閑話.夢の中の"俺"との対話、新たなる巣立ち
同時投稿の1つ目です。この後に2つ目の投稿もありますのでご注意ください。
この話は物語に直接的な関与はありませんが、主人公の内面や、世界観の一部を覗けるものとなっていますので、ぜひお読みいただければと思います。
閑話.夢の中の"俺"との対話、新たなる巣立ち
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「ここは……?」
朝靄のような見通しの悪い場所には見覚えがあった。というか毎朝眺めている、裏庭の景色だった。
その普段腰を下ろして眺めている縁側には"俺"が居た。正確には少し若い頃の俺だろうか?学ランの制服を着ている事から、中学生の頃の俺だと想像がついた。
その頃の俺は、いつもこうやって縁側に座り、自分の不甲斐なさを嘆いていた。思春期真っ只中の少年にとって、行動の自由が縛られていた体質は無視のできない、大きなコンプレックスだった。
男友達と遊びに行ったりだとか、少し気になる女の子に良い格好を見せたいだとか、そんなごく普通の感情には蓋をして、ただただ空気のように過ごしていた。
本当なら少し遠くの、偏差値の高い中学校に行くはずだった。いわゆる"お受験"というやつだ。
学力には問題は無かった。母は教育熱心で色んなことを教えてくれていたし、父も『新しい環境で再スタートした方が知春のためだろう』と中学受験には賛成していた。
だけど結局、志望していた中学には行けなかった。受験当日、緊張でなのか腹が痛くなった俺は、マトモに試験に挑めなかったからだ。トイレに行けば治まるような痛みでもなく、一日中俺を苛んだ痛みのせいで、問題を解く頭なんて働く訳もなく。
結局は地元の中学校に進学したわけだが、当然人間関係は小学校の頃の引き継ぎで。だから俺は全てを諦め、空気のように中学校の隅でやり過ごしていた。
母さんが蒸発したのもその頃で、近所の人は『男を作って出ていった』とかしがない噂話をしていた。実際のところは俺にも分からない。父さんに聞いても何も答えてはくれなかったし、仕事で忙しいみたいでロクに話すことも減っていった。
だから近くの祖父母の家で過ごす事が多くなったわけだが。その頃の俺はこうやって、縁側に座ってウジウジと悩んで……。
『はっ、他人事かよ。良いよな悩みの無い奴はさ』
「なっ……」
突如として振り返った過去の"俺"は、俺を睨むようにしてそう吐き捨てた。
『スキルで体質が治って?探索者にもなれて?周りには可愛い女の子までいてよ。ハーレム気取りかよ』
「違う、そんなんじゃ無い!俺はただ……」
その後の言葉が、出てこなかった。コイツは過去の俺で。その痛みも苦しみも全部知っている。分かっている。だって俺なんだから!俺はコイツの辛さを理解してやれる。そう言いたいのに。
そんなのは嘘だ。喉元過ぎれば熱さ忘れる。同じ熱量で、同じ感覚で共感してやれる訳が無かった。
「共感してやれる、か。そうだよな。もうお前は苦しまなくて良いんだよな。あとは素晴らしい未来が待ってる訳だ。そりゃあ上から目線にもなるよ」
そうじゃないと。そんなことはないと。俺にはどうしても言えなかった。だってコイツは俺なんだから。嘘も誤魔化しも効かない俺だから!
「良いんだ。それで良いんだよ。俺は過去の俺だからさ。未来のお前は後ろなんて気にしなくて良いんだよ。前を向いて、光を浴びて生きて良いんだよ」
過去の俺に慰められる。今もまだ苦しみ、これからも苦しみ続ける過去の俺に慰められる。なんて情けない。なんて不甲斐ない。
他人の気持ちは想像するしかない。自分のことだっていつかは忘れてしまう。感じていた気持ちも薄れてしまう。
繋がっているはずなのに、自分だったはずなのに。俺は俺を置いて歩いていかなきゃいけない。だけど、それでも。
「俺は忘れたくない!俺の痛みも、苦しみも、頑張ってきた自分のことを忘れたくない!!絶対……忘れないから……。お前の分まで頑張るからさ……!」
「……ああ。幸せにな。未来が明るいものだって思えれば、いくらか生きやすくはなるからさ。頑張れよ」
"俺"が遠くなっていく。過去が遠ざかっていく。それでも今の俺と繋がってる。連なってる。俺が俺である限り。
忘れないからな。ありがとうな。"俺"を頑張ってくれて。俺にお前を見せてくれて。ありがとう。またな……。
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『ヒナが巣立ったね』
『ようやくだよ。長かった』
『こんな巣で大丈夫なのかって不安だったね』
『全然孵らないんだもん、焦ったよ』
『でもようやくだね。この子はどんな風になるのかな』
『面白い成長をしてるから。きっと元気に育つ筈だよ』
『そうだといいね』
『そうなると思うよ』
『見守ろうね』
『見守ろうよ』
『『だから、今の話は内緒』』
『君たちもおやすみ』
『君たちも良い夢を』
…………
……
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ここまでが第2章です。この後はスキルの説明回がありますので、確認などにご利用ください。