ゲームフェイズ1:『9』隠者1
「じゃあ、僕と樺島とヤエさんで『9』、四郎さんと五右衛門さんと七香さんで『16』、デュオとタヌキとむつさんで『11』。それでいいな?」
……そうして、次のチーム分けもさっさと決まってしまった。
「よし……じゃあ、よろしく、ヤエさん」
「よろしくお願いします」
海斗はちょっと緊張気味の顔で、ヤエに笑いかけた。
……海斗はこれから、ヤエと話す。『願いがはっきりしていないのにデスゲームに参加しちゃった先輩』として、ヤエと話すのだ。
多分、これはバカにはできなくて、海斗にしかできないことなのだ。だからバカは……海斗をひたすら、応援する!がんばれ!がんばれ!
エレベーターの中は、3人とも無言であった。
海斗は緊張気味のまま固まっていたし、ヤエは元々口数が少ない方なのか、それともやっぱり緊張しているのか。そしてそんな2人に挟まれて、バカはやっぱり、何を喋っていいのか分からず黙っているしかない!
……が、そんな無言エレベーターも、無事に『9』の部屋の前に到着した。
「じゃあ、樺島。頼んだ」
「おう!任せろ!」
まあ、部屋に入ってしまえば、話すきっかけも生まれるだろう。バカは『よし』と意気込んで、部屋のドアを開けて……。
「……まっくら!」
部屋の中は、真っ暗であった!
……なんと!この部屋、初めて入る部屋だったようである!バカ、びっくり!
「あー……これは、どういう部屋だ?」
「わ、わかんない……」
「……そうか。数少ない『樺島が入ったことがない部屋』を引いたか……」
バカと海斗は、ひそひそ、と言葉を交わして、真っ暗な部屋を覗き込む。が、真っ暗は真っ暗なので、何も見えない!
「あ……向こう、光が見えますけど……」
……が、そんな中、ヤエがちょっと身を乗り出して、すっ、とそちらへ足を動かした。
すると。
「えっ」
するっ、と、ヤエが落ちた。なので、バカが瞬時に動いてヤエをキャッチする!
「うおおおおわあああああ!?ヤエえええええ!?大丈夫かぁああああ!?」
「バカ!ヤエさんの耳元で大声を出すな!」
……ヤエは、落下しかけたショックと、バカに猫か何かのようにキャッチされてしまったショック、そしてバカと海斗が『あわわわわわわわあああああ』とやっていることに対する混乱とで、ぽかん、としてしまっている。
だが、何はともあれ……ヤエが落っこちなくてよかった!バカは改めて、『よかった!よかった!』とほっとした。海斗には『そろそろヤエさんを降ろせ』と怒られた!
「あー……成程。真っ暗だが、どうやら、床にはところどころ穴が開いている、と……。悪趣味な部屋だな」
さて。そうして海斗とバカが『ここまでは床がある』『こっちは床が無い!ここ、穴開いてる!』とやりながら進んでいくことになった。
「あの……重くない、ですか」
……尚、ヤエはバカが担いで運んでいる。何せ、片足が悪いヤエのことである。バカと海斗ならば、すりすりと摺り足で進んで、『あっ、ここは穴!』と足の裏の感覚で知ることができるが、ヤエはそれが上手にできない。その上、ちょっとふらついたら穴に転落しかねないので……運ぶのが一番安全なのである!
が、ヤエとしては、運ばれている状況はやっぱり、落ち着かないようである。『迷惑かけてる……』と恐縮しきりで、バカの腕の中で縮こまってしまっている。
「ん!?全然!ヤエ、すっごく軽いぞ!生コンの袋2個運んでる時より軽い気がする!大体海斗ぐらい軽い!」
が、バカはバカなので、満面の笑みで『大丈夫!』とにっこにこであったし、言わなくていいことまで言った。バカなので。バカなので!
「……ヤエさん。その、デリカシーの無いこのバカに代わって謝罪と弁明をさせてくれ。その、樺島はとにかくバカ力なんだ。鉄骨を数本まとめて運んだり、重さ300㎏の錘を何事も無く運んだりするような奴なんだ。それに比べたら、人間1人分は……その、10㎏ぐらいの重さなら、誤差であって……その……」
「あ……その、すみません……私、身長あるから……その……」
……そうして、海斗が頭を抱え、ヤエがますます縮こまる中……海斗が叫んだ。
「ヤエさん!僕の体重は54㎏だ!」
「え」
海斗の唐突な叫びに、ヤエはぽかん、としていた。バカも、ぽかん、としていた。
「ヤエさんが男と同じぐらい重いという話じゃないんだ!僕が軽いのが悪いのであって……おい樺島ァ!なんで僕が自分の体重を公表しなければいけないんだ!お前のせいだぞ!」
「えっ!?ごめん!あっ、俺、95キロぉ!」
「お前の体重は!誰も!聞いてない!」
海斗はなんだかもう、すっかり気が動転してしまっているらしく、『僕は何に怒っているんだ!?』と自分自身で混乱している様子だった。そしてバカはバカで、『俺、やっぱりなんかまずいこと言ったんだな!?』とは分かっているので、すっかり気が動転してこちらも混乱している。
……と、やっていたところ。
「……っふふ」
ヤエが、くすくす笑った。
……笑ったのだ。だからバカは、ほや、と嬉しくなってニコニコしてしまう。海斗も、ちょっとほっとした様子であった。
そして。
「私、45です」
「全然僕と違った!嘘だろ!?おい樺島ァ!僕が体重を公表したのは何だったんだ!?おい!」
「うそぉお!俺の半分ねえの!?すっげえええ!すっげえええええ!」
ヤエも何故か体重を公表し始めたので、海斗はまた『キャーッ!』と慌てふためき、バカは『すげえ!』と目を輝かせるのだった!
さて。
そうして何やらしょうもないことをやっている内に、ヤエの緊張は解けてきたらしい。
バカの腕の中、大事に大事に抱えられつつ、もう、先程のように体が強張っている様子は無い。遠慮はちょっと見られるが、それだけだ。
「そっかー、ヤエ、長距離選手なんだもんなぁ」
「はい。体重管理、してました。長距離は軽い方がいいから」
ヤエの話を聞いて、バカは『ほええ』と感嘆のため息を吐きつつ……ちら、とヤエのことを見た。
真っ暗な中ではあるが、少しずつ光源に近付いていることもあって、なんとなく、ヤエのことも見える。
……ヤエは、女子の平均よりは身長が高い。それでいて、女子の平均よりずっと、細い。
女子は細ければ細いほどよい、という言説があることもバカは知っているが、それにしたって、細い。そんなヤエを見て、バカは『なんか、日本刀みたいだなあ』と思う。
だって、長距離走の為に、体重を削りに削って研ぎ澄ました体だ。スポーツ選手の、信念がしかと見て取れるような……そんな体躯は、正に日本刀のような鋭さと輝きを持っているように思われるのである。
あと、細い。単純に、細い!
「……『ここまで絞るのに、眠れない夜もあっただろ』ってやつだな?」
「え?」
バカが神妙な顔で『ヤエ、大変だっただろうなあ……』としみじみ頷くと、ヤエはちょっとぽかんとしていたが……ちょっと笑って、ちょっと睫毛を伏せた。
「ああ……うん、そう、かも。体重管理、結構、辛くて……うん」
「すげえなあ……俺、あったらあっただけ食べちゃうからなあ……体重管理とか、絶対できねえよぉ……」
バカはヤエを心の底から尊敬する。バカは、自分にできないことをできる人のことは、全員尊敬しているのだ!社食でいつも『エンジェルメガ盛りMAX』ばっかり頼むバカには、ヤエのような体重管理はできそうにない!
「樺島さん、筋肉すごい……ですね」
「うん!俺、建設業だから!パワーあった方がいいから!」
が、バカはバカなので、褒められると嬉しい。嬉しさのあまり、ちょっと浮かびそうになりつつ、ちゃんと地に足を付けて……その結果、うっかり穴に落ちそうになって、慌てて足をひっこめた!
「樺島。足元を見て動け。危ないぞ」
「あ、うん!そうだった、そうだった……」
バカは『ヤエも抱っこしてるんだし、気を付けなきゃ!』と気を引き締め直して、僅かな光を頼りにしながら、しゃなり、しゃなり……と歩いていくのだった。……女の子を抱っこしている時の歩き方は、こう!と何故か思っているバカであるので……。
「ここがゴールか」
そうして、僅かな光を頼りに進んだ先……暗闇落とし穴の迷路の先で、ようやく、光源である小さなランタンの元へ辿り着いた。ランタンの傍にはカードが落ちていたので、海斗がそれを拾い上げる。
「成程な……『隠者』か」
海斗はそう言うと、カードをバカの尻ポッケにもすんと突っ込んだ。今回も、カードはバカに任せていく予定らしい。
「その……ヤエさん。カードは一旦、樺島に預けておく。だが、もし必要になりそうだったら、言ってほしい。いつでも、カードは譲るから」
「え?」
だが、海斗がそう言うので、ヤエは困惑している様子だった。
それはそうである。ヤエはもう既に、『カード要らないです』と宣言しているのだから。
……そう。ヤエは、カードが欲しくないらしい。そして、願いも、無いらしいのだ。だから……。
「あー……すまない、ヤエさん。その、単刀直入に聞くが」
海斗が、頑張ることになる。
「ヤエさんは、何故、このデスゲームに参加したんだ?……もしよかったら、聞かせてほしい」
海斗の緊張気味の横顔と、困惑した様子のヤエの顔とを見つめながら、バカは、『頑張れ……頑張れ……!』と、2人を応援するのだった!