第37話 魔城の礼拝堂
「おっ? お前たち、今日はここに入るのか?」
出現するゾンビやレイスを屠りながら魔城の奥へと進むと、礼拝堂の入り口が見えてきた。
巨大な扉の前にはアカデミーの教師と国家冒険者の一人が立っている。
ここが、今回調査する魔城のフロアの中でもっとも事故が起こりやすい場所なので、万が一を考えて人員を配置しているのだという。
「中に何組いますか?」
準備に手間取ったからか、俺たちは遅れて出発している。
他の班の動向について少し情報を収集しようと考えた。
「今のところお前たちで十組目だな」
俺の質問に教師が答える。
「それだけいれば、何かあったとしても平気そうよね」
メリッサは安心した表情を浮かべると、ホッと息を吐いた。
「油断はするなよ? そして、周囲で他の班が危険に陥っていたら手を貸すように」
国家冒険者が俺たちに対し忠告をしてくる。
「ええ、もちろんですわ」
ロレインが胸元に手を当て返事をし、俺たちは扉を開け、中に入っていくのだった。
礼拝堂に入ってすぐのところに、何組かの生徒を発見した。
あまり奥へと進まず、出現したグールと護衛の冒険者が戦っている。
流石は国家冒険者の試験を受けるだけあってか、複数のグールを相手にしても有利に立ち回っており、残る護衛はアカデミーの生徒に危害が加わらないように周囲を警戒している。
どうやら、集団で行動した方が安全と判断したのか、先に入った9組は固まって行動しているようだ。
俺たちはその中に加わることなく奥へと進んでいく。
雰囲気で察したのだが、メリッサたち三人とこの礼拝堂に来ている生徒はあまり仲良くなさそうだったからだ。
「それにしても不気味だよねぇ、こんな気持ち悪い神を崇めていたの?」
ルシアが口を開け遠くを見る。そこには天井まで届く程の大きさの神像が置かれていた。その造形が、悪魔を象ったもので、不気味な雰囲気を漂わせており、今にも動き出すのではないかと身構えてしまう。
「俺たちが信仰しているのは女神ミューズだが、魔王が信仰していたのは邪神と言われているからな、ここ以外にも遺跡とかに祀られているが、どれも瘴気をまとっていてモンスターを呼び寄せるんだぜ」
「へぇ……そうなんだ? 長く冒険しているだけあって知識が豊富なのね、レポートに書きたいから後で詳しく話を聞いてもいい?」
メリッサは砕けた笑みを浮かべるとブレイズさんに話し掛けた。
「……あ、ああ。そりゃ構わねえが」
ブレイズさんは困惑しつつもそう答える。
余裕が生まれたからなのか、二人の間に流れる空気も悪くないものになっていた。
「女神ミューズと敵対する邪神、信仰する者の気が知れませんわ」
そんな会話を聞いていると、ロレインが憎しみのこもった視線を神像に向けている。
「ロレインはね、熱心なミューズ信者なの」
ルシアが近付いてきてコッソリと教えてくれる。
もし俺が、女神ミューズに会ったことがあると言ったら、彼女はどのような反応を見せるのだろうか?
もっとも、これまで父親や母親やセリアにも明かしたことはないので、言うつもりはない。
そのようなことを言おうものなら、頭がおかしいと思われるか、女神ミューズの名を語る背信者として命を狙われかねない。
言ってもどうなることでもないので、黙っているのが一番だろう。
「それよりクラウス、一つお願いがあるんだけどいいかしら?」
「何ですか、メリッサさん?」
礼拝堂内を警戒しつつ進んでいると、メリッサが話し掛けてきた。
「グールを討伐したらさ、毒爪を回収して欲しいの」
「それは構いませんけど、どうしてですか?」
俺が不思議そうな顔をしていると、ロレインが会話に混ざってきた。
「実は、私を含む何名かはアカデミーで錬金術を専攻しているのです。Cランクモンスターのグールの毒は錬金術でも使える素材なので、この機会に集められたらと考えていたのですわ」
「そういうことですか、なら張り切って倒しましょうかね」
要望がわかれば断る理由もない。先程、グールを狩っていた連中もそれが目当てだったのだということがわかった。
ほどなくして、俺の目の前に三匹のグールが出現した。
「クラウス、俺も前に出ようか?」
「いえ、俺一人で大丈夫なので、三人を護ってください」
ブレイズさんには三人の護衛を任せ、俺は太陽剣を抜き一気に前に出た。
『GUUUUUUUUUURRUUUU』
この世の者とは思えない、心臓を鷲摑みしそうな暗い声。
「ひっ!」
悲鳴が聞こえる。声からしてルシアのようだ。
「調子に乗るなよっ!」
――『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』――
俺は口を開け、お返しとばかりにグールどもを威圧した。
『GU……AAAA!?』
グールたちが戸惑い動きを止めた。フェニから受け継いだ【威圧(中)】が効果を発揮したようだ。
「完全に隙だらけだ!」
止まっている敵に攻撃を当てるのはたやすい。
俺が太陽剣を横に振ると、三匹のグールは上半身と下半身が別れて地面に崩れ落ちた。
「まいったぜ、グールを一瞬で倒すとはな……」
ブレイズさんが呆れたような表情で俺を見ている。
「それ……もう死んでるの?」
おそるおそると言った様子でブレイズさんの陰からルシアが顔を覗かせる。
グールは元々、死体が瘴気を吸って動くようになったモンスターなのでどう返事をするか一瞬悩む。
「アンデッド系モンスターはしぶといので、この状態からでもまだ動きます。近寄らないようにしてください」
俺は三人に下がるようにいうと、グールの首と手と足を斬り身動きできないようにしていく。
こう見えてグールの身体は瘴気により強化されているので硬く、普通の武器では切断するのも一苦労なのだが、太陽剣の斬れ味は他に類を見ない程鋭いので、この手の作業も楽だった。
指を切り離し、まだ動いているそれを皮袋に詰めると、ロレインに差し出す。
「これで大丈夫ですかね?」
「あ、ありがとうございます、クラウス様。で、ですが……その、も、申し訳ないのですが、もうしばらく持っていていただくことはできませんでしょうか?」
表情を引きつらせ、青ざめた顔をするロレイン。無理もない、皮袋の中では指が動いており袋の形が常に変わっていて不気味だったから。
「構わないですよ、それじゃあ、動きが止まるまでは俺が持っておきます」
俺が苦笑いを浮かべていると……。
「あっ、ロレインが怖がってる。素材に触れないと錬金術もできないんだよー?」
ルシアがロレインをからかい始めた。
「いや、流石にこれは冒険者をやってる俺でも気持ち悪いって」
ブレイズさんがロレインのフォローをしてみせた。
「そうよ、そんなこと言うならルシア、あんたが寝ている時に背中から指入れるわよ?」
メリッサは悪戯な笑顔を浮かべると、ルシアを脅した。
ルシアはその状況を想像してしまったのか顔を青くすると、
「ひっ! 冗談でもやめて!」
目に涙を浮かべてメリッサの腕を掴み懇願した。
皆が笑い、明るい雰囲気が流れる。このままいけば今日は何の問題もなく護衛を達成できそうだと思っていると……。
――ドーーーーーーーーーン!!!!!――
「何、爆発!?」
「入り口の方からだよ?」
俺はロレインと目が合うと彼女の言葉を聞く。
「アカデミーの生徒にはこんなところまで音を響かせる魔法の使い手はいませんわ」
三人が不安そうに互いの顔を見合わせ、俺はブレイズさんと目が合うと同時に頷いた。
「行ってみましょう」
順調に進んでいるはずだった護衛依頼、そんな中、イレギュラーが発生するのだった。