第30話 龍の国
「……シャルロットさ――」
「待って、スミヤ村長。マリウスも含めて状況を把握してもらうために説明を挟んだけど、私の質問はまだ終わっていないわ」
「す、すみません」
一瞬の沈黙にスミヤが何かを言いかけるが、シャルはそれを落ち着いた口調で制する。
恐らく「情状酌量の余地はある」という言葉から希望を見出したのだろうが、そこは流石にシャルの方が上手だ。
話を本筋に戻すことで、なるべく威圧感を抑えつつ主導権を渡さない。
「じゃあ質問を再開するけど、次に質問する予定だったのは動機だったのよね。……ただ、さっきのやり取りを見る限りトールの目的は孝行とか恩返しってところかしら?」
「……」
トールは沈黙を保ったままだが、ここでの沈黙はほとんど肯定しているようなものである。
自分から「はいそうです」とは答えにくいだろうし、否定するにしても説得力のある理由を用意するのは難しいからだ。
(難儀なものだな……)
実のところ、似たような経験は俺にもある。
だから、今のトールの心境もある程度は想像ができた。
「気持ちはわかるわよ? 私だって昔は、お父様やお母様に自慢の娘だって言われるよう努力したことあるもの。まあ、残念ながらそれは二人が期待するような内容じゃなかったし、結局のところ私の自己満足でしかなかったんだけどね!」
……そう、結局はそこなのだ。
孝行という言葉の起源はかなり古いらしく、今と昔では意味が少し違ってくるらしいが、基本的には子が親や祖母を大切にする行為や行動を表す言葉だ。
ただ、子どもの頃の孝行というのは本来の意味での孝行ではなく、ほとんどの場合ただの承認欲求なのである。
俺はそれを、当時の教官に耳と尻が痛くなるほど聞かされ、刻み込まれた。
「トールも今回の件でそれは身に染みたんじゃない? ぶっちゃけ、ちょっと気持ちよくなってたでしょ?」
「そ、それは……っ!」
トールからすれば心底否定したいだろうが、一度や二度のみならず繰り返しているのは常習性があるということだ。
恐らく最初は本当に善意から始めたのだろうが、途中からは自分の行動に正当性を持たせるためであったり、罪悪感を消すための都合のいい理由へと変遷していったのだと思われる。
……愚かなことではあるが、残念ながらよくある話だ。
これについては意思の弱さや性根の悪さよりも、偶然続いてしまった成功体験に大きな原因がある。
最初の成功体験が自信や快感に繋がるのはよくあることだが、それが連続して続くと人生を左右するレベルの要素になりかねない。
大抵の場合は釣りなどの趣味や仕事などの良い方向に働くのだが、環境次第では詐欺や窃盗といった犯罪方面に働くこともある。
万引きなんかは正にその典型と言えるだろう。
万引きは常識や善悪の意識が成熟していない子どもや、ストレスなどで精神が摩耗してる者が手を出しやすい軽犯罪であり、成功率も高いため常習化しやすいからだ。
「否定しても無駄よ? だってアンタ、調査に来た他の開拓者のこと……、ナメてたじゃない」
「っ……」
確かにトールは、「あの人たち、全然大したことなかった」みたいなことを昨夜言ってた。
一瞬シャルの声色が低くなったのはただの演技だろうが、実はそれなりにカチンときていたのかもしれない。
……まあ俺も、トールの年齢を知った今となっては、謙虚さを欠いたガキの発言だったのか――と少し落胆を覚えている。
「……ま、それはいいのよ。この業界は私も含めてガキが結構多いし、自信過剰の生意気なヤツなんていくらでもいるわ。でも。結局は実力者社会だし、結果を出せなきゃ負け犬の遠吠えになる。そしてだからこそ、その行動にも言動にも責任が伴う。そこは肝に銘じておきなさい?」
「……はい」
シャルとトールは年齢こそ近いが、開拓者としての経験には雲泥の差がある。
しかしそれ以上に、シャルには開拓者としての自負と覚悟がある。
その差は、経験や年齢よりもずっと大きい。
だからこそ、俺もシャルのことを信頼し、尊敬しているのだ。
「あの……」
「あ、そんなに不安そうな顔はしないでいいわよ? スミヤ村長。今のは、開拓者の先輩としての忠告みたいなものだから。最初に言ったように、悪いようにはしないつもりよ」
そういえばシャルは最初に「悪いようにはしないつもり」と言っていた。
どうするつもりなのかは、シャルの満足感を満たすため俺にも聞かされてない。
今の話の流れから、トーヤにはしっかりと責任を取らせるつもりと思ったが……、そうではないのか?
「それじゃ質問を続けるけど、ねえスミヤ村長、正直に答えてね? ……トーヤは、龍の国出身でしょ?」
「「っ?」」
龍の国……、だと……!?