愉快なプレイヤーズ1
――王都への道を阻む障害は、あまりに強く、あまりに大きく、あまりに禍々しい。毒竜の王と呼ばれるバジリスク。数多の英雄足りえる器を、英雄あらざる者として歴史の墓場に埋めてきた暴君を、あなたは仲間と共に見事に討ち果たした。英雄の道は開かれた――
『あなたは与えられた難題を見事に解決してみせた。毒竜の討伐は敵を動揺させ、味方を鼓舞する。邪神の陰謀を阻むべく、女神の力を行使できる王族を救いに、いざ王都へ』
ずんどこイベントが進んで行く。
指示も具体的で、色々やってみよう、みたいな遊びがない。エタソン神としても、ここから脇道にそれると修正大変だから、察してね!?って感じだろうか。
大丈夫だよー、俺は割と正統派のプレイヤーだからね。
これやってね、って言われればそれやるよ。
やり方は任せてもらうけど。
このシナリオパートは、王都への進軍から始まった。
俺も、ユッキー達も、のそのそ動く軍勢と一緒に移動している。ぶっちゃけ暇だ。
ユッキーはシャロンさんに呼ばれて、イデルの方のあれこれをしているようだ。
あれこれとは、パパ男爵の管理している女神の力に、シロクマの試練で得た力を足すとか、使い方はどんななのか古文書や言い伝えをまとめたりとか。
がんばれ、僕等のダンチョウ。
お塩は、行軍中に発生する怪我人や病人の治療。
流石は聖人お塩、どこでも人を癒している。
ベアちゃんは護衛としてくっついていった。仲良し。
王都への進軍パートになって、一番忙しそうなのはヘキサだ。
軍の端から端、後方の補給拠点から最前線の偵察部隊まで、指示だしにフル回転している。
「マウス、ゴー」
で、俺はそのヘキサから指示を受けて、軍勢を狙って襲ってくる敵の討伐に回される。
「今度は歯応えありそう? さっきのはひきわり納豆くらい歯応えがなかったんだけど」
「わたしもひきわりはあまり好きではないな。とりあえず、手元にある中では一番難しいやつを振っているのだから、我慢しなさい。ほら、早く行って、軍が傷つく」
「次はちゃんとした粒納豆くらいだといいなー。からし多めは大歓迎!」
刺激が欲しい!
助走をつけて、討伐対象のオーガを殴った。
オーガは死んだ。
行軍中は大体こんな感じ。
ヘキサには行軍の進捗率と損耗率が表示されているっぽい。
逐一の指示だしで、率が変動するそうだ。
カードゲームみたいに、場の状況に応じた手札を切る感覚だってさ。
強い場には強い手札、弱い場には弱い手札。必要より強い札を切ってしまうと、次の手が苦しくなる。
必要より弱い札を切ると、失敗する。
ちなみに、マウスは最強の手札じゃろ?
ヘキサに冗談を言ったら、戦闘系ではジョーカーだ、と忙しい中でも笑ってくれた。
他に、工兵系、衛生兵系、偵察系、輜重兵系とかあるんだって。殴っても解決しそうにないことばかりで大変そうだ。
せめて、殴って解決することは、このマウスが万端に仕上げてご覧に入れよう!
ちなみに、ソロプレイ状態のシシ丸なんだが、ひょっとしたら影でヘキサと同じくらい忙しいかもしれない。
損耗率の回復には、お塩の回復クエストの他に、シシ丸の補給クエストも関係あるみたいだし。
****
そんなこんなで進軍は何事もなく進み、ヘキサ騎士団にとって新しいお家になる、王都が望める要塞にまで辿り着けた。
ヘキサとシシ丸の手腕だねえ。
「お、その影の薄い立役者じゃん。見えないところでチマチマとご苦労!」
「なんだそりゃ、ちゃんと文明人のわかる言葉で喋ってくれるか蛮族」
すらっとした長身アバターで、高そうなソファにふんぞり返っているのがシシ丸だ。
超似合う。写真を撮って、マフィアの若様だぜと見せれば、十人中二十人が信じると思う。
リアルの方でも中性的な服装を好むシシ丸だけど、アバターも同じく中性的な雰囲気で統一している。
しかも、同じ見た目で男性・女性アバターを作っていて、ゲームによって切り替えたりする。多分、今は男性アバターだ。
女性アバターだったら、シシ丸はヘキサと同じく口紅をしているはずだ。
艶はあっても自然な色の唇に、ワインの入ったグラスを押しつけて、美味そうに吐息を漏らす――実際はフリ以上の何物でもないのだが――ついでに話しかけてくる。
「ところで、毒竜の討伐のおかげで、こっちの評価も目に見えてわかるくらい上がった。褒めてやる。ご苦労」
「おいおい、随分と上から目線じゃねえの。もっと褒めて?」
「ああ、蛮族らしい所業だったな。あんな暴力的な真似、俺にはとてもとても」
いやー、照れちゃうぜ。
お礼にそっちも褒めてあげるね!
「そっちは、資金集めだの物資補給だののために、脅したり甘いこと囁いたり、口先で人を追い詰めているんだろ? 相変わらずのイケメン詐欺師っぷりだな。とても真似ができない」
「弱肉強食が唯一無二の異文化交流の奴に言われてもな。まあ、文明人の懐の広さでやっすい褒め言葉も聞いといてやる」
時候の挨拶も無事に済んだので、シシ丸の隣のソファに腰かけ、置いてあるシシ丸のワインボトルを掴んでラッパ飲みにしてやる。
「あー! 金持ちから略奪した酒、蛮族美味しい!」
「そう来ると思って、安酒を置いといたんだ。後で蛮族以外にはお高いワインを振る舞ってやるよ」
「へえ、ワインにもあれこれ種類あるんだ?」
「あるぞ。俺のプレイだと賄賂用とか接待用で使う。好みに応じて好感度アップ。他にも、たっけーのは財産としての用途もあるかもな。まあ、俺達プレイヤーは一律全部、なんか飲んだ気がする、以上の刺激はないんだけどな」
「うん、なんか酸っぱい気がするってくらい。梅干しを思い出すのと似たような効果」
この流れるような罵倒からの雑談、シシ丸の本人確認完了!
「ようやくシシ丸もソロプレイの呪いから解放されたな! 身代わり助かった!」
「嫌なことを言うなよ。一応、ヘキサとは早い段階から連絡つけてたんだ。あんまりソロって自覚はなかったんだが……ちょっとお祓い受けとくかな?」
「お塩が良い神社調べてくれるって言ってたから、一緒にお参り行こうぜ」
「マジか。……行く時、一応声かけてくんねえ?」
シシ丸と話をしている間に、他のゲーム部員も用意されたソファに座る。
いつも楽しそうなお塩が、シシ丸の隣に座ってニコニコ笑顔をこっちに向ける。
「相変わらず仲良しですね!」
当たり前よ!
我等ゲーム部員、勝負はしても喧嘩はしない。
喧嘩をするならゲームで勝負!
俺がピースサインを見せると、シシ丸も、ちょっとぞんざいながらピースサイン。
このサインの元ネタ、長弓兵が敵に向かって「俺の指はこの通り無事だぜ!(俺達の勝ちー!)」っていう煽りポーズだった説を思うと、すげえゲーム部員に相応しいよな。
そして、由来を知っているらしいヘキサは、お塩の隣に座って赤い唇で弧を描く。
「シシ丸とマウスがそのサインを使うと、裏を読みたくなるね」
笑顔の成分を表示するとしたら、ピースサインの由来にかこつけた諧謔が一割、お塩の隣の席が九割か。
いや、それだと諧謔の成分が多くなりすぎるか。
「……シシ丸はともかくマウスに裏はないか」
失礼な。俺にだって裏はある。
表側からぶち抜いた状態で、裏まで丸見えるかもしれんけど。
「これでようやく全員そろったねえ! やー、ここまで長かった!」
そして、国を救うべく奔走する我等のまとめ役にして、国がこんなことになっている真の原因、ユッキー。
ここに、役者はそろった。
やってみてから考える派のユッキーが口火を切る。
「さて、こっからどうすんべ?」
考える前にやってみる派のお塩がすかさず応じる。
「王都に行くんですよね! 王族の人にイデルまで来てくださいってお願いしに?」
考えるコマンドは後に取っておく派の俺がまとめる。
「王族ならお城にいるだろ。とりあえず、お城に行ってみるべ」
そうすべそうすべ、と三人が頷いて、方針は決定――するはずもなく。
「お前等ちょっと黙ってろ。今ちゃんとした指示だすから、黙って待ってろ」
シシ丸が面倒事を引き受けてくれたので、俺達三人、いい子になってお返事をする。
はーい。いい子だから、もちろんそろって手を挙げる。
小学校低学年だったら偉いと褒められるね。なお、三人そろって高校生の模様。
「よくここまでシナリオが進んだな、このプレイ」
奇跡を語るようにシシ丸が目を覆って天を仰ぐ。
ヘキサは対照的に膝に肘を突いて地を睨みつけている。
「恐らく、その辺の重要な部分はこちらに回って来ていたのだと思う。三人の方はどう転んでも大丈夫なように、遊びがあったのでは? 結果が悪くてもシナリオの筋自体は大差ない。あるいは、わたしやシシ丸がフォローできる、とか」
「そういえば、毒竜討伐も、こっちの結果にブーストがかかる仕様って感じだったな。ある意味で、シナリオブレイカー三人を隔離処理していたわけか……」
へえ、プレイヤーのプレイ傾向から、そういう采配までするのか。
すごいな、エタソン神。
感心しながら、テーブルの上にシシ丸が出していたクラッカーにチーズを乗せて食べる。
うーん、小麦粉の甘さが塩気を引き立てる、ような気がする。
「あの能天気さ……腹立つぅ」
「同感。だが、結果的にこっちのプレイ評価も上がったから、文句が言いづらい。偉業達成ができている……」
「こっちもだ」
わははは、文句を結果で黙らせる。ゲームの世界は実力主義よなあ!
二人の渋面が美味しいおつまみだ! ワインが美味いような気がする!
「だが――そういった事情を把握する気がないなら、こちらの言う通りに動いてもらおう」
「ああ、それはいい。操り人形と思えば、考え無しも腹が立たないね。精々踊ってもらわないと」
おっと、腹黒系プレイヤーのスイッチが入ったぞ。
こうなったら我等直感型に対抗手段はない。大人しく言うことを聞いて尻尾を振ろう。
チュー。