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恋をしたら死ぬとか、つらたんです - 78限目 悪堕ち優斗のドリームフェスティバル
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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第六章 ルッンルン☆初めてのデートは彼岸の彼方♡
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78限目 悪堕ち優斗のドリームフェスティバル

「俺はやっていないって、言っているだろう!」


 狭い取調室の中、青年の叫び声が響いた。

 そこにはもはや、涙すら混じっているようであった。


 昨日のことであった。

 17時53分。夕日に沈みゆく須内市を見下ろすことのできる展望台の上にて、彼は確保された。

 優斗の足元には、命を失った藤井ヒナが倒れていた。

 赤髪の彼は知らないことであったが――それは通算千度目の死亡である。


 それはよしとしよう。いや全然まったく良くはないのだが。

 そこまではいつものことである。千回繰り返したことであった。

 

 ただ、今までとは違うことが、たったのひとつだけある。

 それは――そこに優斗以外の目撃者がいなかった、ということだった。


 警察と救急車が駆けつけてくる中、優斗はヒナの死体を抱いて、泣いていた。

 そして優斗は重要参考人として、確保されたのだった。


 

 優斗の前には、ふたりの刑事がいた。

 ひとりは若く、ひとりは年配だ。

 彼らは腕を組みながら黙って、優斗を見つめている。


 優斗は赤髪を振り乱しながら、机に倒れ込む。

 どうしてこんなことになってしまったのか。


 優斗はなにも知らなかったのだ。

 藤井ヒナにかけられた呪いなど、なにも。


 状況証拠は揃っていた。

 その場に、優斗とヒナ以外の人物はいなかった。

 ヒナの死因は『呪い』なのだが、そんなことを警察が知るはずもない。

 かくして、優斗の取り調べは続いた。


「ヒナは、突然倒れたんだよ……。

 それ以外に、俺のわかることなんて、ないよ……」

「……本当か? お前がやったんじゃないのか?」


 その言葉はとても受け入れられるものではなかった。

 優斗は誰よりもヒナとのこれからを夢見ていたのだ。

 たとえ刑事の言葉であっても、優斗は睨み返す。


「なんで俺がヒナをどうにかしないといけないんだよ!」

「お前以外はいないんだよ!」

「ひっ」

 

 だが直後、ひとりがバンッと強く机を叩くと、その勢いも挫かれる。

 本物の迫力を前に、優斗は身を竦ませた。


 年配の刑事は舌打ちし、立ち上がる。

 まるで犯罪者を見るような目で、こちらを見下ろしてくるのだ。

 若い刑事が彼にそっと耳打ちする。


「しかし、タケさん……。

 これ以上はやばいっすよ、上層部から止められているじゃないすか」

「ああ? なに言ってんだ。ここからだろうが」 

「『藤井ヒナ』の死に関わるな。そう言われているじゃないすか……」

「胡散臭えんだ。事件の匂いがする。俺は絶対にこいつが関わっていると見ている。逃がしゃあしねえぞ」

「……タケさん」

「悪いな、巻き込んじまって。

 だが、原因不明の心臓発作と、それを見届けたのがたったひとり。

 そして事件に関わる銀髪の男……。これはすべて繋がっている。

 俺はそう核心してんだ」

「……いいっすよ、どこまでもついていきますよ」

「……フン」


 そんなことを言い合う刑事たちを前に、優斗は頭を抱えた。

 彼らがなにを言っているのかは、さっぱりわからない。


 だが確かなところがある。


「あぁ……ヒナぁ……」


 いくら呼んだところで、彼女の声は聞こえない。

 もう、その少女は、この世にいないのだから――。

 

 

 しんしんと雨が降り続く春の日。

 もう二度と晴れ間が見えることはないのではないかと思うほどに、優斗の心はふさぎ込んでいた。


 一体なぜ、こんなことになってしまったのか――。

 優斗は保釈されるまでの間、ただひたすらに刑事たちの尋問に耐え続けたのだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 それから間もなくのことである。


 葬式が開かれたヒナの自宅に彼が姿を見せたことで、少なからず辺りのものたちに動揺が走った。

 三島優斗。ヒナの死をもっとも近くで見届けた青年である。


「……」


 ヒナの親戚縁者のささやき声があちこちで起きる。

 それは悪感情によって生まれた葉擦れのようだった。


 警察に保釈された彼が、なぜここにきたのか。

 もうずっと逮捕されていればいいのに。

 彼がヒナを手に掛けたに違いないのだ。

 犯罪者が、おめおめと顔を出して。

 

 そんな邪推と嫌悪の渦の中、海をかき分けるように優斗はゆっくりと歩む。


「……」


 優斗の前には、微笑むヒナの遺影と、棺桶があった。

 中に眠るヒナは、あの血をぶちまけて非業の死を遂げたヒナと、同一人物のようには見えない。

 とても可憐で、今にも目を覚ましそうな、そんな少女だった。


「……ヒナ……」


 ぽつり、と優斗の口から声が漏れる。

 同じように、涙が一滴、こぼれた。


 ぽたりと落ちた雫は、ヒナの頬を濡らす。

 これが物語ならば、それでお姫様は息を吹き返すのだが。


 現実の前には、何の意味もない。

 優斗は無力なのだ。


 しばらくそうして、ヒナの死に顔を見つめていると。


「三島くん」

「……!」


 はっと気づいて、優斗は顔をあげた。

 すぐそばにいたのは、藤井ヒナの父であった。


 なにか言わなくてはと思い、優斗は口を開く。


「おじさん、あの……」

「どうしてここにきた」

「……え?」


 彼の言葉は、ぞっとするほどに冷たかった。


「三島くん、もう私たちは君とは関わりたくないんだ」

「いや、でも、俺!」

「三島くん」


 自分はただヒナの死を悼むために、ここに来たのだ。

 ずっとずっと、彼女と一緒にいられると思って、展望台に連れていって……。

 

 彼女に、自分たちが過ごしてきた町を見せてあげたかったのだ。

 変わったその町の今を、これから過ごす町を……。

 

 そんな、そんな些細な想いだけだったのだ。

 ヒナに害を為そうなどと、一ミリも思ってはいなかった!


 そんな優斗に、父親は弁明すらも許さなかった。


「そんな、違うんだ、俺は……」

「なんだっていい。出ていってくれ」

「おじさん! 俺は、違うんです!

 ヒナを俺はずっと守りたいと思って、思っていて……!」

「やめてくれ、もう聞きたくない」

「おじさん!」


 ただ聞いてほしかっただけなのだ。

 優斗の辛い胸のうちを、理解してほしかったのだ。

 いくらしっかりしているとはいえ、優斗はまだ高校二年生だ。

 そんな彼が最愛の人を殺したという嫌疑をかけられるなんて、耐えきれない。


 だから優斗はヒナの父親の手を取ろうとした。

 より確実に思いを伝えるために、近づいたのだ。

 

 しかし、それが過ちであった。


「――っ!」


 優斗の必死な気迫に押されて、ヒナの父親が後退し、そしてつるりと足を滑らせた。

 たまたまあった花瓶に頭をぶつけ、彼は額を切ったのか、頭部から出血してしまう。

 そして悲鳴があがった。


「きゃあああ!」


 優斗は先ほど以上に顔を青くしていた。


「あ、お、俺……」


 辺りを見回す。人々の顔が真っ白な能面のように見える。

 その視線のすべてが優斗を貫いていた。嫌悪と侮蔑の目であった。


「俺は、俺は……!」

「三島」


 集団の中からひとり、ゆっくりと歩み出てきた娘がいた。

 優斗のクラスメイト、制服を着た百地凛子だ。


「百地……」

「もう帰んなよ、三島。

 あなたがここでなにを言ったところで、逆効果にしかならないよ」


 見知った顔に、一瞬だけ優斗の胸がホッとしたのに。

 凛子の言葉もまた、冷たかった。


 真っ向から視線をぶつけられ、ぐっと優斗は息を呑む。

 ヒナの父親は、救急箱を持ってきたヒナの母親に手当をされていた。

 苦しむ彼の目が、優斗を射竦める。


「ち、違うんだって、百地……俺は……」


 謝ることすら、彼には許されない。

 凛子の声は氷のようだ。


「藤井さんが、眠っているんだよ。

 ……静かにしてあげてよ。

 あなたが、なにをしたか、知らないけど……」


 その言葉に、優斗の目が真っ赤に染まる。


「ま、まさか……百地、おまえ、おまえまで、

 俺が、ヒナを殺したって、そんなことを、思って……?」

「……知らないよ」

「ちょっと待てよ! 俺はそんなことをするようなやつじゃないって、おまえ、知っているだろ!?

 なあ、百地! 一年の時も同じクラスだっただろ!」

「知らないって言っているでしょ! あたしは何にも知らない! もうやめて!」

「おまえ――」


 優斗が掴んだ手を、凛子は振り払う。

 普段はそんなことは絶対にしないはずだったのに。

 優斗の頭に血がのぼる。

 クラスメイトが信じてくれないなら、一体誰が信じてくれるというのか。

 

 優斗は思わず拳を振るっていた。

 凛子を、殴ったのだ。


「……あ」


 急速に景色が遠ざかってゆく。

 その中で、頬を押さえてこちらを睨む凛子だけがハッキリと映っていた。

 彼女は血とともに、吐き捨てる。


「……さい、ってー」


 優斗はその場から、逃げ出した。

 ここが現実だとは、とても思えなかった。




 雨に濡れながら、優斗は辺りを走った。

 時折パトカーがサイレンを鳴らしながら近づいてきて、そのたびに優斗はびくりと体を震わせた。


 寒い、とてつもなく、寒い。

 春の雨は冷たく、芯まで冷え込むようだった。


 持ち合わせはほとんどない。ヒナの葬式がやっていると聞いて、着の身着のまま家を出たのだ。

 携帯電話すらも持っていなかった。


 優斗はどこへゆくこともできず、さまよう。


 もしかしたらあれらのパトカーは、自分を捕まえるために来たのではないか。

 そんなことを思うと、優斗はとても自宅には帰れなかった。

 きっともう、網を張っているはずだ。

 こんなことまでして、死刑にされてしまうに違いない。


 不安が心を苛み、優斗の心は沈みこんでゆく。

 もしかしたら――もしかしたら、本当に自分が、ヒナを殺してしまったのだろうか。

 そんな疑念すらも、浮かんでは消えた。


 バカバカしい……。

 自分はやってない、やってない、はず、だ……。

 そうだ、当たり前だ……。

 どうして自分がヒナを、殺さないと……いけないんだ……。


 吐き気がこみ上げてくる。

 優斗の腕の中でヒナは――冷たくなっていったのだ!



 優斗はまるで死体のように町を歩き、そして一件の家の前にやってきた。

 見知った家だ。誘われるようにインターホンを鳴らす。


『九条です』


 若い女性の声が聞こえてきた。

 優斗はなにも言えず、黙り込む。

 やましいことなどなにもない。

 ないはずなのに、それなのに優斗は、自然とカメラから身を隠してしまっていた。

 

『……いたずらかしら? あら、坊ちゃんどうかしました?』

『いや、小清水さん。ちょっと代わってもらえるか』 

『はいはい、どうぞどうぞ』

『……』


 インターホンの向こうから会話が聞こえてきて、それでも優斗は出ていけない。

 黙り込んでいると……。


『……優斗か?』

「……っ」


 親友である九条椋の声だ。

 なぜだろうか、涙がこぼれてきそうになる。


『……本人だったらそのまま聞いていてくれ』

「……」


 優斗は唇を噛む。

 本当は今すぐに出ていきたかった。

 だが、このままでは、椋にも迷惑がかかってしまうのではないか。

 彼は財閥の御曹司だ。

 自分なんかと関わっては、その名に傷が……。

 

 そんな思いが、優斗を躊躇させた。


『優斗、さっきお前の家族から電話があった。

 藤井の葬式で、その、色々あったみたいだな』

「……」


 穏やかな、落ち着いた椋の声に、目頭が熱くなる。

 彼はやはり変わらない。自分のことを信じていてくれるのだ。

 世界でたったひとり、優斗の味方でいてくれる――。


『単刀直入に言おう、優斗。

 僕とお前の仲だ。余計な言葉はいらないだろう』

「……っ」


 こんなときでも友達だと言ってくれる椋に、思わず優斗は声を発しようとして。


『自首しろ、優斗』

「――」


 目の前が真っ暗になった。

 優斗は凍りつく。


 ……え?

 なぜ彼は、そんなことを……。


『それが一番確実だ、優斗。

 あとは判断を司法に任せるんだ。

 幸い、証拠は不十分だ。悪いようにはならないはずだ』

 

 ……。


『優斗、僕の話を聞くんだ。

 僕は今、一番確実な方法を提案しているだけだ。

 このままでは、刻一刻と不利になってゆく。

 優斗の態度も、良くはない』


 ……。

 雨粒が、痛いほどに頬を叩く。


「なんだよ、椋……」


 優斗は拳を握りしめた。

 血が滴り、土に落ちた。


「お前も、俺がやったって、思ってんのか……?」


 自分の口から漏れたのだとは思えないほどに。

 その声は、闇を煮詰めたようだった。


『違う、優斗。

 僕は今、もっとも確実な方法をと』

「椋! 俺は、俺は――!」

『優斗、待て、優斗っ!』


 優斗は椋の声を振り切って、駆け出す。

 もうどこにも、信じられるものなどいない。

 

 ヒナは死んだ。

 その現実が、ただひたすらに優斗を打ちのめす。


 それから四時間後、優斗は河川敷の橋の下で震えているところを、警察に確保された。



 


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇






 ぷつり、とモニターが途切れて。

 一心不乱にその『死後モード』を見つめていた藤井ヒナは「はー」とため息を漏らした。


 うんうんとうなずき――ドン引きするシュルツの前――ヒナは語る。


「誰も信じられなくなっちゃって、悪堕ちしたみたいに暗い瞳をする優斗くん……。

 ……はぁぁ……かっこいいですねぇ……!」

「鬼か」


  

  

 シュルツより一言:鬼か。


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