第82話 シャロッド・デ・ボイル
「俺に聞きたいことがあるって話だけど、あまり話せることはないかもしれないよ?」
離れた場所にある休憩場所に座ると俺は切り出した。何せ俺の従魔のやり方は他のテイマーと違っている。
「そんなことはないかと思いますが、クラウス様は謙虚な方なのですね?」
シャーロットは口元に手を当てて笑った。
その思わず気を許してしまいそうな雰囲気を持つ彼女に、俺は話を聞くことにする。
「そういえば、シャーロットは四匹の従魔を持つわけだけど、それってやっぱり幼少のころから育ててたのか?」
「そうですね、テイマー学科にいるご友人の大体はモンスターを子どものころから育てて従魔にしております。私も、この子は自分の手で育てました」
彼女が頭を撫でているのはホーンラビット。Fランクのモンスターで、鋭い角があることを除けば人に危害を加える存在ではない。
「残りの三匹については、縁あってと言う感じです」
冒険の最中にモンスターに懐かれる例もあるのだが、それですらかなり珍しい。三匹もとなると、何か隠し玉があるのではないかと勘繰ってしまう。
(もしかして、彼女も女神ミューズのような声が聞こえたのだろうか?)
それこそ、俺がモンスターと対峙した際に聞こえるアドバイスがあれば話は別だ。
「そういえば、鶏や牛とか豚は従魔にならないよな?」
「そうですね、従魔にできるのはモンスターだけだと授業で習っておりますが、何かあるのですか?」
「いや、変なことを聞いてごめん。従魔にできる条件をよく知らなかったから……」
「そういえばクラウス様は何一つ教わることなく自然とモンスターをテイムしているのでしたね」
シャーロットはそう言うと先程の話を補足した。
「一応、過去に動物も従魔にできないか試みたテイマーもいたようですが、これまでで成功例はありません。研究によると従魔にできるのは魔力を持つモンスターのみとなっていますね」
「やはりそうか……」
そんな気はしていたが、こうして改めて教えてもらえると助かる。
「ひよこなどの動物は魔力がない、もしくは微弱のため人を襲うようなことはありません」
その間にもシャーロットから新しい知識が伝えられる。
「研究によると、テイマーが持つ魔力に馴染む存在こそが従魔となる条件ではないかと言われているのです」
俺の身体に流れている力は、女神ミューズによって与えられたもの。それまでは動物やモンスターに懐かれるような体験をしてきたことはなかった。
卵は俺の『孵化』のスキルで孵している。生まれる前から大量の俺の魔力を与えているので、従魔にしやすいのではないだろうか?
そんな推測をしていると、シャーロットと目が合った。
「それにしても、クラウス様と話をしていると不思議な感覚があります。何というか……初対面だというのに落ち着く……? かのような」
俺がシャーロットに感じていることをそのまま彼女も俺に感じている。
もしかすると、これがテイマーの資質なのだろうか?
「もう一つ質問いいかな?」
「はい、何でもお答えします」
シャーロットはテイマー学科に通っているということで、テイマーに関する知識もある。
「従魔にすると『ステータス』の魔法で現れる項目に『従魔』ってのがでるよな?」
「ええ、いつの間にか増えてましたね」
「従魔を仲間にした時、他にも項目が増えたりしなかったか?」
スキルの存在について俺は踏み込むのだが……。
「いいえ、従魔の項目だけです」
彼女はそう告げた。
「うーん」
目の前の画面を見る。
元来『ステータス』の魔法は女神ミューズが人間に与えたもので、いつでも自分の状態を確認することができるようになる。
だが、特殊な魔導装置を通さない限りは本人しか内容を見ることができない。
従魔やスキルに関しては魔導装置に何も現れなかったので、本人が秘匿しようと思えばできてしまう。
もしかして彼女が本当のことを言っていない可能性もあった。でも……。
「そんな風には見えないんだよな」
彼女の笑顔を思い浮かべると溜息を吐く。
「兄さん、片付け手伝ってくださいよ」
セリアが呼びに来た。
「ああ、うん。すぐに行くよ」
俺はステータス画面を閉じると彼女の後ろを追いかけるのだった。
「ふぅ、どうにか片付いたな」
招待客が帰り、俺はようやく一息つく。
「皆もお疲れ様」
セリアとルシア、他にもテイマーギルドの面々に声を掛ける。
彼らの助力なくしてこのパーティーの成功はなかった。
お土産に、今日の料理とお菓子に使われた食材を渡してある。
それぞれの屋敷に戻れば、彼ら自身がテイマーの存在意義を周りに広めてくれるはず。
『ピッピッピ』
『…………♪』
『…………(疲)』
「今日はゆっくり休もうな」
甘えてくる三匹をあやしながら、俺たちはその日ゆっくりと眠りにつくのだった。