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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】 - 86・もう誰にも負ける気がしない
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86・もう誰にも負ける気がしない

「どうしてあんたがここに!?」


 登場した私とナイジェル、そしてラルフちゃんを見て、魔族が目を見開く。


 冷たさを感じるような美しい魔族。

 魔族に性別なんてあるのか分からないけれど——中性的な見た目で、男とも女とも区別が付きにくかった。


 でもヴィンセント様にも感じた冷たさとは、また違う。

 あの方はこんな見ているだけで、不安で叫びたくなるような雰囲気ではなかった。

 魔族の意地汚い本性が、外見に現れているよう。


「フィリップ。これがバルドゥルという魔族ですか?」


 問いかけると、フィリップが首肯した。


 ビンゴ……!


 私をさらい牢獄に閉じ込め、フィリップ達に酷いことをしている総大将だ。


「し、しかしエリアーヌ。どうやってここに……?」

「話はあとです」


 まずはこの魔族——バルドゥルをなんとかしなければならないですからね。


「エリアーヌ。また君の力を貸してくれるかな?」

「もちろんです」


 さっとナイジェルが一歩前に出る。

 私はそんな彼の腕を抱いて、共にバルドゥルに近付いた。


 それを見て、バルドゥルは「ふっ」と不敵な笑みを浮かる。


「なーんであんたがここにいるかは分からないけれど、一度村の中に入ってしまえばこっちのものよ。それに別に私はこの精霊達に酷いことをするつもりはないのよ?」

「そうは見えないね」


 ナイジェルが射抜くような視線を、バルドゥルに向ける。


「ふふん、私は()()されやすいのよ」


 嘘です。

 そうでなければ、あんないたいけな子どもを使い私を罠にはめたりなんかしない。

 フィリップも苦しそうだし……バルドゥルの言うことは全く信頼出来ません。


「ねえ、そこのイケメン君。あんたとだったら仲良く出来そうだわ」


 バルドゥルが歩み寄り、手を差し出す。


「私の友達になってくれない? きっと良い光景が見られるわよ」

「へえ、それはどんな光景なんだい?」

「世界の覇者となった光景よ。あんたも民を跪かせ、自分の思い通りになる世界にしたいでしょ? 私とだったらそれが出来る。ねえ、私と手を組みましょう」

「お生憎様——」


 ナイジェルはバルドゥルの手を払いのけ、剣を抜く。


「そんなものには興味がない。時に思い通りにならないこともあるから、人生ってのは楽しいんじゃないか」

「ちっ……!」


 バルドゥルが舌打ちする。


 その体から闇が奔流する。闇は狼の頭部を形取り、ナイジェルに襲いかかった。


 最初から協力するつもりなどなかったのです。

 握手する振りをして、ナイジェルの命を狩ろうとしたに違いありません。


 しかし。


「はあっ!」


 ナイジェルが声を上げ、剣を振るうと闇が消滅する。

 その衝撃でバルドゥルは後方に吹っ飛び、地面に手をついた。


 だが、バルドゥルもこれだけでは終わらない。


「舐めないで!」


 バルドゥルが手をかざすと、蛇状になった闇がまたもやナイジェルに直行する。


「エリアーヌ——ちょっと待っててくれるかな。すぐに決着をつけるから。フィリップもあとは僕に任せて」

「ええ」

「あ、ああ」


 私はナイジェルから離れる。


「この程度では僕はやられない」


 向かいくる蛇状の闇。

 しかしナイジェルは少しも怯まず、バルドゥルに歩を進める。

 向かってくる闇は、ナイジェルが剣を一閃すると消えていった。


「女神の加護も二度目となって、使い方が慣れてきたね。今だったら誰にも負ける気がしないよ」


 女神の加護——。


 聖女である私が他人に付与することの出来る力。

 前回の戦いでナイジェルが女神の加護に適合していることは織り込み済み。

 バルドゥル一体では、ナイジェルに太刀打ち出来ないでしょう。


「なによ、なによ、なによ! どうして私の思い通りにならないのよおおおおおお!」


 バルドゥルの体からメチャクチャに闇が奔流する。

 しかしそんな冷静さを失った攻撃では、ナイジェルの髪先を焼くことすら不可能。


「無駄だ」


 ナイジェルがバルドゥルとの距離をゼロにして、剣を上から下に一閃する。


「くっ!」


 バルドゥルは間一髪のところでそれを回避。


 だけどそれで精一杯。

 ナイジェルはバルドゥルの顔のすぐ横に剣を突き立て、冷たい声でこう告げた。


「さあ喋ってもらおうか。君はなにを考えている? どうしてこんなことをした? そしてなにより——エリアーヌにあんな酷いことをした罰を受けてもらおう」


 いつものナイジェルとは違う怒気の含んだ声。

 彼の後ろ姿を見ただけでも、相当怒っていることが肌で感じ取れた。


「はっ! エリアーヌ……そこの聖女ね」


 しかしバルドゥルも諦めが悪い。

 絶体絶命のピンチでありながらなお、私へ敵意のこもった視線を向ける。


「あんたみたいな女、私は大嫌いよ。出来もしないくせに、みんなを守ろう——そんなことを考えているような目。キレイごとしか言えない。あんたを見ているとムカムカしてくる。今すぐにでもっちゃいたいわ」

「そうですか。まあ、あなたとは考えが合いそうにありませんね。でも私もおとなしく殺されるつもりはありませんから」


 私はバルドゥルから視線を外さず、そう声にした。


 そんな私の態度がさらに気に入らなかったのか、バルドゥルの瞳に憎悪が宿る。


「それにあんた達、これで私に勝ったつもりなの?」

「どういうつもりだい?」


 ナイジェルが問うと、バルドゥルは笑みを浮かべながらこう続ける。


「あんたも私一人だけで精霊共を支配出来るとは思っていないわよ。私には数百・数千の部下がいる。果たしてあんた等だけで、そいつ等を倒すことが出来るかしら?」

「ふうん?」


 ——聞こえる。


 村の外から騒がしい音。

 森が震えている。


「どうやらハッタリではないようだね」

「ははは! あんたも詰めが甘いわね。私の部下は強いわよ? アンデッド属性を持った魔族でね。普通に剣を振るうだけでは倒せない。そんな不死身者の集団に、どうあんたは立ち向かうつもり?」

「まあ僕一人だけでは無理だろうね」


 その言葉を聞き、バルドゥルは戦況が良くなったと勘違いしたのか、一瞬表情を緩ませた。


 確かに……いくら女神の加護が付与されているナイジェルでも、数百・数千の魔族軍団を相手にするのは、少し骨が折れそうです。


 だけど。


「僕には味方がいる。耳を澄ませてみなよ」

「なにを訳の分からないことを——」


 バルドゥルの口が止まる。


 村まで聞こえてくる物騒な声。

 だけどそれはよくよく聞いてみると人間の声——そして魔族らしき叫び声も混じっているように思えた。


「あ、あんたどういうこと……? なにをしたっていうの。あんた等だけならともかく、私の部下に対抗出来る軍団をここまで連れてくるなんて不可能よ。時間が足りなすぎる……」

「うん。僕自慢の騎士団はさすがにまだ到着していないみたいだね。だけど僕の国には他にも頼れる仲間がいるんだよ?」


 誇らしげにナイジェルはこう続けた。


「あいつはみんなからこう呼ばれている。氷の公爵ってね」

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