7
※若き神官視点
ここは王都騎士団本部。
威風堂々としたその門の前で、私は一度深呼吸をした。
この足取りを止めたら、きっと二度と勇気を振り絞れない。
だから、行くしかない。
門番に神殿の神官であることと、レオン団長に急ぎで話がある旨を告げると、少し訝しげな目を向けられたが、身分証の確認と簡単な質問の後、ようやく通されることになった。
重たい扉の先、騎士団本部の内部はまさに武の空気に満ちていた。
神殿の静謐とはまったく異なる、研ぎ澄まされた雰囲気。
さらに奥。団長の執務室がある階へ上がると、受付嬢が静かにこちらを見やる。
彼女は一礼ののち、感じのいい声で尋ねた。
「ご用件をお伺いしても?」
「レオン騎士団長にお目通りをお願いしたく……神殿に関わる、緊急の件です」
声が震えていなかったか、不安になる。
受付嬢はしばらく沈黙したあと、奥の部屋へ確認を取りに行き――やがて、私に静かにうなずいた。
「お通しします。どうぞ」
団長の執務室の扉が、ゆっくりと開かれる。
執務室の中には、二人の男がいた。
ひとりは王都騎士団長、レオン・グリーンウッド侯爵。もうひとりは、彼の兄にしてヴェルツエル公爵。
まさか、王都騎士団本部にヴェルツエル公爵までいるとは思わなかった。
目の前に立つと、自然と背筋が伸びた。
威圧的な態度は一切ない。むしろ、二人とも穏やかな表情を浮かべていた。
だが、それでも足がすくみそうになる。
「緊急の件と伺っています。どうぞ」
レオン団長が穏やかな声で促してくれた。
私は胸元から封筒を取り出し、差し出した。
「……こちらをご覧ください。神殿内ですすめられている、“神獣アルト様の受け入れ”に関する支出記録です。
見かけ上は“奉納具”や“保護用設備”とされていますが――その実態は、“拘束”を目的とした設備”です」
レオン団長が眉をひそめ、封筒を開く。
ヴェルツエル公爵も書類を覗き込みながら、私の言葉を静かに待った。
「檻は、すでに神殿で最も格式ある部屋に設置されています。魔力を通さぬ特殊鋼製。さらに、複数の封印符と、頑丈な鎖の購入記録が裏帳簿から見つかりました。表の帳簿では装飾具の名目で処理されていますが、物品番号が一致しており誤魔化しは明白です」
声が少し震えた。
だが、それでも私は言葉を続ける。
「私は……神官である前に、信仰を持つ一人の人間です。神獣様は敬い、祈りを捧げるべき存在だと思っております。このような事態を黙って見過ごすことはできませんでした」
一瞬の沈黙。やがて、レオン団長がコルネリオ大神官に対する怒りを滲ませながらも、温かい言葉をかけてくれた。
「……この証拠は、王宮へ持参し、陛下にお見せする。必ずや正しき裁きが下されるだろう。――君の勇気に、神もきっと祝福を与えてくださるはずだ」
その声は、力強くて自信がみなぎっていた。決して不正を見逃さない正義感に溢れている。これでこそ、王都を守る騎士団長だ。
私はようやく、心の底から安堵することができたのだった。