけてくれたけど。
俺が知らないだけで、アイリーンやレイチェルさんにはコンビニ店長専用服が、後どれくらい防御機能を発動出来るのかが分かるシステムがあるのだろうか……?
「――さあさあ、どうやって攻めようかにぃ! あの青い騎士のお姉さんは、魔王軍の緑魔龍公爵に匹敵するくらいの力があるはずだから、厄介かもしれないかにぃ」
「お姉様、大丈夫ですかにぃ! 私達の個々の能力は無限の勇者の守護者と戦うには、僅かに劣っているですかにぃ。でも2人が揃っている時なら、守護者を倒す事も出来ると枢機卿様は仰っていたですにぃ。私達2人で少しずつ守護者の体力を削っていけば、必ず倒す事は出来るはずですかにぃ!」
「少しずつ体力を削るのかにぃ? でも、そこまで時間をかけてたら、他の魔女候補達がここにやって来てしまう可能性もありそうかにぃ。なら、さっさと攻撃をかけるしかないかにぃ!」
途端――。
前に立っていたはずのカニ少女達が、一瞬にしてその場から消えてしまう。
俺が気づいた時には、2人は赤色と白色の光の線を描きなから高速移動をして。一瞬にして、こちらに迫って来ていた。
そしてそのままカニ少女達は、アイリーンに対して巨大なカニ鋏を振り上げながら斬りかかっていく。
”カキーーーン!!” ”カキーーーン!!”
俺の目には光の直線が、何度も交差を繰り返しながら。カニ少女達の残像を空間上に描き上げているようにしか見えない。
だが、その一本一本の光の直線は、全てカニ少女達のカニバサミによる重い斬撃であり。アイリーンはそれらを全て的確に、黄金の剣で弾き返していた。
何だか本当に、子供の頃に見ていた漫画やアニメの超能力者バトルみたいだな……。
ちょっと瞬きをしただけで、アイリーンの黄金の剣から無数の火花が飛び散っているように見える。
迫り来る2本の赤と白の光速の線を黄金剣が弾き返すたびに、カラフルな花火が何本も煌めいて見えた。
……って、思わず見惚れてる場合じゃないぞ、俺にも出来る事を探さないと!
そうだ……まずは、コンビニと連絡を取ろう!
腕に付けているスマートウォッチを操作して、俺はコンビニに現在の状況を伝えるメールを作成する事にした。
ところが、ちょうどそのタイミングで――。
今度は突然、四方八方から装甲車に目掛けて、巨大な火の玉が無数に降り注いできた。
「――店長、危ないです!!」
今度もまさに、間一髪だった。
アイリーンがカニ少女達の攻撃を防ぎつつ、もの凄い速さで俺の前に駆けつけると。向かってくる無数の火の玉を全部、黄金の剣で素早く切り裂いてくれた。
「今のは、けっこうヤバかったな……! アイリーン、マジでありがとう!」
「いえ、店長をお守りするのが私の最優先任務ですから。ですが、今の攻撃は戦車の砲撃ではありませんでした。おそらく魔法による攻撃かと思われます」
「魔法の攻撃だって? それじゃあ、もしかして……」
俺とアイリーンが周囲を見渡してみると。いつの間にか2人のカニ少女達とは別に、合計で10人は超える白い鎧を全身に着込んだ騎士達が、俺達を包囲するように周りを取り囲んでいた。
……クソッ、敵の援軍が駆けつけてきたのかよ! ただでさえ余裕が無いのに、大人数で包囲されたらヤバい事になるぞ!
「かにぃかにぃ……!? クルセイスの親衛隊さん達がこんなに集まって来てくれたのかにぃ? でも、これでコンビニの勇者を倒す手柄が、みんなで山分けになってしまうかもしれないのかにぃ?」
「お姉様がもっと、全力を出さないからいけないのですかにぃ! ここでクルセイスの親衛隊に手柄を取られたら、私達の立場がないですかにぃ。こうなったら一気に必殺技を決めて、敵の守護者を抹殺しますかにぃ!」
ジリジリとこちらに間合いを詰めてくる、カニ少女達とグランデイルの白い鎧の騎士達。
こいつは、マジでヤバいかもしれないな……。流石にこの人数が相手では、アイリーンも1人だけで戦うのは厳しい気がする。
「――アイリーン、どうだ? 敵の数が増えてしまったみたいだけれど、何とかなりそうか?」
「店長。正直に言いますと、かなり厳しい状況です。あの白い鎧の騎士達も、『遺伝能力』を持っている凄腕の戦士達です。さきほど杉田様を助けに行った際に私は彼らと戦いましたが、あれだけ多くの人数が揃っていると対処は難しいかもしれません」
「そうか……なら、これはやっぱり大ピンチな状態って訳なんだな」
まあ、それはそうだよな。これだけの数を相手に何とかなるってのは、流石に虫が良すぎると思う。
ただでさえ、あの2人のカニ少女達と相手をしている時でさえも、アイリーンは既に手一杯って感じだったし。黄金の剣で何とかカニ少女達の攻撃を防いでくれてはいたけど、ジリジリと追い込まれていたからな。
「どうしたのかにぃ〜! それはもう、観念したって表情なのかにぃ〜? なら、さっそくトドメを刺させて貰うかにぃ〜!」
赤いカニ鋏の少女が、他の者達に先駆けて1番にこちらに向けて襲い掛かってくる。
アイリーンがその動きに対応しようと、黄金の剣を真っ直ぐに構えた、その時だった――。
”ドゴーーーーーン!!”
「かにぃ〜!? な、何をするんだかにぃ〜!?」
突然の爆発音が空中で炸裂すると。巻き起こった黒煙の中からは、白い騎士達が放つ魔法攻撃を必死に防いでいる赤いカニ少女の姿が見えてきた。
えっ……、何なんだコレは?
何であの白い騎士達は、味方のカニ少女達に魔法攻撃を加えているんだ?
「……お姉様! おのれぇぇ! 貴様ら、お姉様に何をするんですかにぃーー!!」
白いカニ鋏の少女が、相方である赤い少女に魔法攻撃を加えている白い騎士の一団に斬り込んで行く。
すると、瞬く間に辺り一帯には……。
枢機卿に仕える2人組のカニ少女達と、クルセイスの親衛隊である、白い鎧を着こんだ魔法騎士の一団との、激しい同士討ちバトルが始まっていた。
「一体、何なんだよ……これは? アイリーン、今の状況が分かるか?」
「いいえ、店長すいません……! 私にも現状が全く分かりません。敵が突然、仲間割れを始めたとしか説明が出来ない状態です。ですがこれは、私達にとってはチャンスです。この機会に出来るだけ遠くに、ご友人方を連れて逃げるべきだと思います!」
「それは俺も同感だ。アイリーン、すぐに装甲車の中に入ってくれ。ここから急いで逃げるぞ!」
俺とアイリーンは、同士討ちを始めている敵達をその場に放って置き。
装甲車の中に急いで飛び乗ると、アクセルを全開にしてこの場からすぐに離れる事にした。
本来のターゲットであったはずの俺が、装甲車でさっさと逃げ出してしまっているというのに。カニ少女達と白い騎士達の激しいバトルは、まだ装甲車の後方でずっと続いているようだ。
形勢は若干の実力差で、カニ少女達の方が優勢に戦いを進めているようだったが……。クルセイスの親衛隊である白い騎士達も、一歩もその場を譲ろうとしない。
俺達を必死に追いかけようとしているカニ少女達を、白い騎士達が追撃している――という状況のようだ。
装甲車を走らせながら、俺はアイリーンにもう一度尋ねてみた。
「――なあ、さっきの戦いだけど。あの白い騎士達はまさか俺達の味方をしてくれたなんて事はないよな?」
「分かりません。ですが、手柄の奪い合いという訳ではなさそうでした。それでしたら、私達があの場から逃げてしまうのは、彼らにとって本末転倒になります。共同戦線を張ってでも、私達を追撃してくるはずです。私にはむしろ、あの白い騎士達のターゲットは、私達ではなく。最初からカニの姿をした少女達だったようにも見えました」
「クルセイスの親衛隊が、女神教の魔女候補生の命を狙ってたっていうのかよ? それは本当に謎だらけだな。もしそうなら、クルセイスは一体何を考えて行動してるんだろう……」
とにかく、もし、あのままの状態だったなら俺達は大ピンチに陥っていた事は間違いない。
状況はまだ全く分からないけど、助かった事には素直に感謝しておこう。
「よし! このまま、コンビニのみんながいる所にまで戻ろう。ここにいたら戦車の砲撃に巻き込まれて、すぐに命を失いかねないからな」
「その事なのですが、店長……。実はこの戦車による大砲撃を操っていると思われる人物の位置を探知してしまったのですが、いかが致しましょうか?」
「――ええっ、何だって!?」
俺はアイリーンの言葉に驚き、思わず装甲車に急ブレーキをかけてしまう。
「きゃあああーーっ!! か、彼方くん!?」
急ブレーキの衝撃で、助手席に乗っていた香苗が小さな悲鳴をあげる。
「――あ、アイリーン! 黒い戦車による大殺戮を引き起こしている犯人が、この近くにいるっていうのかよ?」
「ハイ。かなり近くにいます。その者を仕留めれば、この戦車による砲撃を止める事も出来るかもしれません!」