ロロの新居と、聖剣の女
マグナ・ダイア帝国の現皇帝、ブライト・ダイアは、豪華絢爛な自室で、報告書を読んでいた。
皇帝直轄の施設である、帝立魔法学院にて、新たな大魔法使い現る、と。
彼の事は、実は前々から少し目を付けていた。
高等部一年生でありながら、成績は最優秀の評価の連続。
また、彼の後見人は、自分の弟であるエメラルド公爵の、その息子。
エメラルド公爵の子息、グリーンハルト・エメラルドの、人を見る目は間違いない。
帝国内で、現存する大魔法使いは、第二十騎士団の団長、ただひとりだけだった。
第二十騎士団、通称『近衛騎士団』五十名は、皇帝の周囲の安全を守る、精鋭中の精鋭。
その団長だけが、いままでは唯一の大魔法使い。
しかも、そろそろ老体のため引退をも考えているそうだ。
今回新たに見つかった大魔法使いは、十六歳の少年。
ネクロマンサー。
しかも、眷属とやらには既に、百年前の英雄ティナ・シール・ベルモントと、亡くなった現代の伝説リリアナ・スピカを含んでいるようだ。
皇帝ブライト・ダイアは、死霊術の事は詳しくは無いのだが、近衛騎士団長によると、大魔法使いである彼は、死体さえあれば、万を超えるゾンビを作り出し操ることも可能とのことだ。
皇帝は、その少年と仮に敵対した場合の予想を、頭の中で組み立てる。
戦場跡などに行けば、野ざらしになった死体など、いくらでもある。
最初の一万のゾンビを何とか倒したとしても、即座に次の一万が作られる。
その少年のネクロマンサーは、その気になれば、たったひとりで一国を滅ぼすことも可能であろう。
皇帝の背中に、一筋の汗が落ちる。
その少年は、必ず味方に引き込まねばなるまい。
皇帝は、悩む。
だとしたら、どのように取り込むか。
金銭か。
女か。
それとも、爵位を授けようか。
もしかしたら、その全てを欲するかもしれない。
金と女ならば、ある程度は予算の都合が付けられる。
だが、もし爵位を欲するのであれば、子々孫々にまで影響を及ぼすため、与える爵位は慎重に考えねばならない。
一代限りの男爵程度で満足してくれればいいのだが。
まずは、その少年の周辺から、為人を探るのがいいか。
皇帝は、手を鳴らし、執事長を呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
初老の執事長は、真っすぐな背で、お辞儀をする。
皇帝は、執事長にロロの顔写真付きの資料を手渡した。
「この少年を探れ」
★
「わあ!広いですっ!」
ティナ・シールは、真っ先にロロの新居に駆け込んだ。
ロロも、デイズと一緒に、新しい邸宅へ入る。
リリアナ、アイ、ムラサメも後に続く。
ロロの、新しい家が完成したのだ。
玄関を通ると、赤い絨毯が引かれた、広いエントランス。
エントランスの左右には、他の部屋へ続く廊下に繋がっている。
エントランスの奥には、二階への階段が続く。
二階にも、広い部屋が六つほどあるらしい。
ロロの私室は、二階の一番奥の、一番大きい部屋。
荷物は既に、運び込まれている。
ロロの部屋の隣は、デイズの部屋。
そして、さらにその隣はティナ・シール、リリアナ、ムラサメの部屋と続いている。
アイには、エントランスの奥の階段脇に、快適な巣を用意した。
ロロたちは、階段を上り、二階の廊下を歩く。
一番奥にある、ロロの部屋のドアを開けてみた。
「えっ、デカっ!」
ロロは、自室を開け、驚愕する。
後ろから付いてきたデイズと眷属たちも、目を丸くしている。
一番大きいロロの部屋の大部分を占めていたのは、巨大なベッド。
たぶん、八人くらいは寝れると思われる。
(僕、そんなに彼女増やす気ないんだけどなぁ……)
今の彼女のデイズとティナ・シール。
あとは、もしかしたらリリアナが入るかもしれない。
たぶん、ムラサメとはそういう間柄にはならないと思う。
ムラサメとは、あくまで侍と主の関係だ。
白髪の少女ティナ・シールが、ベッドにダイブする。
「ロロ様っ!すごい!ふかふか!」
それを見て、ロロもデイズと一緒に、ベッドに飛び込む。
スプリングが利いていて、寝心地抜群だ。
しかも、説明書きを見たところ、布団カバーが魔法道具になっていて、マナを込めると、自動で洗浄されるらしい。
思う存分汚しても、マナを込めれば元通り。
これは、彼女たちと愛し合った時に、ベッドを汚しがちなロロには嬉しい効果だった。
ロロはベッドに寝っ転がり、右手にデイズ、左手にティナ・シールを抱いた。
デイズが、ロロに囁く。
「これなら、三人でできるね」
ロロの顔が熱くなる。
(三人で、かぁ。いいね)
ロロは、身体も熱くなった。
★
「はぁ、はぁ、し、死ぬ……」
その銀髪のベリーショートの女性は、手にした大剣を杖代わりにし、息も絶え絶えに、なんとか立っていた。
その腕には、盛り上がった筋肉。
よりかかる大剣は、嵐の聖剣ヴィーナス。
彼女の周辺の平原には、吸血鬼の王と、その配下三百名。
彼女は、それらに囲まれていた。
「死ぬ、かと思ったぁぁ!」
彼女は、思い切り天を仰ぎ、叫ぶ。
周辺の平原には、吸血鬼の王と、その配下三百名。
それらの、死体。
先ほどまで吸血鬼の軍団と壮絶な戦いを繰り広げ、その女性は、たった一人で奴らに勝利していた。
彼女は、吠える。
聖剣を片手に。
「ふざけんなぁっ!クソ団長ぉ!アタシ一人にやらせる仕事じゃねえだろっ!」
彼女は、帝立魔法学園、高等部三年生。
エリザベス。
エリザベス・サファイア。
皇帝の分家の血族であるサファイア家の令嬢で、学園最強と名高い女子生徒。
皇帝一族の秘宝である、聖剣ヴィーナスに選ばれし女。
空を見ると、箒に乗った二人組。
第一騎士団の偵察飛行部隊の二人。
その二人が、エリザベスを見ながら言いあう。
「ようよう!ありゃあ、すげえ女だなあ!」
「まさか、ホントに一人でやっちまうとは思わなかったぜ!ガハハ!」
「最初は、団長、気が狂っちまったかと思ったけどな!マジだな!ガチだな!」
「ああ、マジのガチだ!ガハハ!」
そう、エリザベスは、第一騎士団の騎士団補佐である。
だが、それは学生という身だからこそ、補佐に付いているだけで、実力は騎士団の誰よりも高かった。
おそらく彼女は、団長よりも遥かに強い。
彼女は、偵察飛行部隊の二人に叫ぶ。
「オラァ!勝ったぞ!早くアタシを回収しやがれ!」
その肩に担がれている大剣は、嵐の聖剣ヴィーナス。
ひとたび振るえば、かまいたちの混ざる大竜巻を起こし、吸い込んだ全てを切り裂くのだ。
エリザベス・サファイア。
帝立魔法学園、最強の女。