65 火竜の薬と荒れ地の復興に向けて
魔力ポーション、良し。魔石、良し。あったか毛布に上着。倒れ込みのための椅子。リア師匠の時を思い出す。白く冷えた体、白い顔。温かい飲み物を魔法瓶に入れてそばに置こう。
「リリー、薬ができる頃、お風呂に温めの湯をいれておいて。グレイはもし魔力が足りなそうなら魔力ポーションを手渡して。集中してるから気が付かないと思う」
リア師匠が作るところは見ていたしレシピも確認した。
リリーは火傷の治療薬に必要な材料と器具を準備してくれた。昨夜一緒にレシピを確認した。本当に優秀だ。
「あれ?そこにいるのは火竜。グレイ、なぜいるの?」
「火竜に薬を作る大変さを見せるためだ。
この火竜の無理な争いで森は広範囲に荒れ地になった。本人が大怪我したのは自業自得。でも相手の古竜だって大怪我している。それでも森の再生に自らの力を使っている。この薬は森にいる古竜にも届ける。それを分かってほしい」
竜種はすべての生物の頂点にいる。めったに生まれない卵から生まれ、母竜に大切に育てられる。卵からかえった時から理不尽なほどの魔力と力を持っている。竜に積極的に挑むものはいない。
同じ竜種が最大の敵になる。縄張り争いや、世代交代、求愛のための争い。それゆえ粗暴で傲慢なものが多い。
ここにいる火竜はその典型だった。
齢1000年を越え、体力の衰えを感じて世代交代を考えていた迷いの森の奥の奥、大森林の奥に住む森の守護者の古竜に単に力試しと戦いを挑んだ。
古竜を相手に精霊や妖精、動物に魔物、多くの植物を薙ぎ倒し、暴れまわった。大きな爪で大地をえぐり、口から出す高熱の火炎。過剰な愚行。
残されたのは大怪我をした2匹の竜と焼けてえぐられた広範囲の森の跡。
森が荒れれば獣が逃げる。逃げた獣を追って魔物が追いかける。妖精や精霊の住まない土地は回復することがなく荒れ地が広がっていく。
まだ若い火竜は自分の力を振るうことで力を見せたかった。その結果、本来自然を慈しむ竜としての務めを忘れた。
火竜は火を噴く山を中心とした森に棲む。古竜は1000年以上前に火を噴いた山が長い年月をかけて森になった大地を守ってきた。
人を寄せ付けず精霊や妖精、獣に魔物が小競り合いはあっても穏やかに過ごしていた地だった。
どうやら小さくなった火竜はグレイにこんこんと説教をされたようだ。小さく蹲っている。ライの見苦しい姿を見せるかもしれないけど、今の私の全力で薬を作る。リア師匠の姿が思い出される。
「グレイ、部屋全体が冷えるから火竜に毛布かけてあげて」
前もって作っておいた錬金回復薬A20本・錬金傷軟膏20個・聖水・ヒヤリン草。ヒヤリン草を花茎と葉に切り分ける。花以外を均一に刻む。
リア師匠の時は回復薬と軟膏を作る所から始めた。師匠の旦那様のレシピに高品質の回復薬と傷軟膏から応用するレシピを見つけた。今回は作る量が量なのでこのレシピを使うことにした。
錬金窯に回復薬を入れかき混ぜ、そこに軟膏を少しずつ、魔力も少しずつ均一になるよう流しながら混ぜる。回復薬と軟膏が溶け合ったところで聖水をさらに流し込み混ぜ合わせる。錬金窯から溢れそうな量なのにそんなことにはならない。
錬金釜の周りが一気に冷え込む。切り刻んだヒヤリン草を投入。溶け込むまで延々と魔力を流しながらかき混ぜる。魔力が延々と吸い取られていく。部屋全体がゆっくり冷え、手足が凍えてくる。ここでポーションを・・・。
「ライ、ポーション飲んでおけ」
良いタイミングでグレイの指示が出た。魔力は大丈夫そうだが体が辛くなる。
「ありがとう」
リリーが蓋を開ける。まずは体力の回復薬を手渡す。少し震えた口を開き一気に飲み干す。体力は戻るが魔力の減りが早い。
「魔力ポーションを2本」
指が凍える。
上半身と錬金棒を持つ指が冷たい。
リリーは魔力ポーションをライに手渡し、ライはすぐに2本飲み干す。それでも唇が震える。リリーは温かいミルクを持ち込み上着をかけてくれた。心配そうな顔。ニコリと笑ってミルクを飲み干す。もう一息。
錬金釜の中一面に白い冷気の霧に包まれる。釜の周りにキラキラと小さな氷が舞う。ここでヒヤリン草の花を投入。
グレイが魔石をライの左手に手渡す。
手渡された魔石は昨夜ライが空の魔石に自分の魔力を押し込んだ物。
しっかりと握り込み最後に一気に魔力を流し込む。
体中の魔力が渦を巻いてライの右手から錬金釜に流れ出す。引っ張られる魔力と体力。一瞬光った。一気に消えた冷気。
錬金釜の中に『 火傷痕治療薬 ランクA 』と鑑定できた。
固く握りしめた手をほぐし錬金棒を取り出す。4つの大きな壺にすくい取る。
以前と違って軟膏より硬くなくドロッとした液体に近かった。
ほっとして力が抜けた。用意してあった椅子に腰を落とす。
「ライ、無理させた。リリー、ライを風呂に」
リリーに手を引かれ風呂に向かうため工房を出た。
「あーーーー!」
グレイの叫び声。慌てて工房に戻る。
蓋をしていない薬のそばに火竜がいた。火竜が急に調合台に飛び移り薬の入った壺を火竜の翼で抱きしめ魔力を込める。
「えっ?」
慌てて鑑定する。
『 火竜の火傷の傷と鱗の修復薬 ランクS 』
水に少量入れて吹き付ける。
またはその水に体を浸けると効果が高い。
どういうこと? 人のための火傷痕の薬では火竜に効かない?
火竜の膨大な魔力をつぎ込んで初めて火竜専用の薬になった?
「グレイ、大丈夫。火竜専用の薬に進化した」
「・・・・?」
「大丈夫!ちゃんとできてる。風呂にいく」
とりあえず風呂で体を温めよう。
「ライ、あの薬。魔力遮断の容器に入れたい」
「ま・魔力遮断の箱?」
「うん。壺だと魔力が漏れて魔力酔い起こす。せっかくの効能が目減りする。何かあるかな?」
「とりあえず私の収納に入れておく」
「ああ・・収納が一番安全か」
ライもグレイも疲れすぎて頭が上手く回らない。火竜が一番冷静だった。
その日はそのままぐったりとして風呂を上り寝台に入った。
目覚めたのは翌日昼。慌てて作り置きの薬を納品した。何があるか分からないので少しずつためておいてよかった。
午後から火竜の薬を使ってみる。地下に降り作業台に小さくなった火竜が浸かれる桶を準備する。清水を入れて加温する。火竜は熱いほうが良いのか?
「火竜、湯加減どう?」
「コクコク」
前足?を湯につけ良しの合図か頷いた。
火竜の火傷痕の薬を数滴たらすとお湯は真っ赤に染まる。火竜は自ら桶の中に入り頭以外を薬湯に浸かる。桶の薬湯から湯気が上がる。
火を噴く山の近くにはお湯が沸き出るという。火竜はその湯につかっていたのか。とても慣れた様子だ。
「おい、痛くないか?ピリピリしないか?」
「フルフル」
ライの質問に火竜は首を振る。火竜は目を閉じる。
「ライ、これを森の奥の古竜に届けてくる」
「古竜は火竜?」
「そうだ。1000年も越せばまとめて古竜だ」
「ふーん。えっ?凄く遠くなんでしょ」
モスの故郷は迷いの森のずっと奥にある。今回の火竜の戦いで森が失われ大地が荒れた。故郷の仲間を助けに行きたい。でもライを置いて行くのは申し訳ないと思案していた。守り神の古竜の薬が出来たらライに相談しようと精霊たちで話し合っていた。
モスは迷いの森で一人で泉を守っていてくれた。ライの家に来ても良く働いてくれている。我が儘も言わない。グレイとリリーと相談してモスとスラを中心に復興チームを作ってグレイが転移して連れて行くことにした。古竜に治療薬が効けば良いけど、使ってみなければ分からない。
風精霊、水精霊、光の精霊、緑の精霊・・・。一緒に働く仲間を募る。スラの高級肥料、花の苗、木々の苗、元気の源、甘いクッキー山ほど・・あれれ?
なんか違うような気もするが頑張るためにいろいろ準備した。
木をくりぬいた精霊の家、泉を作って敷き詰める浄化の石、ポーションに魔力ポーション思いつくものを持たせる。もちろん食事も沢山作った。全部魔法袋に入れる。指揮を執るモスとスラに持たせた。
グレイは普段から色々収納してるのでお菓子と料理以外は欲しがらなかった。
火竜の薬浴に使った水が、火竜から染み出た魔力と混じって高濃度の回復水になった。それを捨てずにスラに飲ませ体にため込む。荒れ地に撒くことにした。少しでも古竜の負担を減らすために。思いつくことをいろいろ準備した頃
「ライ、俺がいない間ライの身を守る・・」
「大丈夫。私だって気を付けるから」
「うん、そうなんだけど『ワンワン』」
「あれ?元気になった?白い子犬さん」
「ワンワン」
「それで?」
「こいつ犬じゃない。幻獣、フェンリル。巨大な狼」
「う・うそ」
はぐれフェンリルはまだ子供だった。罠にかかった怪我を治してもらっても地下から森には帰らなかった。時々森で狩りをして肉の差し入れをしていた。
グレイと一緒でライの魔力が心地よく離れたくないと言い出した。森に帰らない。ライの側にいる。色々問題はあるだろうけどすべて受け入れライを守るとグレイに宣言した。ライの魔力につられたグレイは断ることが出来ずライに相談するつもりだった。
今回グレイが留守にするので子犬を代わりに家に置いておくことを提案した。白い犬はライの前にお座りをして白い尾をぶんぶん振る。キラキラした目でライを見つめる。
「名前を付けるね。フェ・・リン・・ウルフ・・シルバー・・ジル」
最後のジルでワンと吠えた。その瞬間ライとジルは光った。
数日後グレイと復興チームは転移していった。
残された家の中で、先輩リリーを追いかけて遊ぶジル。
寂しく思う時間はなかった。
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