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夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います! - 5
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夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!  作者: 青空一夏
第二部

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5

 二階の居間で、ルカが絨毯の上にちょこんと座り、お気に入りの絵本を広げていた。


 「あると、きいててねー。これは、ゆうかんなきしがでてくるおはなしなんだよー。それから、りゅうもでてくるの」


 ふわもふの神獣――アルトは、ルカの隣で前足を揃え、真剣なまなざしで絵本を見つめている。ルカはその様子に満足げに頷き、小さな指でページをめくった。


 「このりゅうって、ほんとうは、いいこなんだよ。やさしいの。アルトもおなじ。つよくてやさしいね」


 読み終えると、ルカは絵本をぱたんと閉じ、今度は木彫りの小さな騎士人形を手に取った。アルトの背中に乗せるようにして、毛並みの上をとことこ走らせる。


 「アルトのせなか、ふわふわで、きしさんもよろこんでるよ」


 アルトは穏やかな目でルカを見つめ、ゆっくりと尾を揺らした。その仕草に、ルカは嬉しそうに笑った。


 「ゆうかんなきしさま、いまからたたかいにいきまーす!」


 ルカはアルトの背にしがみつき、「しゅっぱーつ!」と元気よく叫ぶ。

 アルトはおとなしく座っていたが、ルカがよじ登り終えると、そろりと立ち上がった。


 「わぁ、たかーい!」


 得意げなルカと、どこか誇らしげなアルト。

 その姿はまるで、小さな騎士と忠実な従者のようだった。


「うふふ、ふたりとも、本当に仲良しね」


 私がそう言うと、旦那様も微笑んだ。

 けれど、その笑みの奥に、ほんのわずかな翳りが見えた。

 穏やかな時間に身を置いていながらも、彼の瞳はどこか遠くを見つめている。


 声をかけようとした、そのときだった。


 「……心配、かけてるな。ごめん、エルナ」


 旦那様がこちらに視線を向け、静かに口を開いた。


 「神殿に行ってきた。アルトの件で正式に呼び出された」


 胸の奥に、ひやりとした不安が忍び込んでくる。


 「……神殿は、アルトの所有権を主張してきた。俺が最初から神獣だと知っていて隠していたとも。王都騎士団長の立場で神獣を私物化――そんな筋違いな罪をでっち上げてな。“神律会審”にかけるつもりらしい」


 「そんな……! なんて理不尽な言い分なの……! 陛下は、まさか信じているの?」


 声が自然と大きくなっていた。アルトを、そんな言いがかりで奪おうとするなんて、到底許せない。大事な家族なのよ。


 「エルナ。神殿は、本気で動いている。陛下はもちろん俺たちの味方だが、神官たちが騒ぎ出せば、それを黙殺するわけにもいかない。これはもう、正面から戦うしかない。――俺はやる。だから、君も覚悟してくれ」


 その言葉に、私はゆっくりと頷いた。


 「私だって、黙ってなんかいられない。家族を奪おうとするのなら、神様だって許さないわ――私の戦い方で、一緒に戦うわ」


 その瞬間、アルトが顔を上げた。その体からふいに、凛とした気配が立ちのぼる。そして――口元から白い冷気がふわりと漂い、空気がぴんと張り詰めた。一気に部屋の温度が下がっていく。


 「……これも神獣の力か。気温を下げて敵の動きを鈍らせるつもりか。

 だが、アルト。やりすぎだ。ルカが凍えている」


 「さ、さむい……よぉ……」


 ルカが身を縮めると、睫毛にうっすらと霜が降りていた。

 アルトは慌てて魔力を引っ込め、ルカのそばに寄ってふわふわの体で彼を包む。


 「うふっ、あったかい……アルト、ありがとー」


 「……アルトまで、戦う気満々ね。でも、あなたは迂闊に力を使っちゃだめよ?」


 私はそうつぶやきながら、アルトの背にそっと手を添えた。

 アルトはまるで安心したかのように目を閉じ、そのまま小さな眠りに落ちていった。


 ◆◇◆


 翌朝。

 私は食堂を午前中だけ休みにして、すぐに動き出した。


 まず向かったのは、商店街の女将さんたち。神殿がどんな言いがかりをつけてきたのか、詳しく話す。彼女たちは驚きながらも、すぐに味方になってくれる。


 「うちのお客さんにも話しておくわ」

 「こんな理不尽、許せないよ。アルトちゃんは、エルナちゃんの家族だもん。ルカちゃんのお兄ちゃんでしょ? 神獣様だからこそ、好きなところで暮らせばいいんだよ。コルネリオ大神官? あんなのただの、お飾りだよ!」


 次々に声が上がり、怒りの輪が広がっていく。私たち家族の味方は、ここにもちゃんといるわ。


 その足で、私はヴェルツェル公爵夫人も訪ねた。事情を伝えると、夫人は真剣な眼差しで頷いた。


 「家族の危機ですわね。アルトちゃんは、我が公爵家にとっても大切な存在よ。貴族の間でも支持を集めましょう。私が動きます」


 その言葉は、心強かった。夫人の影響力は大きい。

 彼女が動けば、貴族たちの間にも、あっという間に情報が広まる。


 庶民から、そして貴族から――

 少しずつ、けれど確かに、私たちを支持する声が広がっていく。

 

(家族を守るために。私は、絶対に引かないわよ!)


 さらに私は、食堂に通ってくれている騎士や兵士たちにも声をかけた。

 日頃、アルトやルカを可愛がってくれている人たちだ。事情を話すと、皆、即座に賛同してくれた。


 「ふざけんなって話です。神獣だからって、勝手に奪われてたまるか!」

 「俺たちは味方です! 正義を通しましょう」


 どれほど神殿の力が強かろうと、屈するわけにはいかない。


 私だって、信仰心がないわけじゃない。

 でも――


 なんでもかんでも、神の名を借りて踏みにじるような神様なら、そんなもの、こっちから願い下げよ!


(コルネリオ大神官。負けないわよ!)





 •───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•


 ※神律会審:神のおきてに基づいて行われる裁定会で、王が認可した場合のみ、神殿が特別に行える“神罰の場”。



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