海神(わだつみ)の花嫁②
「んん~っ!」
電車から降りたあたしは、ぐぐーっと伸びをする。
なんだかんだで3時間近く電車に揺られたのだ。
身体のあちこちが凝り固まっていた。
ついでとばかりに深呼吸すると、鼻には潮の香りが飛び込んでくる。
塩の香りと言っても良い。
海辺の町と言えば海産物だ。
お魚を塩で焼いてもいいし、貝も捨てがたい。しょうゆとの相性だって抜群だ。
そんなことを考えると、ぐぐーっと自分のお腹も鳴ってしまう。
空を仰げば太陽も中天近い。
すなわちお昼の時間だった。
「あきらー、お腹す――なにやってんの……?」
「み、みやこちゃん助けてっ!」
「海辺っ! 麦わら帽子っ! 白いワンピースっ! 都子ちゃん、早く晶を女の子にして!!」
くるりと振り返れば、晶がおばさんにひん剥かれようとしていた。
あははー、ここ人気がないとはいえ、駅の構内なんだけどなー。
潮風に刺激を受けたのはあたしの食欲だけじゃなく、おばさんの撮影意欲もだった。
もう辛抱たまらんとばかりに、晶の服に手を掛けている、というかあられもない姿にされていた。
うんうん……男の子の状態だからまだセーフかな?
あと涙目であたしに縋ってくる晶も大変ぷりちー。
ぶっちゃけおばさんの気持ちもちょっとわかる。
「おばさんおばさん」
「なぁに、都子ちゃん? あ! もしかして晶に着せたいものがあるのかしら?!」
「こんなところで服を広げて着替えさせると、着ない奴とか皺になっちゃうんじゃ?」
「……っ! そ、それは……いえ、でも……いますぐ……ぐぬぬ……」
とりあえず、助け舟を出してみた。
おばさんは服に並々ならぬこだわりを持っている。
家で無造作にその辺に置いていると見せかけて、皺やらなにやら、大事に扱っているのを知っている。
数分程おばさんの中でせめぎ合った結果、涙目になっている息子を見て、着替えさせるのは後にすることになったようだ。
「そうね……まずは宿に行きましょう……そこでじっくり選びましょう……っ!」
「うんうん」
ホッとしている晶には悪いけど、これ、ただの時間稼ぎだからね?
「そういや宿ってどういうとこなの? ウカちゃん知ってる?」
『我はその、めったにあの場所から出たことがなかったから……各地を転々としていたタケさんやフツさん、どうなんだ?』
『確か、スサの旦那は姉貴の別荘だって言ってたな』
『おいおい、てことはもしかしてアマ姉さんがいるのか?!』
『アマ伯母さんは引きこもりだからめったに自分の家から出てこねーと思うよ?』
どうやら、ウカパパさんのお姉さんの別荘が宿がわりらしい。
あとウカ伯母さんは引きこもり? だから別荘にはめったに来ないんだとか。
それにしても別荘か……ウカちゃんちはお金持ちなんだなぁ。
とりあえず、場所を知っているっぽいタケさんとフツさんに先導されて海岸線のある東の方に向けて歩き出す。
海無し県に住んでいるあたしとしては、海を見るとテンションがあがる。
「見てみてあきら、海だよ海!」
「なんかお祭りの準備してるね、みやこちゃん」
「うふふ、任せて! 浴衣もちゃんと用意してきてるから! 5種類くらい!」
『海岸での祭り……海の幸を使った焼きそば……興味深い……』
近くお祭りでもあるのか、櫓を組んで慌ただしくしている地元の人たちの姿が見える。
もちろん、海で遊んでいる人たちもいっぱいだ。
これはどちらも遊び倒さねばと、計画を話しながら荷物を引く。
海岸を抜けて岩肌が多くなってきたところに、あたし達が泊まるところが見えてきた。
『ここだ』
「ここは……」
それは一軒家ほどの大きさのある小島だった。
小島というくらいだから、もちろんのことながら海にある。
10メートルくらい沖なのかな? 泳げば余裕だけど……
その島だけど、ほとんどが岩で出来ており、鳥小屋くらいの大きさの社が立っている。
ていうか、完全に小さな神社だった。
「あれ、ここって……」
『う、宇迦之御魂神~っ!』
「か、亀?!」
『あれは、別荘を管理してる神使だな』
どうしたものかと困惑しているあたし達の前に、ざばざばと海から亀がやってきた。2本足で歩きながら。大きさは立つと小学生の子供くらい。結構大きい。
『言えば迎えに参りましたのに~っ』
『いや、お主が迎えにきても、移動に時間がかかるだろう』
『わっはっは、それは亀ですからのぅ』
旧知の仲なのか、親しそうに話をするウカちゃんと亀さん。
うんうん、仲が良いのは結構なんだけど……あたし達が泊まる場所はどこ……?