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剣聖の称号を持つ料理人 - 第25話 そんな目で見ないでください
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剣聖の称号を持つ料理人  作者: 天那
第一章
25/39

第25話 そんな目で見ないでください


「えっと……そろそろ見えてくる頃ですかね」


 地図を広げながら、春樹は前に続くあぜ道を見つめた。


 随分歩いたものだと思いながら、春樹は横を歩くアイリッシュに顔を向けた。


「でも、よかったんですか? わざわざ付いてきてもらって」

「ん? 構わないさ。タマモ様から買い付けも頼まれているからな、半分は仕事だ」


 甲冑を揺らしながらアイリッシュは小袋を持ち上げる。


 向かっているフィアットの街は、鍛冶工業で名の知れた一大都市だ。戦争があった昔は剣や武具の製造で、今はそれに加えて数々の金属製品産業で手広くやっている。


「元々、勇者の聖剣を打った刀鍛冶がいた街として有名だからな。お前のその欠片もなんとかなるだろうさ」

「そう上手くいきますかねぇ」


 言いながら春樹は腰にぶら下げていた聖剣の柄を手に取った。刀身の方は布でぐるぐる巻きにして荷物の中だが、柄だけでもそんじょそこらの剣とはオーラが違う。


――本当に打ち直したりできんのかね?


 どうなることやら。まだ見ぬ伝説の鍛冶師の末裔とやらを想像して、春樹は柄を真横に振るった。


「……ところでハルキ……お願いがあるんだが」

「なんです?」


 振り向くと、うずうずした顔のアイリッシュが見つめてきていた。彼女が頼み事とは珍しいと、ハルキは手を止めて返事をする。


 こほんと咳払いをひとつして、緊張した様子でアイリッシュは口を開いた。


「その……聖剣、私にも触らせてくれないか?」


 顔を真っ赤にして聞いてくるアイリッシュを見やって、春樹はくすりと笑うのだった。



 ◆  ◆  ◆



「賑やかな街ですね」


 たどり着いたフィアットの街は人々の喧噪で溢れていた。


 様々な種族の人が行き交う都市を、春樹は興味深げに眺めていく。


「これだけの街で人を探すのは……って、アイリッシュさん? ちゃんと聞いてます?」


 住所などの明確な手がかりは貰っていない。地道に聞き込むしかないかと思いながら、春樹は傍らの騎士団長に眉を寄せた。


 ぶんぶんと、それはもう嬉しそうに聖剣の柄を振っているアイリッシュを見つめ、春樹は小さくため息を吐く。渡してからずっとこの調子だ。


「アイリッシュさん!」

「ふへ!? お、おお……どうしたハルキ?」


 我に返ったアイリッシュが春樹を不思議そうに見つめてきた。全然話を聞いていない。


「もう、子供じゃないんですから。聖剣没収です」

「あ、ああー。そんなぁ」


 聖剣を取り上げると悲痛そうにアイリッシュは声をあげた。


「そ、そんな目で見ないでくださいよ。俺がいじめてるみたいじゃないですか」


 半泣きで訴えてくるアイリッシュの視線を受け流しつつ、春樹は呆れたように聖剣の柄を腰に仕舞う。


「しかし、こう人が多いと探すのも大変ですね。手当たり次第に聞いてみましょうか」


 辺りを見回すが、当然ながら見知らぬ人しか歩いていない。これは難儀なことになりそうだと、春樹は疲れたように息を吐いた。



 ◆  ◆  ◆



「妙だな」


 数時間後、眉間にしわを寄せてアイリッシュは腕を組んでいた。傍らの春樹も不思議そうに首を傾げる。


「全然相手してもらえませんね。なんかあるんでしょうか」


 先ほどから、道行く人や武器屋の店員などに件の鍛冶屋のことを聞いているのだが、みんな頑なに話してくれない。人が良さそうなおばちゃん店員も、説明し出した途端に邪険にあしらわれてしまった。


「どうもその末裔とやらに問題があるみたいだな。こういう場合、普通の聞き込みでは探し出すのは難しい」

「ええー、じゃあどうするんですか?」


 顔を歪める春樹に、アイリッシュは「まぁ任せておけ」とにやりと笑った。なんだかんだいって、彼女は頼れる騎士団長だ。


「こういうときに行く場所なんて、決まっている」


 そう言って笑うアイリッシュの背中を、春樹も頼もしげに思ってついて行くのだった。



 ◆  ◆  ◆



 騒々しい店だった。


「ああーん? 伝説の鍛冶屋の末裔~?」


 下卑た視線を向けながら、カウンターの向こうの店員がアイリッシュに向かって笑い声をあげる。


 同じように笑っている周りの客を見回して、春樹はうんざりしたようにアイリッシュを見やった。


「決まってるって……酒場ですか」

「そうだ。情報が欲しいならまずは酒場。覚えておくといいぞ」


 アイリッシュの言葉に春樹は眉を寄せた。ゲームでもアニメでも定番の流れではあるが、こう実際に荒れた連中を見ても、とてもじゃないが有益な情報を持ってるようには見えない。


「この街にいると聞いた。場所だけでいい、教えてくれ」


 アイリッシュがじゃらりと金貨を数枚カウンターに乗せる。店員がぎょっと目を見開き、金貨を一枚手に取った。


 本物であることを確認し、アイリッシュをまじまじと見やる。


「あんたたち何者だい? いっちゃ悪いが、あまりお勧めはできないぜ」

「なに、ちょっとした野暮用だ。ま、教えてくれないならいい。他を当たるさ」


 そう言うと、アイリッシュはさっとテーブルの上の金貨を回収した。男の指の一枚もひょいと摘み、男は思わず「あっ」と声をあげる。


「どうした? 話す気になったか?」


 にたりと笑い、アイリッシュが男を見つめた。それに参ったと両手を上げて、男はちらりと周りを見回す。


 話す気になったのか、右手を差し出した男の手のひらに、アイリッシュは金貨を乗っけてやった。


「正直、俺も話すとまずいんだ。もう一枚サービスしてくれよ」


 周りを気にして小声になっている男に、アイリッシュは言われたとおりに金貨を一枚足してやる。嬉しそうにそれをポケットにしまい込みながら、男はアイリッシュと春樹に顔を寄せた。


「街で聞いても誰も教えてくれなかっただろ? その鍛冶屋、街から勘当されてるんだ」

「勘当?」


 出てきた単語にアイリッシュと春樹が顔を見合わせる。男もどう説明したもんかと頬を掻いた。


「なんていうか色々あってよ……商工会とか街ぐるみで村八分にされてんのさ。領主さまからも嫌われてて、まぁこの街で生きていくならあんま関わり合いになりたくねぇ相手だね」

「なるほど。そこまでされて居座り続けるってのも、随分な変人だな」


 アイリッシュの言葉に春樹もこくりと頷いた。居づらいだろうに、未だにこの街に住んでいるということは、なにか理由があるということだ。


「……一応、ここがそいつの工房だ。寂れすぎて空き家にしか見えねぇから、見過ごさないように気をつけな」


 男がメモを書いてくれ、それをアイリッシュは受け取ると確認した。かなりの一等地で、とても村八分の人物が住む場所とは思えない。


「それより姉ちゃん、強そうだな。詮索するつもりはねぇけど、なんだい、聖剣でも打ってもらいに行くのかい?」

「ん? はは、嬉しいことを言ってくれるな。……なに、用があるのはこっちさ。私の数倍は強いぞ」


 アイリッシュが指さす方を見て、男は「へぇ」と春樹を見つめた。


 こんな街で店をやってる者だ。いろんな剣士を見てきたが、アイリッシュはその中でもとびきりで、目の前の優男が彼女よりも強いようには到底見えない。


「こっちの兄ちゃんがかい? 見えねぇな」


 まじまじと見られるが、春樹はそりゃそうだと腰に手を当てた。料理人として鍛えてはいるが、軍人と比べられてはたまらない。


「どうだい一杯? 奮発してもらった礼だ、奢るぜ」


 そう言って、男は酒のボトルを差し出してきた。


 傍らのアイリッシュに見つめられ、春樹は小さく息を吐く。


「いえ、買いますよ一本」


 そう言うと、春樹はカウンターに置かれていたバターナイフを手に取った。お世辞にも刃物とはいえないそれに、男がきょとんと視線を向ける。


 その瞬間、春樹はバターナイフをさっと振るった。


「……まじかよ」


 男の声が小さく響く。

 ひょいと先端を持ち上げると、ボトルは綺麗に切断された面を晒していた。


 ヒビ割れひとつない、美しい断面に男は信じられないと春樹を見つめる。


 満足そうにうんうんと頷くアイリッシュに、春樹はなんだかなぁと眉を寄せるのだった。

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