55_華美な戦場と挑戦者(チャレンジャー)
第55話です。
ドレスアップしてもやってることはいつもと変わらない。不器用エルフは不器用なまま、でもちょっとスマートさもある……かもしれません
バジル商会が財力を惜しみなく注いだ舞踏会は、なんとも豪華なものだった。
バジル商会本拠地とされる大豪邸は広大な庭園に囲まれ、この舞踏会のためだけに飾り付けられた生花が夕暮れ時のそよ風に揺れている。整えられた芝生は青々と茂り、中央の噴水からは惜しみなく濁りのない水が流れていた。
玄関ホールに続く白亜の大理石の階段に足を掛ける。だが緊張のせいか、もしくはハイヒールのせいかわからないが、震えてしまって上手く足が踏み出せない。
「……」
「……おい」
「なんですか」
こっちは緊張とコルセットの締め付けのせいで吐きそうなんですってば。
「隙を作るな」
ビョルンさんは呆れたように溜息をつき、わざとらしく左腕を曲げてみせる。恐らく『ここに掴まれ』ということなのだと判断して、遠慮なくガッチリホールドする。
思い切り掴んだところでビョルンさんの腕は折れないだろうから、それはもう遠慮なく力を込めた。ビョルンさんは顔を顰めて、非難めいた声をあげる。
「おい」
「だって、こうしないと転んじゃいそうで」
「そんな無様を許すものか」
本当に心の底から呆れたような口調にムッとする。ビョルンさんもつられて眉間に皺が寄った。
「淑女の顔ではないな」
「せいぜい私は一般市民Aですよ」
一段、また一段とゆっくりと階段をあがりながら、ビョルンさんに憎まれ口を叩く。
「そのドレスは金貨100枚、髪飾りは75枚だ。合計金額は金貨175枚、参加者たちの平均以下の宝飾品だ」
「これでも平均以下なんですか!?」
「隙を見せれば食われる。資産に溺れた者共は貪欲だ」
さすが私より何年も長く生きているだけあって、その言葉の重みは並大抵以上だ。
「その点、ここの商会長は違う。富の使い方を心得ている」
とうとう階段を上り切ったところで、踏み出した屋敷の玄関ホールを見上げてビョルンさんは静かに言った。
屋敷の広大な玄関ホールは、床から天井まで磨き抜かれた純白の大理石で覆われている。その上には、厚みのある深いボルドーの絨毯が、まるで紅蓮の河のように真っ直ぐ中央を貫いていた。
壁には、人の背丈を優に超える巨大な銀縁の鏡が等間隔に並び、そこに映り込む無数のシャンデリアの火が、空間を無限に拡張させている。まるで、どこまでも続く鏡の迷宮に迷い込んだような錯覚に陥った。
見上げれば、天井には巨大なシャンデリアがいくつも吊り下げられていた。ひとつひとつの雫が蝋燭の火を複雑に反射し、ホール全体に星空ような煌めきを降らせている。
「こ、これで、玄関……!?」
「鏡の値段はその大きさに比例する。しかもシャンデリアは希少なライトクリスタルだろう」
「ちなみに、そのお値段は」
「我々が日々露店で稼いだところで一生手に入らないだけの金貨、とだけ言っておく」
「ヒィ……」
バジルさん、一体あなたはどんな方法でこれほどの富を築き上げたんですか。
私は恐ろしくなって、ビョルンさんの腕を握る手に力を込めた。彼は眉間に皺を寄せたけれど、やっぱり振り払おうとはしなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も引き続きよろしくお願いいたします
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※次回第56話『商会長たる所以』の更新は2月15日12時です