59 そこのおばさん
ざわざわざわ。
がやがやがや。
何だろう。外がうるさい。
目を開けると、まだ薄暗い。
こんな時間に、誰が騒いでるんだろう。
手探りでぽふぽふと枕もとを叩いてみたけど、何も手に当たらない。
あれー?
変だなあ。とりもねこも、いつもこの辺に寝てるのに……。
身体を起こして見回すと、とりもねこもいなかった。
いつも寝坊してるふたりなのに、こんな朝早くにどこ行ったんだろう。昨日の夜も遅かったのに……。
私は思い切り伸びをしてから、ベッドを下りた。
「とりさーん? ねこくーん?」
返事はない。
もう。
本当に、いつも勝手にどこかに行っちゃうんだから。
ローブを肩から引っかけて、私は暗い廊下に出た。
がやがやという声は、どうやら外から聞こえてくるみたいだ。
何だろう。
廊下を歩いて、庭へと出れる場所を見つけた。昨日の夜も、ここから出入りしたんだっけな……。
庭に出ると、やっぱりまだ夜明け前だった。空の東側は明るくなりかけているから、もう少ししたら朝日が昇るだろう。
がやがやがや。
……向こうだな。
声のする方へと向かってみる。
人が集まっていたのは、昨夜のあの銅像の前だった。
恰好からして、そこにいるのは庭師さんたちのようだ。こんな朝早くからお仕事ご苦労様です。
庭師さんたちの足の間から、何か小さなものが見える。
「そのとき、ぼくらは気づいたんです!」
「気づいたんです!」
「このバシバシとすさまじい雷光を放つ恐ろしい指輪こそ、この屋敷に隠された大きな謎を解く鍵であると!」
「あると!」
え。
うそ。
なんか聞き覚えのある声がふたつ。
ちょっと待って。
銅像の前にふこもことしたとりとねこがいる。やけに得意げに、庭師さんたちに説明、というか演説? みたいなことをしてる。
「夜の庭には、無数の亡霊どもが集まっていました。しかしぼくらは勇気を振り絞ってランプのわずかな光だけを頼りに、死者の庭を進んでいったのです」
「いったのです」
死者の庭ってなんだ。あなたたちは私の肩に乗ってうつらうつらしてたでしょうに。
「亡霊を祓って進んだ先でこの銅像を見つけたとき、私はすぐにふこりと来たのです!」
「来たのです!」
ふこりと来たって何。それを言うなら、ぴんときたでしょ。
「雷光の指輪は、この銅像の指にぴったりはまるのではないかと!」
「ないかと!」
ねこの追随がずっとうるさい。雷光の指輪ってかっこいい名前だけど、本当は静電気の指輪だったよ。
「ぼくらは身体をふこぺしと貫く電流にも怯むことなく、指輪をこの指にはめ直したのです。御覧ください!」
「ください!」
とりとねこは手羽と腕を上げて銅像の指輪を指す。
おー、と庭師さんたちから声が上がる。
優しい人たちだ。電流の擬音でふこぺしとか、絶対あり得ないのに。
「この指輪が戻った以上、この屋敷を襲った怪奇現象は収まることでしょう!」
「はい、拍手!」
ぱちぱちぱちぱち。ねこが拍手を強要している。申し訳ない。
っていうか、絶対にそんな嘘は言ったらだめ。あの指輪が何なのかなんて、全然分からないんだから。
拍手を浴びて、満足そうに胸をそらして後ろにひっくり返りそうになってるとりとねこを回収しようと、私が近づきかけたその時だった。
「その指輪が、うちに起きたおかしなことの原因だったって?」
はっ。その声は。
庭師さんたちが慌てて深々とお辞儀する。
まん丸のちっちゃな身体の女の人がてくてくと歩いてくる。
奥様!
朝早い!!
奥様は昨日会ったときは紫のドレスだったけど、今は目がちかちかするような派手な黄色のネグリジェ姿だった。あの色で眠れるんだろうか。
なんて疑問に思ったのも束の間。
「そこのおばさん、その通りである!」
「である!」
昨日会ってないからあれが奥様だと知らないとりとねこが、奥様をおばさん呼ばわりしてる。やばくない……?
奥様はてくてくと銅像の前までやってくると、私が昨日銅像に嵌めた例の指輪を見た。
奥様が今も自分の指に嵌めてるたくさんの指輪に比べたら、すごーくシンプル。地味。
「ふん」
奥様は丸っこい身体を揺らして肩をすくめた(多分。肩がどこかはよく分かんないけど)。
「アリス・アンジェラの指輪か。突然出てくるなんてね」
え?
「まあ、そういうことなら」
奥様はとりとねこをひょいっと摘まみ上げた。
「むぎゅ」
「もにゅ」
「おかしなぬいぐるみだね。よくしゃべる」
奥様はちょっと顔をしかめてから、にやりと笑った。
「たーっぷりとご褒美をあげないとねえ」
なんだかやばい気がする……!