閑話 ロニアの冒険譚 ⑰
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「なんだって?シグリーズル女史が出て来たって?」
発見された遺体の確認から戻って来たヨアキム・エリアソンは、自分の執務室の椅子にドカリと座ると、
「北の民族の婆さんがなんだっていうんだ?」
と言って、胡乱な眼差しをミカエル・グドナソンに向けた。
「踊り子の遺体が発見されたことはすでに報告済みだとは思いますが、この踊り子の恋人だった画家が、シグリーズル女史が住むアパートの隣にアトリエを構えていたのです。踊り子の遺体を画家が確認をするということでついて来たんですが、我々に有力な情報を流したいということだったので、王宮内にある萌葱荘に滞在して頂くことにしたんです」
「身柄の確保と安全を考慮したというわけだな」
ヨアキムはテーブルの上に置いてあった棒キャンディーを手に取ると、包み紙を外しながら目の前に立つミカエルを見上げた。
「それで婆さんがその萌葱荘でレディ達を相手に一発ぶち上げたということなんだろう?未婚の淑女達への注意喚起、結構なことじゃねえか」
ヨアキムは口の中に棒キャンディーを放り込むと、ニンマリと意地悪そうな笑みを浮かべて椅子に寄りかかる。
隣国オムクスはラハティ王国の鉄道事業を頓挫させるために多くの人員を王都に潜入させたようなのだが、彼らは素人娘を娼婦として勧誘し、素人同然の娼婦を相手に多くの軍人が足繁く通うという現象を巻き起こした。
上の方の人間まで利用していたということで、上の連中としては何としてでも有耶無耶にして終わらせたいと考えている。有耶無耶にする為には内輪で片付ける必要があったのだが、問題の娼婦たちが無惨な死体となって発見されたため、誰も彼もが冷や汗をかきまくっているような状態だ。
「婆さんの言うとおり、王宮勤めのエリートなレディたちは敵のターゲットにもなっていただろう。レディ達に対する注意喚起が疎かになっていのだから、婆さんに感謝しなければならないな」
実際問題、彼女達が襲われ、脅迫を受けるようなことにでもなれば、より厄介な事態になっていただろう。王宮の外に出る際には必ず複数名で出かけるようにという注意喚起は素晴らしいものだ。
「私の方でシグリーズル女史に対して事情聴取を行ったのですが、女史が言うには、多数のオムクス人が酒類の流通に関わり始めているとのことです」
「酒類っていうとあれか?貴族家や裕福な平民の家へ酒を配達に行く丁稚に紛れ込んでいるということか?」
「そのようですね。女史が目をつけていたオムクス人に見張りをつけてみたのですが、ワインの配達にかこつけてラウタヴァーラの公爵邸に出入りをしているみたいです」
「ラウタヴァーラかよ・・」
ヨアキムは大きなため息を吐き出した。
「確か次男の結婚式があったよな?いつだったっけ?」
「三日後です」
「ハーーーッ」
ヨアキムは自分の髪の毛を掻きむしりながら言い出した。
「今すぐ配達されたワインを全て回収しろ」
「ええ?」
「ワインに何を入れられたか分かったものじゃないだろう?」
「現場で毒が入っていないか検査をするのでは駄目ですか?」
「ラウタヴァーラの披露宴には高位の貴族だけでなくアドルフ殿下も顔を出すと仰られている。王宮にあるワインを公爵家に下賜するように手配するから、披露宴までに入れ替えを済ませろ」
オリヴェル・ラウタヴァーラ中尉とカステヘルミ・カルコスキ嬢の結婚は王命によって決定した結婚である。それも鉄道事業を円満に進めるための政略的な結婚となりオムクス人だったらこの結婚式を邪魔してやろうとまずは考えるだろう。
「それとミカエル、お前は中尉の家で行われる披露宴に参加をして、オムクス人が紛れ込んでいないか確認しろ」
「え?自分がですか?」
「そうだ、公爵家で預かっているユリアナという名前の令嬢は一妻多夫を望んでいるような女で、男どもが山のように群がっていると言うからな。そういうバカな女を利用するのがオムクスの奴らは大好きだろう?」
隣国ルーレオ王国から出発する蒸気機関車は終点となるラウタヴァーラの港に向かって走ることになるのだが、鉄道事業を頓挫させたい隣国オムクスの間諜は間違いなく公爵家に目をつけていることだろう。
「この結婚式には各国の要人も参加するというから、奴らがこの機会を見逃すとは思えない。騒動を起こす可能性が非常に高いと言えるだろう。だからこそ、結婚式までに敵のアジトの一つや二つは見つけておきたかったんだがなあ」
王国に潜入を果たしたオムクスの間諜たちは秘密のアジトを構えているはずなのだが、そのアジトがなかなか見つけられないのだ。
「お前が言っていた画家だけど、踊り子サファイアの恋人だったんだよな?」
「ええ、そうです」
「オムクス人に脅迫をされていたんだよな?」
「そうです」
「サファイアの遺体は身元不明の扱いで仮処置をしたんだよな?」
「ええ、そうです。画家には恋人が死んだなんてことは知らないふりをして生活をするように命じています」
「それで?敵からの接触は?」
「今のところありませんが、地道に待つしかありません」
「そうだよな、地道に待つしかないよな〜」
ヨアキムが大きなため息を吐き出すと、
「ラウタヴァーラ中尉の結婚式なんですけど、リューディアをエスコートしても良いでしょうか?」
と、ミカエルは恐る恐るといった様子で言い出した。
「自分はリューディアの婚約者ですし、結婚式でエスコートをするのは当たり前のことと思うのですが?」
リューディアはヨアキムの愛する姪っ子であるのだが、
「駄目だろう?」
ヨアキムは顔をくちゃくちゃにしかめながら言い出した。
「お前はオムクスの間諜が潜入していないか探すんだろう?そんな状態なのにうちのリューディアが近くに居たら危ないじゃないか!」
「いや、危なくないですよ!っていうか、婚約者なのに全然会えていないですし、ちょっとエスコートしたってバチは当たらないと思います!」
「あのなあ!今!王都にはオムクスの間諜が山のように潜り込んでいるんだぞ!」
「知っています!」
「だというのに、お前はリューディアを危険な目に晒すつもりか!」
そう言って歯を剥き出しにして威嚇するヨアキムに対して、ミカエルはカッと目を見開いて訴えた。
「自分とリューディアは婚約関係なんですよね?」
「そうだ」
「だったら婚約者らしく交流をさせてくださいよ!」
「お前、結婚したら三十六部隊を抜けるんだろう?」
「ええ!そういう約束ですから!」
「だったら抜けるその日まで国の為に身を捧げるのは当たり前のことだろう!」
「身を捧げるったって、言っていることが無茶苦茶ですよ!」
ミカエルは怒り心頭となって言い出した。
「婚約者が参加しているというのにエスコートせずに披露宴に参加し、公爵家に預けられている男にモテモテの令嬢の周りをウロチョロしろって言うんですよね?そんな浮気者状態の自分を見て、リューディアが傷付いたらどうするんです!」
「浮気者状態も結婚するまでの話だろう!結婚したらやらないんだから良いじゃねえか!」
「誤解されたら嫌なんです!」
ミカエルは唾を飛ばしながら訴えた。
「本当に、本当に大丈夫なんですよね?リューディアはきちんと俺のことを理解してくれているんですよね?」
「大丈夫、大丈夫」
ヨアキム・エリアソン中尉の大丈夫発言ほど危ういものはないのだが、
「本当に大丈夫なんですよね?」
そう問いかけるミカエルの目は若干血走っていたのだが、
「大丈夫だからラウタヴァーラ中尉の結婚式が無事に終わるように協力をしてくれ!俺もそれまでに何とか敵を摘発するようにするからよ!」
と、ヨアキムは言い出した。結婚式まで後三日だと言うのに、敵のアジトを見つけることが出来るのだろうか?
殺人事件も頻発するサスペンスとなり、隔日更新でお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!
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