ディナーシェフの挑戦6
そして、勝負の夜。
その日は空に僅かな雲がかかった、穏やかな空気が漂う夜でございました。
そんな中、勝負に挑むため私が王族専用のダイニングルームに赴くと、待ち構えていたローマンさんがニヤリと笑って言います。
「おう、来たか小娘。なにやらトラブルがあったようだな。良い肉は手に入ったかぁ?」
……堂々とこんなことを言ってくるなんて、この人も本当にいい性格してるなあ……。
それじゃ、自分がやりましたと言ってるようなものじゃないですか。
そうは思いましたが、それを追求しても水掛け論。
ですので、私はにっこり笑ってこう返したのでした。
「ええ、それはもう。私が考える、最高のお肉をご用意しました。どうぞ、ご期待ください」
「ぬっ!?」
怯んだ様子で声を上げるローマンさん。
ですが、今日の相手はこの人ではありません。
そこで、腕を組んで難しい顔をしているマルセルさんと目が合いました。
「どうだ。君の考える、最高の料理ができたか?」
そう聞いてらっしゃるので、私は小さく頷いて、こう答えたのです。
「はい。私が今できる、最高のディナーをご用意しました」
そして、じっと見つめ合う私たち。
それをキョロキョロと不思議そうに見ているローマンさんが、なにか口にしそうになりましたが、そこで執事さんが声を上げました。
「ウィリアム様が、いらっしゃいます!」
その声とともに扉が開き、慌てて壁際に控える私たち。
そして、お疲れ顔のおぼっちゃまがやってきましたが、私に気づくとぱあっと笑みを浮かべ、駆け寄ってきてくださいました。
「なんだ、シャーリィではないか! どうした、ディナーに来たのは初めてではないか? デザートでも出しに来たのか?」
そのまま私のメイド服にしがみつき、嬉しそうに見上げてくださるおぼっちゃま。
私はにっこり微笑んで、こうお伝えしたのでした。
「いいえ、おぼっちゃま。今日は、ディナーをお出しするために参りました!」
「……なに? ディナーだと? ランチに続いてか。……もしや、また勝負しておるのか?」
そう言っておぼっちゃまが視線を向けると、ローマンさんは慌てた様子で目を逸らしました。
この人は、ほんとに……。
ですが、今はそれどころではありません。
私はおぼっちゃまの手を取ると、真面目な顔でこう言ったのでした。
「おぼっちゃま。実は本日、特別な席をご用意しております。ですので、よろしければ……私と一緒に、外食に行きませんか!」
◆ ◆ ◆
「おぼっちゃま、こちらにございます!」
外食?と、不思議そうに首をひねるおぼっちゃまをお連れして、私が向かった先。
それは、王宮内の庭にある、噴水の広場でございました。
その前に、今宵特別な席をご用意し、今こうしておぼっちゃまをご招待したのでございます。
「ほお……。これはまた、なにやら面白いことをしておるな」
あれこれ飾り立てられたその場所を見て、おぼっちゃまが感心した様子でおっしゃいました。
そこには仮設の壁や床を設置してもらい、テーブルと椅子を置き、周囲を色とりどりの布や花などで色鮮やかに飾り立ててあります。
そして、特に印象的なのは、これでもかとあちこちに配置された照明の数々。
煌々と照らされたその場所は、白く輝き特別感を演出してくれています。
そして、頭上には秋の空。
そう、これは、野外でお食事を楽しんでいただくために用意した席なのでございました。
……ああ、今日が雨じゃなくて、本当に良かった。
「ふん、なんじゃい、こんな場所でディナーを出そうなど。あいかわらず、小細工が好きな奴だ!」
などと、ついてきたローマンさんが不機嫌そうに言います。
ですが、その隣にいるマルセルさんは「なるほど、場所を変える演出か」と妙に納得顔。
本当は、外食なのですから、王宮の外へお連れしたかったのですが、警護などの問題でそれは叶いませんでした。
でも、お庭とはいえ、お出かけディナーの気分を多少は味わってもらえているのではないでしょうか。
「おぼっちゃま、どうぞこちらへ!」
私がそう言って椅子を引くと、おぼっちゃまは「うむ!」と元気に言って、席につかれました。
どうやら、特別な演出にややテンションが上がってくださったご様子。
いえいえ、ですが今宵の演出はこれから。
私はそのまま、だだっと駆け出し、噴水の前で身を翻して、両手を上げて叫んだのでした。
「おぼっちゃま、本日はようこそ当店へ! 心からのおもてなしで、歓迎いたしますわ!」
そのとたん、噴水が一気に吹き出し、同時にいくつもの色が現れ、それを照らし出しました。
様々な色たちが噴水の周囲で輝き、そして、その中央は青、赤、緑とくるくると色を変えつづけます。
そう、これはいわゆる噴水イルミネーション!
虹のように輝く噴水、その幻想的風景に、おぼっちゃまが歓声を上げました。