Deprecated: The each() function is deprecated. This message will be suppressed on further calls in /home/zhenxiangba/zhenxiangba.com/public_html/phproxy-improved-master/index.php on line 456
I'll - 41.弥月の接触
[go: Go Back, main page]

表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
I'll  作者: ままはる
第四章
41/114

41.弥月の接触

「昨日の駆除地域がここ。今日はこの辺りを中心にしていこうと思う」


 早朝の食事を終えた後、テーブルに広げた樹海の地図に印を付けながら、リズが言った。


「由利は行かないけどな」


 リズの出発を阻止する為に、ちゃっかり海斗も同じテーブルに着いている。


「妖狩りなんて、男の仕事だ。虫も殺せなかった由利が、なんでそんな危ないこと……」


「私は剣士なの。それでお給料を貰っているのよ」


「由利には合ってない」


「合う合わないじゃなくて……」


 困った顔で海斗の説得を試みるリズを、ラリィは離れた席からじっと見ていた。


「うーん」


「どうしたんですか? ラリィ先輩」


「いや……なんだかなぁ……」


 ラリィは考えるように、頭を掻く。


「……うん」


 そしてひとつ頷くと、椅子から立ち上がった。


「じゃあ、出発しよう。リズは今日は有給休暇ってことで」


「……は?」


 ラリィは地図を畳むと自分の荷物に入れて、海斗の手をリズの手の上に置く。


「ほい。しっかり鎖に繋いでおけよ」


「ちょっと、何言ってるの? 有給休暇ってーー」


「俺も賛成だ。お前はここに残れ」


「セイルまで……!」


 信じられないと、リズはセイルを見上げる。


「どうして? お酒は抜けてるし、ちゃんと睡眠も取ったわ」


「面倒臭い奴だな」


 吐き捨てるように言って、セイルは外に出て行った。それにラリィも続く。


「何なの……? 私、何かした? 疲れた顔してる?」


「いや……」


 困惑するゼンは、ウィルと顔を見合わせる。


「俺は戦力的にも、リズ先輩には居て貰った方がいいと思いますけど」


「俺も班長に従うべきだとは思う、が……」


 セイルたちが出て行った扉と、班長であるリズを交互に見るゼン。


「……すまない、リズ」


「ゼン……」


 セイルたちの後を追うゼンを、リズは見送る。


「えっと……どうします?」


「……いいわ。ウィルも行って」


「何かよくわかんないけど、リズ先輩のぶんまで働いてきますね」


 そう言ってウィルも宿を出て行った。

 取り残された、リズと海斗。

 リズは大きなため息を吐いて、テーブルに顔を伏せた。


「由利……あー、リズって呼んだ方がいい?」


「どっちでもいい」


 海斗は、自分の手に触れているリズの手を握った。


「さ、昨夜の続きでもする? なんちゃって……」


「……どっちでもいい」


(どっちでもいいって……どっち!? いや、でも流石に……ダメだよな。漢としてダメ……いや、ダメか? 逆に漢としてここは有りなのか!? わからん! 誰か正解を教えて!)


 自問自答を繰り返し、悶絶する海斗。

 するとそこに近寄ってくる足音がした。


「置いて行かれちゃったね、リズ」


「っ!?」


 弾かれるように顔を上げ、海斗の手を取って椅子から立ち上がるリズ。


「な、何? 誰?」


弥月(みづき)……」


 金の双眸を持つ、黒ずくめの男。

 弥月はニコリと笑うと、テーブルに着いた。


「久しぶり。前回会ってから、3ヶ月くらいかな? 元気にしてた?」


 旧友に会ったような口ぶりの弥月の手に、視線を向ける。

 あの時ラリィに切り落とされたはずの右手は、まるで何事もなかったかのようにそこに在り、リズは得体の知れなさにぞっとした。


「あなた……何がしたいの。本当に、ウィルのご両親を殺したの?」


「殺したよ? だって、僕のものを返してくれないんだもの」


「あの指輪のこと?」


「それ」


「あれは何なの? 殺して奪い返すほどのもの?」


「質問が多いなぁ……座りなよ、リズ」


 指先で机を叩く。

 リズは視線を弥月から離さないまま、海斗の肩を叩く。


「海斗、離れてて」


「あ……ああ」


 リズの様子から、何かが起きていることを察した海斗は、大人しく数歩後ろに退がる。それを確認してから、リズは椅子に座った。

 弥月は満足そうに笑顔で頷く。


「新しい玩具を作ろうと思って試行錯誤したんだ。色んな魔物をくっつけてみたり、人間を混ぜてみたり。でも、なかなか面白いものができなくてね」


 何でも無いことのように、弥月は話す。

 魔物をくっつけることでさえ普通の人間のすることではないのに、人体まで使っていると言うのだろうか。それが事実だとすれば、とても許されることではない。

 それなのに、リズの体は動かない。


「それで暇つぶしに君の記憶を覗いてみたら、案外面白くてさ」


 テーブルの上に、リズの記憶を集めた光の球を転がした。


「私の記憶……?」


 球の中に、金と黒のまだら髪の男が見えた。思わず手に取り、中を覗き込む。


「吉良さん……」


「それで僕は閃いたんだ。新しくて斬新なアイデアをね」


 弥月が指を鳴らすと、光の球はリズの手の中で霧散して消えた。


「あの樹海に、僕が作った魔物の赤ちゃんを置いてきた。無害な子猫みたいな魔物だよ」


「魔物の……赤ちゃん?」


 なんだろう。嫌な感じがする。


「その魔物のお母さんは、君だ」


 弥月は立ち上がり、リズの耳元で囁いた。


「育ててあげてね」


「待ちなさい……っ!」


 慌てて弥月の手を掴もうとしたが、直前で彼の姿は消えた。


「き……消えた……? 由利、大丈夫? 今の人、知り合いか? なんかヤバそうな感じだったけど……」

「……」


 リズは窓から見える、遠くに広がる樹海の影に目を向けた。


「どういうこと……? 魔物の母親が私?」


 4人に報せに行くべきだろうか。

 それとも、どういう意味かはわからないが、自分に関わる魔物がいるのなら、近寄らない方がいいのだろうか。


(来るなって言われたしな……)


 暫く考えたあと、ふっと息を吐く。


「海斗。私は部屋にいるから、もしも何かあれば声を掛けて」


「あ、ああ。わかった」


 食堂に海斗を残し、リズは自室へと戻る。

 部屋のドアを閉めると、しん、と冷たい静寂が訪れた。


(弥月……)


 ウィルの両親を殺したと自白した。非合法な実験もしているようだし、捕まえなければならないと思う。

 けれど、あんな風に消えてしまう相手を、どうやって捕まえたらいいのかわからない。得体が知れなくて、目の前に現れると躊躇してしまう。


「……はぁ」


 リズは大きなため息をついて、ベッドに体を預けた。

 目を閉じると、光の球に映った吉良の顔が瞼の裏に浮かび上がる。


(あんな顔だったかな……)


 そう言えば写真も、彼を思い出せるような物も、何1つ持っていない。

 声も、匂いも、指先の温度も今は覚えている。けれどこれから先、少しずつ忘れていくのだろうか。


(忘れるはずがない)


 忘れたくない。

 そう願った時、突然何かの電源を入れたような、妙な感覚がした。


『由利。熱いお茶を1杯運んでくれるかな』


「っ!?」


 耳のすぐ近くで聞こえた院長の声。


「何……? 幻聴……?」


 目を開き、周囲を見渡すが誰もいない。


『布団に横になりなさい』


 再び聞こえてくる声。

 リズは固く目を閉じて、両手で耳を塞いだ。


(こんなものは思い出したくないのに……!)


 鼓動が速くなる。

 嫌な汗が、背中をじわりと濡らした。


『なんて髪だ。忌み子に違いない』


『山姥! こっちに来るな!』


『この子は災いを呼ぶよ』


『もっとこっちへおいで。さぁ、着物を脱いで』


 思い出したくない言葉が、声が、直接脳に響き渡る。


『声を上げてはいけないよ。他の子供たちが起きてしまうからね。大丈夫、すぐに終わるから』


『気持ち悪い目の色だ。その目でこっちを見るんじゃないよ』


『こいつに触ると寿命を取られるんだってさ! みんな気をつけろよ!』


 リズは耳を塞ぎながら、トイレに駆け込んだ。堪えきれない不快感に嘔吐する。


「はっ……はぁ……っ」


 頭の中が声で溢れて痛い。

 頭を振っても、耳を塞いでも、当時の記憶が津波のように襲ってくる。


『死んだら楽になれるかな』


 今度は自分の声。

 あの時確かに、呪いのように毎日考えていたこと。

 胸が痛くて、けれど頭のどこかは麻痺していて、心と体がバラバラだった。その時の感覚までもが鮮明に蘇る。


「何……?」


 床に座り込み、リズは掠れた声を絞り出す。


「何なの……?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ