69 ダイアナの絵本と新たな契約
お茶の席でミリエッタ叔母様が広げたのは、猫と少年が描かれた絵だった。その猫はグレイでなく黒と白、茶色の三毛猫だった。
「ダイアナはその・・・猫が好きなのね」
不思議そうにミリエッタ叔母様がダイアナを見る。
「そ・そうなんです。夢の妖精猫、名前はミミ。可愛いでしょ。そ・れ・に これを見て」
そこには『マック少年と妖精猫ミミの冒険・妖精のお花畑』と書かれ、猫と少年の幼い姿が描かれてる表紙絵が付いた可愛い本が出てきた。
「ダイアナ!凄い!」
「無断でごめんね。でもライの話聞いた時私の中で物語が生まれたの。妹コニーに合わせて絵を中心に絵本?にしてみたの。コニーはすごく喜んで寝るときも、胸に抱えて寝るほどに。
メイドに何度も読み返してもらっているうちに物語を暗記して文字も覚えてしまった。お兄様が紙だけだとすぐに傷むからと製本してくれたの。兄や妹が続きが楽しみだと言ってくれたから次の冒険を書き始めたの。同じものを三冊作って製本したこの本をライに送りたい」
震える手で手渡された絵本はとても素敵だった。
「ありがとうダイアナ。至らない指導にこんな素敵な本を届けてくれて、私が生徒のよう。きっと!グレイも喜ぶわ。これはお返しではないけど、私からの卒業?の贈り物」
中に入っているグレイに似つかわしくない桃色のきれいな布に包まれた贈り物をダイアナに手渡した。ダイアナが布を開くとそこにはグレイがいた。
「わーー!グレイだ。本物ではない・・・よね。グレイが袋に入るわけないか。でもそっくり!」
「グレイに似るように魔羊の綿を使って作ったの。目が一番難しかった」
「この目。私を諫めた目。これこそグレイ。他の目は似合わない。抱きしめても?」
「もちろん。これはダイアナのもの。何か迷うことがあったらこのグレイに相談して。もしかしたら本物が行くかも?
グレイの目は『クリソベリル・キャッツアイ(猫目石)』という石なの。『クリソベリル・キャッツアイ(猫目石)』は悪を寄せ付けないお守り石と言われている。物事の本質を見抜く。嘘や偽りを見破り導くと言われている。私とグレイからの贈り物」
ダイアナはそっとグレイを腕に載せ抱きしめ、その背を撫でた。グレイを抱きしめ大事にするとダイアナは言いながら涙を浮かべた。この後涙でぬれたグレイにクリーンをかけるまでが贈り物になった。
「ライ、これどうやって作ったの?」
「とても手がかかっているけど簡単に言うと、まずは布で猫の大方の体を作って、袋状にして中に羊毛を詰める。そしてその上から魔羊の綿を巻く。身体の肉づきに合わせて先をつぶした針でチクチクして綿となじませる。手足や耳、髭や口などは別に作ってあとから取り付ける。あ・と・は・秘密!」
「ライだもんね。このグレイは世界で一つだけ。わたしのグレイ。本当にありがとう」
ダイアナはグレイを大切に桃色の布に包んで胸に抱えた。ミリエッタ叔母様の所での住み込み侍女見習いが終了する。これから家に帰り学院最終学年が始まる。
侍女見習いは成果があったか分からないが、家を離れて暮らすことは良い事のようだった。帰りを心配したシャープが迎えに来た。ダイアナは、兄とともに帰っていった。
ふわふわしたお嬢様だったダイアナが、地に足をつけて歩き出した。グレイがいたら褒めてくれたかもしれない。ダイアナにとってグレイは、気難しい生涯の師になった。
元気なダイアナが帰った。ふとミリエッタ叔母様が姿勢を正した。
「ライさん。ダイアナに送った絵のドレスの糸を売ってくれないかしら。魔糸かしら?」
いつものにこやかなミリエッタ叔母様の顔がキリリとしている。
「あれは魔糸を錬金で染めました」
「ほかにも色は付けられるかしら?」
「もとは透明に近い白糸なので出来ると思いますが、お約束はできません」
「染めていない糸を1カセお願いしたい。糸より(撚糸)はこちらでできるので。それ以降はその時契約を結びましょう。この糸を使って、ドレスの胸元や裾回りなど部分的に使ってみたいの。水色も良いけど原色に近い色も、、、欲しいわね」
「錬金染めは始めたばかりです。魔糸も沢山はない・・・」
「かまわないわ。こんな素敵な糸を安売りしてはいけない。ここぞというところで使うから量は少なくてもいいの。慌てなくていいのよ。末永く取引がしたいだけ」
「契約の際は間に商業ギルドを入れたいのですが」
「良いことだわ。しっかり契約をすることが長い付き合いには大切。私も魔糸も魅力的だけど猫ちゃんの魔羊の綿も気になるわね」
「どちらも魔物ですから・・・多くは提供できません」
「充分よ。使いどころを選ぶから。まずは糸からお願いしします」
その後、日を改め、商業ギルドのピエールさんを仲立ちに契約書を作成した。商業ギルドからの依頼でもミリエッタ叔母様の工房との取引は難しいらしく、ライとの契約にピエールさんは驚いていた。
ダイアナの魔法の指導がなくてもミリエッタ叔母様の所に糸を届けに通うようになった。ライの錬金染めの都合があって、5日開ける時もあれば10日開くときもある。ミリエッタ叔母様は昼過ぎならいつでも良いといってくれていた。都合の悪い日は先に教えてくれる。
届けに行けばお茶になり色々話をして帰ってくる。試しに作った魔糸で縁取りをしたハンカチやショールを戴くこともある。貰うばかりではとライも手作りのお菓子を差し入れする。ガーの卵が沢山地下から届いたのでプリンとふわふわケーキ、ベリー乗せを持っていった。
「「ぜひ、作り方を教えて欲しい」」
ミリエッタ叔母様と料理長にお願いされた。商品として売るなら商業ギルドに登録してあるといえば二人は驚いた。ライが薬師とは知っていたがレシピ登録をするほどの料理人とは思わなかったといわれた。
もちろんライは料理人ではない。食べることが好きなこと。師匠が異国の料理の本を持っていたので、それを参考に工夫した。以前働いていた冒険者ギルドのマスターがライのレシピとして商業ギルドに登録してくれたと話した。
「ライちゃんは苦労したけど良い人に恵まれたのね。二人の師匠にボブさん。初めての街の人。確かに悪い人もいたけどそれ以上に良い出会いがあった。本当に良かった。この街に来てくれてありがとう」
しみじみミリエッタ叔母様に言われた。
ダイアナからの素敵な絵は、木工の得意な精霊たちが、きれいな木目を生かした濃い土色の木枠を作ってくれた。さっそくリリーが絵を木枠に収め、飾り付けていた。
ダイアナが精霊や妖精が見えたらどんなに喜んだだろう。そしたら、みんなを描いてもらえたらライも嬉しい。しかし、ダイアナは見ることができない。ライの絵心は・・・残念だ。
古竜が迷いの森が騒がしいと言ってきた。魔物がいるわけではないがざわざわしているという。ざわざわ・・?こんな時グレイがいると助かるのに。
冒険者ギルドに行ってみたが特に森に異常はないらしい。最近薬草が良くとれるぐらいらしく魔物の話は出ていない。
古竜も森の変化の原因は分からない。森の奥の奥は妖精や精霊、魔物に、獣だけだから静かだといった。うんーー?それで静かか?古竜の言葉は分かるけどその意味が分からない。意思を伝えあうのは難しい。ライと古竜はグレイが戻るのを待つことにした。
ダイアナの絵を地下にリリーが飾った。その翌日にその絵とそっくりの木像が届いた。幼い男の子と猫。素晴らしい出来栄えに居間の飾り棚に飾る。毎日少しずつ木の作り物が増えて行った。
小さな木箱に小花を植えて庭を再現。また次の日は果樹の木、実がなっている。しばらく来ないと思ったら我が家にそっくりの小さな家が建っていた。いつの間にか木の人形は洋服を着ている。
東屋にはモス、スラ。リリー、地下の妖精猫、スイ、古竜たちが順に増えていった。飾り棚を増やすとさらに増えていきそうな感じがする。地下の仲間を形に出来るのはとてもうれしい。
おやつの追加を考えないといけない。ライは穏やかな、幸せな時間をゆっくり味わっていた。
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