お誘い 3
私と夜行さんは緊張感を解いて、山本さんに向き合う。
「いいい、一体いつから!?」
「コスプレの姉ちゃんが起きたあたりからかな」
「っ」
全部じゃないっ!
私がぷくっと唇を尖らせると山本さんはカラカラと笑い「いやぁ。若いっていいね~」とからかってくる。
「で。一緒に行かないの?」
山本さんはニヤニヤと夜行さんを見る。夜行さんは軽くため息を吐いて眼鏡を上げて私を見た。
見つめられた私は思わずドキッと胸を高鳴らせてしまう。夜行さんはそんな私のことなど知る由も無く「分かりましたよ」と返す。
「主が大変な思いをするのはこちらも胸が痛みますしね。それじゃあ夜の八時にここで」
「……」
夜行さんの意地の悪い言い方に私はさらに唇を尖らせる。
夜行さん。まだ使い魔って言った事、根に持ってる……。
山本さんはそんな私と夜行さんを見てひとしきり大笑いした後「それじゃ、俺も行こうかな」呟いた。
「「え?」」
呆然とする私達に山本さんはズボンのポケットからチケットを取り出す。そのチケットはまぎれもなく大塚国際美術館のものだ。
「実は俺も休みにいこうと思ってたんだ。一緒に美術館めぐりしても構わないかな。とはいってもデートの邪魔をしてほしくないなら断ってくれても」
「デートじゃありません!!!」
「そう言われてもなぁ。説得力ないぞぉ」
「!」
私は頬が急激に赤くなるのを感じながら横目で夜行さんの様子を伺う。夜行さんは特に何の反応も示さずため息を吐いただけだった。
その反応になんとなくムッとしてしまう。
そりゃ。私は夜行さんからみたら赤ん坊みたいなものだと思うけど。……そんなに魅力ないかな。
私は夜行さんと真正面から向き合う。
「別に山本さんも一緒でいいですよね」
「別に構わないが」
「じゃ。俺はだいたい九時頃に美術館に着くようにするよ」
「いえ。八時で大丈夫ですよ」
そう言って夜行さんは山本さんに笑いかけて見せる。一方の私は首を傾げていた。
夜の八時にこの『喫茶 百鬼夜行』に集合で、山本さんは八時に美術館に集合。ここから美術館までは車でも一時間はかかるはずだから。どう考えても山本さんが美術館で待ちぼうけになってしまうけれど……。
山本さんも不思議に思ったのか一瞬言葉を詰まらせるが、すぐに「ああ!」と手を叩いた。
「使い魔だもんなぁ。ひとっ飛びできる技でもあるのか!」
「まぁ、そんなものです」と夜行さんは人差し指を唇に当てる。
山本さんはうんうんと満足そうに頷くと「じゃ帰るわ。また明日。美術館で」とヒラヒラと手を振って席を立った。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
今回は大塚国際美術館について。
徳島県鳴門市にある美術館です。西洋の名画を陶器の板に原画に忠実な色彩・大きさで描き、原寸大かつ寸分違わぬ姿で展示されています。陶板で描くことで紙やキャンバス、土壁に比べ色が経年劣化しないそうです。