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偽りの悪女ですが末永く幸せになりましょう~お望みの"恋多き女"を演じているのに夫の様子がおかしい~ - 初めてのおでかけ
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偽りの悪女ですが末永く幸せになりましょう~お望みの"恋多き女"を演じているのに夫の様子がおかしい~  作者: 柊 一葉


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初めてのおでかけ

リネット・カーマイン(18歳)、人生で初めてのデートをします!

お相手は、王国一の美形と評判のアルフレイド・クラッセン様。


どうやらアルフレイド様も初デートらしい。

緊張で眠れなかった私と違い、アルフレイド様は今日も爽やか。


「では、出発しようか」


「はい」


公爵邸から二人で馬に乗って街へ行くということで、ダナンさんから愛馬の手綱を受け取った……アルフレイド様の手がなんだかぎこちない?

高速でガクガクしている。


「アルフレイド様?」


「問題ない、ちょっとした手首の運動だ」


デートの日ですら鍛錬を欠かさないなんて。

私ばかり浮かれていて、「私も気を引き締めて挑まなければ」と思った。


馬の背に乗せてもらい、私の後ろでアルフレイド様が手綱を握る。


「行くぞ!」

「はい!行きましょう!!」


キッと前を見据え、私たちはいざ街へ向かう。


「デートじゃなかったんですか?戦ですか?」

「見て見ぬふりをしてあげてください、グランディナさん」


門扉の前で見送りをしてくれていたダナンさんたちに「行ってきます」と言うと、馬がゆっくりと歩きだした。


馬に乗るのは初体験で、想像以上に目線が高くなって少しだけ怖い。

でもアルフレイド様が支えてくれているので、すぐに周囲の風景を楽しめる余裕くらいはできた。


最初に着いたのは、イールデンの中心部にある神殿。

貴族も平民も、身分に関係なく訪れることができるそうだ。

真っ白な石でできた三階建ての建物は、古いけれど掃除が行き届いていて美しく見える。


礼拝堂に入ると、高い天井を覆う色とりどりのステンドグラスが目に飛び込んできた。

鳥や蝶、花といった様々な模様が一枚一枚描かれていて、神聖な雰囲気だった。


「わぁ……ここがイールデンの神殿ですか。こんなにも美しいだなんて」


「この神殿は100年前に建てられた物だが造りが非常に強固なんだ」


「まぁ、100年も前に?今もこれほど立派だなんてすごいですね」


アルフレイド様は私のために自ら解説してくれた。

とても優しい。


今日のために必死でパーティーの準備を進めた甲斐があった……!


一言添えるだけの招待状も三百人分を手書き。

来客への手土産の選定・確認、衣装合わせ、会場の内装のチェック、お料理の確認などなど……お茶会すら開いたことのない私にとっては初めての経験で大変だった。


目が回るほどの忙しさの中で、公爵夫人としてふさわしいマナーや言葉遣いのおさらい、ダンスレッスン、さりげない会話術の習得……これらも一気に勉強したので毎日があっという間に過ぎていった。


アルフレイド様は毎日私の様子を見に来てくださって、夕食は一緒にと誘ってくれた。

かなり夫婦らしくなってきた気がする。



神殿の二階へやってくると、広いテラスがあった。

すっかり春の陽気だけれど、風が吹いていて長い金髪が大きく揺れる。


「風が強いな。リネット、寒くはないか?」


「はい、大丈夫です」


今日の私はワンピースにジャケット姿だから、これくらいの風は平気だ。

あぁ、布が多いっていいわね……!!

あったかいジャケット、ありがとう!


でもアルフレイド様は再び尋ねた。


「寒くはないか?」


「?はい」


「そうか」


アルフレイド様はなぜか上着を脱ぎかけていて、暑いのかなと思いきや、また何事もなかったように上着をきちんと着直した。


「お姉さん、お花をどうぞ!」


テラスでは、神殿で暮らす子どもたちが小さなガーベラを1本ずつ配っていた。

黒髪の女の子にそれを差し出され、私は笑顔で受け取る。


「ありがとう。お礼にこれをどうぞ」


マイラから「神殿でお花をもらったらキャンディーやドライフルーツをお礼に渡します」と聞いていたので、私はジャケットのポケットに入れてあったドライフルーツ入りの小さな袋を女の子に渡した。


にっこり笑ったその子は、小さく頭を下げてお礼を言って去っていった。


かわいい。

こどもって癒される……。


「身寄りのない子は神殿で預かり、教育を施した後で仕事に就かせるんだ。こうして普段から人と接することで、自分たちも街の一員なのだと感じてもらえれば……と神官たちが始めたらしい」


「そうなんですね。王都にも救貧院はありますが、子どもたちがこんな風に活動しているのは見たことがありません」


引きこもりの私でも、神殿へのお祈りは三カ月に一度参加していた。

そこでは身寄りのない子どもたちは掃除や洗濯をするのが役割で、一般の人と接する機会はない。


「私も、子どもたちのために何かしたいです」


「パーティーが終わったら神殿に顔を出してやってくれるか?」


「はい!ぜひ」


私が笑いかけると、アルフレイド様も微笑み返してくれる。


「さあ、ここ以外にもまだまだ見どころがあるぞ」


イールデンの街には王都に匹敵する蔵書数の図書館や博物館があり、美しい湖もあった。

私はアルフレイド様の愛馬に乗せてもらいそれらを一つ一つ巡っていく。


行く先々で、公爵邸の警備兵っぽい人たちの姿は見かけたものの、彼らが活躍することはなかった。アルフレイド様のお立場を考えると移動にはたくさんの護衛が必要なはずなのに、こうして二人でのんびり街を歩けるなんてびっくりだ。


「この街は治安がいいんですね」


「リネット一人ならともかく、男の俺が一緒にいて昼間に何か起きるようなことはないな」


確かに、アルフレイド様ほどの体格のいい人と並んで歩いていて事件に遭うことはなさそうだ。


市場の食堂で昼食を取った後は、アルフレイド様がよく知る武器工房へと向かった。

店がたくさんある商業街区からは少し離れれば、木造二階建ての一軒家がぎゅっと密集している。


壁にかかっている木製の看板には『ジル工房』と書かれていて、文字が少し消えかかっている。ずっと昔からここにあるといった感じの古い店だった。


初めての工房に、私は両手を胸の前で組み合わせて目を輝かせる。


「なんて素敵な佇まい……!頑固おやじの親方がいそうな、まさに理想的な武器工房!」


本の世界に入り込んだかのような錯覚に陥る。

喜びを爆発させる私を見て、アルフレイド様はくすりと笑った。


「俺の剣もここで作ってもらった。リネットなら興味があるかと思ったんだが、連れてきて正解だった」


しまった、はしゃぎすぎた。

私はすっと姿勢を正して大人しくなる。……もう遅いけれど。


「見たいです、とても」


「よかった」


アルフレイド様は扉を開け、中へと入っていた。

ノックしなくていいのかなと思っていると、私の疑問を察した彼は「作業中はノックされても気づかないから勝手に入れと言われている」と教えてくれた。


「誰かいるか?」


工房の中は、ダークブラウンの壁にたくさんの剣や盾が飾られていた。

外観から想像していたより奥に広い。

アルフレイド様が呼びかけると、奥の扉が開いて茶髪の青年が出てきた。


「あれ?アルフレイド様、お久しぶりです」


なぜここへ、という不思議そうな顔で彼は言う。

しかしすぐにはっと思い出して目を見開く。


「そうだ!今日でしたね!?奥様と一緒に……わぁ、すみません」


どうやら来客があることを忘れていたらしい。

アルフレイド様は慣れた様子で笑っていた。


「かまわない。ディストンはいるか?」


「本当にすみません……。父は奥にいます。ちょうど一段落したところです、どうぞ」


ここは、ディストンさんと息子さんの二人でやっている工房だそうだ。

ギィと軋む音がする扉から奥へ入ると、少しだけ階段があって地下へ下りる。


その先にあった鉄の扉を開くと、レンガ造りのかまどや作業台などがある広い部屋についた。


「父さーん、アルフレイド様がお見えです。奥様と一緒に」


「はぁ!?」


作業台の前にいた、屈強な体格に白髪のおじさまがこちらを振り向く。

この方が武器職人のディストンさんらしい。


「久しぶりだな。変わりないようで安心した」


アルフレイド様はやや呆れた風に笑いかける。


「あ~、そうか。結婚したから挨拶に来るって聞いてたな。すまん、すっかり忘れてた!」


「ははっ、別に構わない。いつものことだ」


ディストンさんはアルフレイド様とかなり親しげな様子で、話し方もフランクだった。

微笑ましく見ていると、アルフレイド様が私の背中にそっと左手を添えて紹介する。


「妻だ。これからよろしく頼む」


私は慌ててカーテシーをして名乗る。


「妻のリネットです」


ディストンさんの鋭い目が私に向けられる。

アルフレイド様の妻にふさわしいか審査されている……!?

一瞬どきりとするも、ディストンさんは首をかしげながら尋ねた。


「騎士でも魔術師でもない?普通の娘さんか?」


「え?あ、はい」


「王都から来たのか?」


「はい」


「どうしてこんなところに?」


まるで普通の娘が嫁ぐところじゃない、という雰囲気だった。


どうしてと聞かれても、貧乏でも一応は貴族令嬢なので政略結婚は普通のことである。

見ず知らずの人に嫁ぐことも、縁もゆかりもない土地に嫁ぐことも「よくあること」だ。


「えっと、王命で、結婚を」


「あ、違う。どうして工房なんかに見学にきたんだ?」


そっち!?

結婚のことじゃなかった!


びっくりする私に、アルフレイド様は「ディストンは腕のいい職人だが会話力が絶望的なんだ。気にしなくていい」と囁く。


「私、騎士の物語や武具に興味がありまして。それでアルフレイド様が連れてきてくださいました」


「騎士でもないのに、武具に興味?おまえさん、変わってるな?」


変わった人に変わっていると言われた!

私は思わず苦笑いになる。


ディストンさんはふいに壁際に向かい、そこにあった試作品らしき武器の山から何かを探し出す。


「結婚祝いに何かあればいいんだが」


「え?いえそんな」


「ボーガンはどうだ?対魔物用だ」


私の腕より大きくて長いボーガンを手に、ディストンさんは振り返る。


え、欲しい……。

使えないけれど欲しい……。


「リネットにそんな危険な物を持たせられるか!」


アルフレイド様が顔を顰めてそう言った。

欲しいと言えない空気になる。


「父さん、ボーガンもらって喜ぶ女性はいないよ」


ますます言えない。

私は気まずくて沈黙する。


「戦える方がいいぞ?」


「やめてくれ」


アルフレイド様はため息交じりに嘆く。

私が武器を持つことには徹底して反対らしい。


私には扱えそうにないというよりも、とにかく持たせたくないという風に嫌がっているのが伝わってきた。


ディストンさんも武器をあれこれ引っ張り出すのはやめて、「そうだなぁ」と納得したようだった。


「誰だ、普通の娘さんに武器を持たせようとしたのは」


「父さんだよ!」


息子さんが私に向かって「すみません」と頭を下げる。

ボーガンを贈ろうとしたことに対してか、それとも会話があまり噛み合わないことに対してなのか?


どちらにせよ、私は「お気になさらず」と返した。


「ディストン、邪魔して悪かった。また来る」


「はいよ」


アルフレイド様は見学なら上の部屋を、と言って私を連れて地下室を出ようとする。

ディストンさんは大きな紫色の鉱石を左手に持ち、何か作業を始めようとしていた。「休憩は?」と思ったけれど、息子さんが「いつもこうなんです」と言うのであえて止めるのも気が引けた。


私たちが出ようとしたとき、ディストンさんがぽつりと呟くのが聞こえてくる。


「結婚かぁ。リーバート様もお喜びになるな」


アルフレイド様のお父様のお名前だ。

肖像画に描かれていた、漆黒の髪に黒い瞳の凛々しい姿を思い出す。アルフレイド様によく似ていた。


アルフレイド様はディストンさんの言葉に何か返すこともなく、「行こう」と言って階段を上がっていった。

その横顔がほんの少しだけ悲しげに見え、思い出したくなかったのかなと感じる。


「アルフレイド様……?」


小さく呼びかけるも、返事はなかった。

階段を上がる足音が響く中、私はアルフレイド様の後を追って急いだ。




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