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I'll - 14.葬儀
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I'll  作者: ままはる
第二章
14/114

14.葬儀

 ーーそれから部屋の中で、ウィルは剣士隊の細かな規則や仕事の内容の説明を受けたり、必要な書類にサインをした。


 グリーンヒルに拠点を置く第3部隊は1班から10班までの、約50名で構成されている。主な仕事は、第2部隊の管轄であるグリーンヒル近郊から、更に外にいる魔物の討伐。または、援軍要請があれば支部隊に合流することもある。


「出動命令がなければ、トレーニングや講義や事務作業、っていう感じかな。ここまでで何か質問はある?」


「1班のメンバーは、この3人だけなんですか?」


「あぁ、そうだった。それを忘れていたわ」


 苦笑するリズの横から、ラリィがひょこりと顔を出す。


「隣の部屋に、ゼンとセイルって2人がいるんだ。2人ともすげーいい奴ら! ゼンも守護剣士なんだぞ」


「3人目の守護剣士……」


 確か魔剣士だとカストは言っていた。魔法も扱える剣士はとても希少なのである、と。


「でも2人とも入院中。セイルはこの間の討伐中にケガして、1週間は病院から出てこれないんだってさ。ゼンも昨日なんとかって毒にやられて入院しちゃって。明後日退院だっけ?」


 頷くリズ。


「だから今日は直接会わせてあげられないんだけど、少なくともこの馬鹿よりかはマトモな人たちだから安心して」


「そ。オレより断然マシだからな!」


 何故か自信満々に胸を張るラリィに、ウィルは一抹の不安を覚える。

 今日から本当に、この男とここで共同生活をしなければならないのだろうか。


「一応確認なんですけど、寮を出てひとり暮らしっていう選択肢は……?」


「残念ながら、入隊して3年間は原則寮生活よ」


「本当に残念です……」


 リズの返答に、がっくりと項垂れるウィル。


「どうしたぁ? 元気出せよ! だいぶ遅くなったけど、昼飯食いに行くか。オレ、先輩だから奢るぞ!」


「行かねぇよ。荷物の整理とかしたいし、放っておいてくれ」


「手伝おうか?」


「いらないって!」


 リズは苦笑いを浮かべながら2人のやり取りを眺めている。それから時計の針に目を向け、時刻を確認した。


「ウィル。今日は葬儀があるんじゃなかった? 時間は大丈夫?」


「葬儀って、例の練習生の? 今日なのか?」


 アイザックとカストの話は、剣士隊の中でも既に有名になっていた。


「あー……」


 アイザックの葬儀。あと少しで始まる時間だ。


「大丈夫です。行かないんで」


「行かないの?」


 リズは意外そうに瞬きした。


「……そういう辛気臭いの、嫌いだし」


「そう……」


 それ以上リズは何も言わなかった。ウィルと亡くなった練習生がどんな関係だったのか知らないし、無理強いすることでもない。

 だが。


「行かなきゃダメっしょ」


 ラリィがキッパリと言い放つ。


「練習生の間、一緒に過ごした仲間なんだろ? ちゃんとお別れしないと」


「いいって。そういうの、うざい」


「うざくてもいい!」


 そう言ってラリィは、ウィルの手を引っ張ってその場に立ち上がらせた。ウィルはその手を乱暴に振り払おうとしたが、意外なほどの力で掴まれていて解けない。


「ちゃんと気持ちに整理をつける為にも、葬儀には行くんだ。別れの挨拶だけでもいいし、感謝の言葉でもいいし、とにかくなんでもいい。相手の顔を見て、言いたい事が言える最後のチャンスなんだぞ!」


「……」


 言いたいことなら山ほどある。

 だけど、棺に入った姿など見たくはない。それを見たら、きっとまたーー


「え、ちょっ、何やってんだ!?」


 気付くとウィルの両手と両足が、赤いリボンで縛られていた。


「リズ。葬式の場所は?」


「練習生の宿舎の近くの教会」


「よし。じゃあ、行くぞ!」


「はぁ!? 行かないって言って……」


 ラリィはひょいっと肩にウィルを担ぎ上げ、部屋を飛び出して行った。

 その後ろ姿を見送るリズは、呆れた顔で小さく息を吐く。


「……ホント馬鹿」







「ふざけんなっ! 今すぐ降ろせ!」


「降ろしたら行かないって駄々こねるだろ?」


 ウィルは担がれたまま全力で体を捩って抵抗するが、ラリィは頑なにウィルを放そうとはしない。


「ガキ扱いするな!」


「葬儀に行きたくないなんて、ガキの言うことじゃん」


「……っ」


言葉に詰まるウィル。


「12歳だっけ? 何をそんなに背伸びしてんのか知らねーけど、お前はまだガキなの。オレだってまだまだガキだし。ガキはガキらしく、辛い時は泣いて、楽しい時は笑えばいーんだよ」


「くっそ……っ!」


 これ以上反論すればそれこそみっともない子供のようで、ウィルは口を閉ざす。


「それにしてもお前、軽いなぁ。ちゃんと飯食ってんのか? あ、背が低いからか」


「……あとでリズ先輩に、セクハラされたって言いつけてやる」


「お。いいね『リズ先輩』! オレも先輩って呼んでよ」


「死んでも呼ばねーよ!」


 ウィルは担がれたまま、緩やかな坂道を下っていく。そのうち住宅街に入り、繁華街に出るだろう。そうすれば必然的に人目も増える。


「……ちゃんと行くから、降ろせよ」


「逃げないって約束するか?」


「するから!」


 ウィルを地面に降ろし、手足のリボンを解いていくラリィ。そんな彼を、ウィルは奇妙なものを見るような目で見ている。


 両親の葬儀の時ですら、ここまで強引なことはされなかったというのに、この男はメチャクチャだ。隙を見て逃げ出したとしても、絶対に追ってくるだろうという恐怖すら感じる。


 観念してウィルは、教会に向かって歩き出した。


 ーー本当に葬式に出るつもりはなかったから、ウィルの服はそのままだったし、遺族にかける言葉だって用意していなかった。


 アイザックに言いたいことは沢山ある。しかしきっと、こういう場所で言うような言葉ではないのだろう、とウィルは思う。


 今までありがとう、とか。

 ずっと忘れない、とかーー

 そういうことを言うのがセオリーなのだろうと思うけれど、それは自分自身の言いたいことでは無い気がした。

 だからどうすればいいのかわからなくて、棺の手前で足を止める。


 あと1歩進めば、棺の中のアイザックが見える。

 ウィルは棺から目を逸らすように、その周りにいる人たちに視線を向けた。


 声を上げて泣いているのは、母親だろうか。その人の肩に手を置いているのは父親だろう。静かに俯いている師範や講師たち。陽気で明るい寮母たちも泣いている。練習生たちも赤い目をしていて、第3部隊長ライトの姿もある。


「ウィル。来たのか」


 ウィルに気付いたイアンが、どこかほっとした顔でやって来た。


「本当に来なかったら恨んでいたところだった。もっと近くまで行ってやれよ」


「いや……俺はここで……」


「ウィル」


 背中を押され、1歩前へ進む。

 アイザックの顔が見えた。静かに瞼を閉じた、白い顔。胸元までまで白い布を被せられ、白い献花に囲まれている。


(『ただ寝ているだけみたいだ』ってよく聞くセリフだけど……あれって本当なんだな)


 そんなことが頭をよぎった。


「アイザック。やっとお前のライバルが到着したぞ」


 イアンが静かに声を掛ける。


「本当に、馬鹿みたいにウィルをライバル視してたよなぁ。稽古で負けた日は機嫌が悪いのなんのって」


 沢山勝負を挑まれた。打ち合い稽古はもちろん、腕立て伏せの回数や、実地訓練では倒した魔物の数。ご飯のおかわりの回数まで競われたことがあった。


「……大人気ねぇんだよ」


 ポツリと声を漏らしたら、何かが胸の奥から勢いよく湧き上がってきた。

 両親の事を思い出そうとした時と同じ、喉の奥が痛くなるあの感じ。いつもなら唾を飲み込んで堪えるけれど、顔を見てしまったら、堪える事ができなかった。


「いつも絡んできやがって、本当に鬱陶しいんだよ、お前」


 今にも起き上がってきて、『鬱陶しいのはてめぇの方だ』とでも言いそうなのに、当たり前だけれど、アイザックは動かない。


「何とか言えよ! あっさり死んでんじゃねぇよ、ふざけんな! 剣士になるんじゃなかったのかよ! 俺はなったぞ! しかも守護剣士だ! 羨ましいだろ? 悔しいだろ!? だったら早く起きろよ!」


 言葉と一緒に、涙が溢れた。


「俺を……っ!」


 分かっていた。葬儀でアイザックの顔を見たら、リズの前で泣いた時のように、気持ちが止まらなくなること。

 でも、もういい。我慢するのはもう疲れた。


「俺をまた独りにするなよ……!」


「ウィル……」


 いつの間にかライトがウィルの隣に立っていて、その肩に手を乗せた。


 出会った頃のウィルが、ライトの頭をよぎる。

 両親を失ったばかりだと言うのに、この少年は泣いていなかった。一度も涙を流さず、両親の葬儀にも出なかったのだと聞いた。暗い目をして、何もかもどうでもいいのだと呟いたあの声が、今もライトの耳に残っている。


「……ウィルを泣かすなんて、最後の最後にアイザックの勝ちだな」


 自分も涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、イアンが笑う。


「うるせーよ……」


 袖で涙を拭い、ウィルも笑う。

 そして今度こそしっかりとアイザックの顔を見た。忘れないように。脳裏に焼き付けるように。


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