小さな
「ウッディさん、これをママ友達に食べさせても?」
「どうぞどうぞ」
「ウッディ様、これを彼ピに食べさせても?」
「ピ……? よくわからないけど、どうぞ」
「ウッディさん、もっと食べてもいいですか?」
「どうぞ、たんとお食べください」
バクバクと一人でフルーツパーティーを開催しているジンガさんをよそに、彼の奥さんと娘さんがまた新たな人を呼び。
そして人が人を呼ぶ形でどんどんと村人達がやってくる。
気が付けばゴザや絨毯が引かれ、村人総出でフルーツを食べながら笑っている。
僕の素養で人を笑顔にできているのだ。
こんなに嬉しいことはない。
こればっかりは、何度やっても慣れる気がしないな。
村の人達は、いくつものグループになって好き放題騒いでいる。
家族で……というよりは年齢と性別に分かれて話題の合う年代の人達同士で話し込んでいるようだ。
「このつぶつぶもうめぇぞ!」
そしてそんないくつものグループの輪の中心にいるのは、ジンガさんだった。
彼は果物を配ったり声をかけたりと、皆が楽しめるように気を配りながら忙しなく動いている。
皆の兄貴分って感じなんだろう。
縁の下で皆を支えるシェクリィさんとはまた違うタイプの村長さんのようだ。
村長にも色んなタイプがいるんだなぁ。
誰かが隠していたらしい酒を持ってきたところで、とうとう歯止めが利かなくなったようで。
そこら中で乱痴気騒ぎが始まり、めいめいが好き放題に叫んだり歌ったりしと楽しみだした。
飲めや歌えやの大騒ぎが催され、その輪の中心では村長のジンガさんがガハガハと笑っている。
流石にこの状態では、真面目な話し合いができるはずもない。
少なくとも今は、大事な話をすべきじゃないだろう。
それがたとえ、この村の未来を左右するほどに大切なものだとしても。
――折角楽しそうな皆の雰囲気に水を差すのも嫌だしね。
「ウッディ」
「どうしたの、ナージャ」
皆から少し離れたところでパーティーの様子を見守っていると、ナージャがやって来た。
もらってきたのか、手にはエールの入ったジョッキが握られている。
「見ろ、この光景をっ!」
そう言って芝居がかった調子で手を広げる。
その拍子に、ジョッキからお酒が少しこぼれた。
どうやら彼女、酔っているらしい。
よく見ると顔がかなり赤くなっている。
「これはウッディが作ったんだぞ!」
何故かナージャは嬉しそうに笑っていた。
それに釣られて僕も笑う。
誰かが笑っていると、こちらも楽しい気分になってくる。
人の感情って、本当に不思議なものだよね。
「ウッディ……お前が授けられたのは、使えない素養なんかじゃないんだ!」
「ナージャ……」
「お前の力は――皆を笑顔にすることができる素晴らしい素養だ! 世界中の人がお前の素養をバカにしたって、私だけはいつだってお前の味方だ!」
「……うん、ありがとう」
俯いて、ごしごしと服で目元を擦る。
涙を流す姿を見られたくなかったから、そうやって必死に誤魔化した。
僕は正直な話をすると……自分の素養が、あまり好きではない。
たしかにこの素養のおかげで、砂漠という厳しい環境で暮らすことができているのは間違いない。
けどそもそもの話をするのなら。
この素養をもらわなければ、僕がこんな辺境の地で暮らす必要がなかったわけで。
だから僕はこの素養に感謝したことはなかった。
けどこうして、フルーツを食べて笑っている人達を見ると、自分の心が軽くなっているのがわかった。
僕の素養が、少しでも皆を笑顔にするお手伝いができたのなら。
だとしたら僕は……。
「もちろん隣に私もいますよ」
気付けばぐしぐしと顔を擦っていた右手がアイラに搦め取られていた。
にこりと優しく笑う彼女に見とれていると、逆の手をナージャに取られた。
「私だけはずっと味方だぞ! この雌猫より絶対にいいぞ!」
「雌猫て……恋愛本の読み過ぎですよ、このスイーツ脳」
「なんだと貴様、やるのか!?」
「すぅぐそうやって腕っ節に訴えようとする。あーあーやですね、暴力的な女は。ウッディ様、この人家に入ったら絶対物理的に夫のことを尻に敷くタイプですよ」
二人は僕を挟んで言い合いを始めてしまった。
ぼ、僕居ない方がいいんじゃないかな……と思いつつも、二人がすごい剣幕なので何も言えずに黙ることしかできない。
男として情けない……。
でも、どうしてだろう。
僕の胸は不思議と躍っていた。
なんやかんやいって、この生活が結構気に入ってるのかもしれない。
……また明日も頑張ろう。
こんな風に悪くない一日を、何度も何度も送っていこう。
きっとそういう小さなプラスを積み重ねることこそが幸せなんだと、僕は思っているから――。
これにて第三章は終了となります。
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