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月下に契る - 第六十二話:宗雅の章 8――命の大呪法――
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第六十二話:宗雅の章 8――命の大呪法――

幾度にも渡る、妖魔との戦いの爪痕は、京の地に深く刻まれていた。

見えぬ呪毒は大地を蝕み、空の気すら重く沈む。

縁の魂もまた、その余波の中で危うく揺らいでいた。


もはや通常の術式では、彼女を守りきることはできない。


私は、決断した。

命を、術に変えるという決断を。


「晴明。……お前の助けが要る」


静かにそう告げたとき、晴明は眉一つ動かさず、私を見つめ返してきた。


「……まさか、あれを使うつもりか」


「他に方法はない。縁の魂は不安定すぎる。このままでは、未来へと魂が繋がる前に、塵となるだろう」


「お前は……理解しているのか? あの術は、“存在そのもの”を代価とする」


「分かっている」


私は頷いた。

だからこそ、これが最善なのだ。


「紅明は……未来で目覚める。そして縁も、彼の傍に再び在るだろう。

ならば、その魂が途切れず、未来まで“在り続ける”ための守りが要る。

この身が、その楔となればいい」


晴明はしばらく沈黙し、やがて小さく目を閉じた。


「……共に、術式を組もう。最後まで、付き合う」


その呪法は、莫大な霊力を必要とする。それは、紅明を未来へ送ったそれよりも――代償を必要とする。

送るのではない。守るための…守り続けるための大呪法。


呪壇に陣を描き、十二支の方位を定める。

天地の間に“在る”もの全てを繋ぎ、霊脈に命の根を注ぎ込む。


これは“命の大呪法”――

使用者の魂魄・肉体・記憶すらも捧げ、別の存在を守護する結界を築く秘術。


その本質は、術者の“消滅”。


陣の中心に、私は座す。

晴明は陣の外で補助を司り、霊流を制御する。


「宗雅……」


「構うな。もう決めたことだ」


すでに血は、指先から溢れ出ていた。

命を媒介にした霊力は、狂おしいほどの輝きを放ち始めていた。


だが、苦しみはなかった。

私はただ、祈っていた。


(紅明……お前が、いつか目覚めたとき……

どうか、縁の魂が、そばに在りますように)


(彼女の笑顔が、未来にも、咲きますように)


(そして……お前が、遥かなる未来で、孤独でありませんように)


光が天に昇る。

陣が唸りを上げる。

地が軋み、風が逆巻く。


私の肉体は崩れ始めていた。

もはや痛みは、なかった。


そして──


「…紅明…縁…」


最後に、その名を呼んだ。

未来へ眠る、二人の友の名を。


私の意識が、薄れていく。

すべてが霧の中に沈み、音も、色も、消えていった。


ただ一つ、願いだけが残った。


――どうか、未来でまた、逢えるように。


「宗雅ああああああああッッ!!」


術式の発動と共に、陣が弾け飛ぶ。

晴明の叫びが、天地を震わせた。


呪壇には、もう誰もいない。

宗雅の姿は、塵ひとつ残さず消え去っていた。


晴明は、その場に立ち尽くしていた。


歯を食いしばり、拳を震わせ、口元を歪めながら──

それでも、涙は流さなかった。


流さないと、決めていたのだ。


「……何故だ……お前まで……」


掠れた声が風に溶ける。


「私が…私だけが残されるのか……宗雅……」


その声は、夜空に吸い込まれていった。

静かな京の闇に、ただ一人の慟哭だけが響いていた。


彼は泣かない。

泣かないと決めた。

だからこそ、その叫びは、魂を引き裂くほどに静かだった。


「いや…ちがう…残されたのではない――託されたのだ」

晴明の瞳の奥に…悲しみのその奥に、覚悟が宿る。

「この時代は…私が護って見せる――未来へと、繋いで見せる――!」


宗雅の願いを、縁の想いを、そして、紅明の覚悟を、未来へと繋げるために。

晴明は、前を向いた。



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