第55話 動き始めた運命
マクミラン視点
「よろしかったのですか?陛下にアイル殿下のことを報告しなくても」
アイル殿下のお茶会での数々の失態。おそらく、レイファがわざとそう仕向けた。というか、ああなると分かっていて王女を唆し、お茶会を開催させたのだろう。
レイファは王女を見限った。今まで彼女が大人しく従っていたことの方が奇跡に等しかったのだろう。
まぁ、相手は王族という固定観念から歯向かうことに消極的だっただけかもしれないけど。
貴族は幼い頃から身分というものを徹底的に教え込まれる。当然、王族に逆らわないようにとも。特に強者に阿る彼女の父親であればそこら辺は徹底的に教え込んだはずだ。
だからこそ、王女に甘い王はそこへ付け込んでいたとも言える。もちろん、王女も。
彼女は周囲が自分の言うことを聞いて当然だと思っている。間違いではないが、正しくもない。
なぜなら貴族は臣下ではあるが、人形ではないからだ。仕えるに値しないと判断すればそれなりに対応をするのが貴族。だからこそ、王族は貴族に対して慎重にならなければならなかった。
「報告しないばかりではなく、父上は周囲の者が陛下に余計なことを言わないよう手を回していますよね」
おそらく、今の父上がそうなのだろう。
「あんなもの、調べようと思えばいくらでも調べられる」
父は「これを見ろ」と言って紙束を放り投げた。そこにはアイル殿下の学校での成績が書かれていた。
「・・・・・何ですか、この成績は?」
全て高評価と記されている。あり得ない。授業だってまともに受けていないのに。受ける必要がないぐらい優秀であれば問題はないのだ。でも、殿下の場合はそうではない。
そもそも、そんなに優秀なら裏口入学をする必要はない。
「こっちも見ろ。これは王宮家庭教師が下した殿下の評価だ。ちなみにその家庭教師はクビになっている。理由は『生徒を正しく評価する目が欠けている』だそうだ」
王宮家庭教師、つまりは殿下直属の家庭教師になる。その家庭教師が殿下に下した評価は学校側が出した評価と真逆。
「この評価は間違っているとアイル殿下は猛攻撃。陛下に訴状したそうだ」
「先生は評価を覆さなかったのですね」
「ああ。正しく評価し、導くのが教師の務め。努力を怠りながら評価のみを上げる術を身につけさせることを教えるわけにはいかないと言ったそうだ。陛下はこれに激怒。教師はその場でクビになった」
その家庭教師はおそらく、父上が秘密裏に匿っているのだろう。次期国王を教え、導く者として。
レイファだけじゃない。父上も陛下を見限ったのだ。
「アイル殿下は碌でもない者たちを囲い始めたそうだな」
「はい。複数人の令息と親密な関係にあるようです。実際はどうか分かりませんが、そう思われてもおかしくはない距離感で接しているのを何人もの生徒が目撃しています」
そして、その行動は子から親へ報告される。
「その男どもを近づけさせたのはお前の婚約者だろう。殿下を上手く操作し、お茶会の開催を数回させたのもそのため。殿下のこの成績を見るに、お茶会で失態を犯すことも計算していたのだろうな」
「ええ。誰よりも殿下と長くいるレイファが殿下の本当の成績を知らないわけがありませんから。マクベインの身内に相応しい令嬢ですね」
「ああ。最初は、何とか逆らってはいるがそれでも回避できず、このまま王女殿下との関係を続けることになると思ったがな。貴族として王族に逆らってはならないと骨の髄まで教え込まれているみたいだったし。彼女はあくまで最悪を回避しているだけに過ぎななかった」
「そうですね」
侍女や騎士ごっこに付き合い、だけど何かあった場合は本職ではないので責任は取らないという契約だけは交わして。
「それでも構わんと思った。お前は次男で、マクベインを継ぐわけではないしな。ミラノ公爵家に婿養子になるのなら、彼女を通して王族を監視下に置くこともできるから問題ないと」
「しかし、そうはなりませんでしたね」
「ああ。嬉しい誤算だ。既に宰相も動いている」
最早、宰相も王を見限ったか。
どんなに政治の上で問題のない人でも次代を考えれば、国が危うくなると判断されればたとえ賢王でも降ろされるのだ。
「今年はカーディル殿下も入学されている。彼を通してアイル殿下のことは既に皇帝に伝わっているだろう。そうなれば今は友好関係にある帝国と事を構える可能性も見えてくる。良くて関係にヒビが入る程度か」
「どのみちデメリットですね」
「ああ。だからこそ、宰相も早めの対応を選んだのだろう。アイル殿下のことは宰相から再三、陛下に訴状があった。聞かなかったのは陛下だ。王妃も同様にな」
きっと今頃気づいても手遅れだろう。もう、後戻りできる時期は過ぎた。
「年内の議会に議題で上がるだろう。議会で決定されてしまえば陛下と言えどどうもできまい。直系は一人でも血縁は他にもいる。そのことを陛下たちはもう少し意識すべきであったな」
全ては後の祭りだ。