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私の敵はもはや魔族じゃなくて神かもしれない。
「今日はもう寝よ」
私はそれだけ言って、再び目を瞑った。
今日はもうかなり話した。この話をどう解釈するかはレイ側の問題だ。
♢
『ここでお別れだな。……寂しくなる。最初は、聖女といえども女のガキが騎士団に属していることに嫌悪感を抱いて、お前のことを蔑視していたが……間違いだった。お前の働きは目を瞠るほど見事なものだった。よくここまで共に戦ってくれた』
マリック・ライド――囮部隊の隊長との最後の会話。
ややたれ目の青い瞳に濃い金髪のまだ三十代の男性だった。幼い私に対しても容赦なく、とても厳しかったが、愛情深い人だった。
『私もすぐに皆の元に行きます』
そう返答した私にマリック隊長は苦笑した。
『お前は何としても生き残ってくれ。俺の娘とさして変わらぬ年齢の子が戦場で死ぬなんて御免だ』
それでも、私は彼らと共に死ぬ予定だった。…………しかし、運命は惨く、そうはならなかった。
『お願い!! 私も殺して……!!』
そう叫んだ私に当時の団長――グレイン団長が勢いよく平手打ちをした。
――パチンッ。
その衝撃と共に私は目を覚ました。
……あれ? 現実?
私は右頬に痛みを感じながら、状況を確認する。頬が僅かに濡れており、寝ながら涙を流していたことに気付く。視界には、レイが険しい表情があった。
え~~~、私、レイに叩かれたの!?
とんだ悪夢だったけど、平手打ちで起こされたの!? それもベストタイミングで。
にしても、これほど至近距離でレイを見ると、ニキビ一つない艶やかなきめ細かな肌で、顔が整っていることが良く分かる。
……それでも、この性格だもんねぇ。
傍から見れば美少年になるのかもしれないけど、口が悪すぎる。……そんなタイプが、どこかに需要がある気もするけど、流石に女の子の顔を殴るのはないでしょ。
「モテないよ」
私はレイに冷たい視線を向けながら、静かにそう言った。レイは私の言葉にさらに眉間に皺を寄せる。私の前ではほとんどこの表情だ。もはや、これ以外の表情を知らないぐらい。
……笑ったりするの? この男。
「悪夢にうなされていたのを助けただけだ。……声を掛けても起きなかったんだから仕方ねえだろ」
「だからって、朝の挨拶が平手打ちなんて聞いたことないよ!」
「はぁ!? てか、朝の挨拶じゃねえし! 苦しんでいるのを救ってやったんだぞ、少しは感謝しろよ」
「そんなの頼んでないじゃん! 私のことがいくら嫌いだからって、その鬱憤を暴力で片づけないでくださ~い」
我ながらにクソガキだと思いながら、私はレイの言葉に言い返していた。
今まではこんな風にいちいち言い返したりしなかったけど、なんだか昨夜レイに色々と話したことで、少し心がスッキリしていた。
売り言葉に買い言葉で私は頬を膨らます。しかし、レイは私の言葉にどこか複雑な感情を浮かべていた。
……え、何その反応。
二人ともクソガキモードじゃないの? 急にはしご外してくるじゃん。
「昨日、お前の話を聞いてからずっと考えていた」
「もしかして、私に恋しちゃった?」
私がふざけて返すと、レイは目を細くして「真面目に聞け」と強い口調で私を制する。
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