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後世で何故か『4賢人』の1人と称えられるチンピラ冒険者 - 70.コーバスの被害
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70.コーバスの被害

「え?あれ?コーバスっすよね?あの街」

「ちょっと、どういう事?」

「な、何があったんだぜ」

「わ、分からない。とにかく急ごう」


 半壊しているコーバスの街。それを見つけたアーリット達の行動は早かった。俺とバードラーを置いてさっさと走っていっちまいやがった。


「べ、ベイルさんは行かなくていいんですか?」

「ああ?別にここから走った所でたいして変わんねえだろ。それに多分アレは馬鹿共が暴れただけだと思うぜ」


 半壊したコーバスの街を見ても、この間みたいにモレリアが暴れたとかだろうと、俺は気楽に考えていた。




 その考えが間違っていたと知ったのは門番を見てからだった。



「げ、ゲレロ。お、お前・・・」

「お!ようやく戻ってきやがったな!お前戻ってくるの遅えんだよ。どーこ遊び歩いてたんだ」


 何故か門番をしているゲレロの姿に驚く俺とは、逆にいつも通り普通に話しかけてくるゲレロ。愛用の槍を右手で握っているが、その反対の左手にはいつもの盾は装備されていなかった。・・・・そもそも装備できる訳がない。






だって左腕が無えんだもん。


 

「ああ。これか?ちょっとヘマこいてな。情けねえぜ。盾もかなり金掛けたんだけど溶かされちまった。嫌になるぜ。けど、俺はまだこうやって仕事出来るだけマシな方だ」

「溶かされた?」


 こいつの盾はかなり金かけていたのは知っているし、その固さも十分知っている。なのに『溶かされた』?


「多分アシッドスライムって奴だ。家ぐらいあるデカい奴だった。あいつに触れると何もかも溶かされた。しかもその体液を飛ばしてくるから盾で防いだら腕ごと溶かされちまったぜ」


 ああ、あいつか。俺も故郷で一度だけ戦った事がある。そん時は丘ぐらいデカい奴だった。そいつは普通のスライムと逆で水が弱点って分かってたんだけど、近くに街があるから水魔法は使うなって言われて、風魔法で無理やり近くの湖に放り込んで倒したんだった。


 まあ、その結果、その湖は生物が住めなくなったんで、俺は色んな人からメッチャ怒られたんだけどな。


「最近移籍してきた奴らや調子に乗った新人が結構やられちまった。ベテラン組は生きちゃあいるが、みんな何かしら酷い傷を受けている。多分、みんな引退だな。ガハハハッ」


 チッ!無理やり笑ってんのがバレバレだぜ。


「トレオンは組合にいるはずだ。そんで・・・・モレリアは・・・生き残った中で一番酷い事になっている。お前も顔だけでも見せて少し気を紛らわせてくれ」



・・・



「違います。ここはこう書くんです」

「そうか。依頼キャンセルって結構面倒なんだな。悪いなリリー。俺かなり仕事増やしていたんだな」

「分かってくれて何よりです。今後はふざけた理由で依頼キャンセルはしないで下さいね」

「・・・この脚じゃもう出来ねえから」


 屋根が無くなった組合に着くとリリーがトレオンに何かを教えていた。トレオンの奴、見たら職員の制服来てやがる。全然似合ってねえ。


「よお、転職か?トレオン、制服全然似合ってねえぞ」

「ああ?・・・ってベイルか。お前戻ってくるのが遅えんだよ。少しは働け」

「トレオンさん、職員が組合員にそんな話し方はいけません」

「ベイルだから別にいいだろ?」

「駄目です」


 静かにだけどきっぱりと言うリリーに、口を閉ざすトレオン。そのトレオンの膝から先は両方とも無かった。


「用件は何ですか?」


 丁寧な口調のトレオンとか・・・その話し方は何故かムカつくぜ。


「・・・・何があった?トレオン、別に今まで通りの口調でいいから話せ」

「なら、構わねえか。・・・・アシッドスライムって珍しい魔物にやられただけだ。モレリア達の水魔法のおかげで討伐は済んでいる。別に珍しい事じゃねえだろ?」


 だな。別に魔物にやられるのは珍しい事じゃねえ。コーバスでも組合員がヘマして死んでも、みんな馬鹿だなあぐらいにしか思わねえ。それぐらいの関係だ。


 だから俺も今回もそういうもんだと思っている。・・・思っているが何か気に食わねえ。




「ベイルか。戻って来たならお前の馬鹿力で街の復興手伝ってくれ」


 気付いたらいつの間にか組合長が立っていた。目には相変わらず眼帯付けて一つ目オーガと言っていいが、右の手首から先がきれいに失くなっていた。


・・・・組合長もやられてんのかよ。


 なんとも言えねえ雰囲気の中、その空気をぶち壊したのは泣きながら飛び込んできたカルガーだった。


「べ、ベイルさん!ジロウ達が・・・・・」


 チッ!ジロウ達もかよ! 


 カルガーの顔を見て一瞬で状況を把握した俺は、カルガーとバードラーと共に北村に向かう。そうしてゴドリックの家の庭には、体中に包帯を巻いて重症のジロウ達が、横たわっていた。


「べ、ベイルさん!ジロウ達を助けて下さい。良く分からないスライムから街のみんなを守ってこんな酷い事に・・・お金ならいくらでも払います!」


 俺に気付いて駆け寄ってきたゴドリックから話を聞くと、ジロウ達も組合員と共にアシッドスライムに立ち向かってこんな酷いケガを負ったみたいだ。3匹とも体を包帯で巻かれケガの具合が分からないが、脚が二本無いサブロウが一番重症だ。


「悪い、俺の手持ちのポーションじゃ気休めにしかならねえ」


 そう言ってゴドリックに、常備している2つのポーションを渡す。こんな事なら地竜の時に配られた上級ポーション売らずに残しておけばよかった。


「いえ、頂けるだけありがたいです。今はポーションはどこにも売ってませんし、あっても人の治療に回されますから」


 魔物よりも人優先ってのは分かる。分かるけど・・・あんまりいい気分にはならねえな。


「ギャ、ギャギャギャ!」


 何とも言えない状況に下を向いているとゴブ一の叫びが聞こえた。顔を上げると、両腕の無いゴブ一が・・・何がしたいかよく分からねえけど、脚で棒を掴もうと苦戦していた。


「ゴブ一もジロウ達と一緒に戦ってくれたんです・・・」


・・・ゴブ一もかよ。


・・・・はあー。辛気くせえなあ。

 

 いつもなら誰かの馬鹿笑いが聞こえる組合が今日は静かだ。バードラーをゴドリックに預けて一人ちびちび酒を飲んでいると、組合の扉が大きな音を立てて開かれた。


「ベイルが戻ったと聞きましたが?」


 やってきたのはシリトラだった。ただ、子供にしか見えないその顔には包帯が巻かれて痛々しい感じだ。


「よお、ちびっ子。久しぶりだな?」

「ベイル、ポーションを持っていませんか?あったら全て下さい!言い値で買い取ります!だから、どうか!どうか・・・」

「・・・・悪いな。持ってねえんだ」


 さっきジロウ達に全部あげちまった。俺の返事に固まり動かなくなるシリトラ。


「・・・・で・・・何で?持ってないんですか?売ったんですか?そうですよね!誰に売ったんですか?教えて下さい!私が買い取ってきます!」

「シリトラ、落ち着け!誰にも売ってねえ、使って無くなっただけだ。ポーション欲しいならアーリット達が持っている。あいつらも戻ってきているからあいつらから買え」

「アーリット達からはもう買い取りましたよ!それでも全然足りないんです。それに彼らは近隣の街にポーション探しに行って、もう街にはいません」


 もう買い取ってんのかよ。それでも足りねえって事はポーション程度じゃどうにもならねえケガって事だろ。ゲレロも言ってたけど、モレリアのケガはそんなに酷いのか。


「モレリアは今、どんな状態なんだ?」

「・・・モレリアは・・・・私を庇って・・・もう・・・うう・・・うう」


 モレリアの状態を聞きたかったんだけど、シリトラの奴泣き出しちまいやがった。こいつが泣くとか初めて見た。ちょっと俺が思っている以上にモレリアの状態は悪そうだな。


「・・・ベイル、モレリアに顔を見せてあげて下さい。『どこを遊び歩いてるんだろうねえ』と言って少し気にしてましたし、それでモレリアの気が休まるなら・・・」

「まあ、それぐらいなら喜んでやってやるよ。今、モレリアはどこにいるんだ?」

「私達のハウスです」


 聞けばどこも負傷者で一杯で、落ち着ける場所が、そこしかないそうだ。今はパーティーメンバー全員で交代しながらモレリアの看病をしているらしい。




「戻りました・・・モレリアは?」


 こいつらが借りているハウスに足を踏み入れると、早速メンバーが出迎えてくれた。そのメンバーにシリトラが尋ねると、そいつは首を横に振る。


「今はミーカが見てます」

「そう、ありがとう。・・・ベイル。こっちです」


 シリトラの後を黙ってついていく。全体的にハウスの雰囲気が暗い。とても軽口叩ける雰囲気じゃねえ。そうしてシリトラの後をついていくと、ある扉の前で立ち止まりノックをする。


「リーダーどうかしましたか?」


 部屋の中から顔を出したのはミーカだった。下はちゃんと履いているが上に服は着ていなかった。別に裸って訳じゃねえ。体中包帯でぐるぐる巻きにされてたってだけだ。・・・弓使いなのにミーカもやられてんのか。そう言えば体液飛ばしてくるとか言ってたけど、飛距離も結構あったのか?


・・・俺が倒した時は速攻で風魔法で囲ったから、アシッドスライムの攻撃方法よく知らねえんだ。


「モレリアは?」

「起きてますよ。・・・・ああ、ベイルさんですか」


 ミーカはシリトラの後ろに立つ俺を見て察してくれたみたいだ。扉を開けて俺を招き入れてくれた。





 ・・・・・・・思っていた以上だな。


 ベッドに寝ているモレリアを見た感想がこれだった。


「ベイルかい?全くどこ遊び回っているのさ」


 唯一包帯が巻かれていない左目で俺を捕えたモレリアは、いつもと何も変わらなかった。いつもの調子で何でもないかのように話しかけてきた。・・・それなら俺もいつも通り変わらずだ。


「うるせえ。俺がどこで何しようが勝手だろ」


 俺がいつもの調子で答えたら、モレリアは少し驚いたのか目を大きくした。


「君はいつも通りの態度で嬉しいよ。ゲレロもトレオンも僕の姿見たら、顔を曇らせて言葉を選んでたからね。別に遠慮なんてしなくてもいいのにさ」

「まあ、そんだけやられたなら仕方ねえよ・・・それにしても派手にやられたな」

「いやあ、ヘマこいたよ。けど、両手両足無くなっても命があるだけまだマシだよ。何も残らず溶けて消えた人もいたからね」

「ったく、今や国中から恐れられているコーバスの組合員だってのに情けねえ」

「どういう意味だい?」


 あれ?こいつコーバスが余所の街で恐れられているの知らねえのか?


「・・・って訳で、コーバスの組合員は恐怖の対象なんだよ。お前の偽物もいるみたいだぞ」

「フフフ。なんか面白い事になっているねえ。・・・・けど、街がこんな感じだし、それもすぐに収まりそうだね」


「だな。・・・そんでモレリア、お前はこれからどうするつもりだ?」


 ゲレロやトレオンはもう次に向けて動き出している。この状態のモレリアに聞くのは残酷と言われるかもしれねえが、こいつはそんなタマじゃねえ。


「ある程度街が落ち着いたら、僕は娼婦になるよ」


 まあ、それしか道は無えよな。


「駄目です!モレリア!私があなたの面倒を見ます。絶対に見捨てません!」

「そうです。私達でモレリア先輩の面倒を見ます!」

「そう言ってもシリトラもミーカもそのケガじゃ組合員続けられないでしょ。ケガで普通の仕事も厳しいのに僕の面倒見るのは無理だよ」

「で、でも・・・・」

「そ、・・・そんな身体じゃ・・・」


 シリトラとミーカは今にも泣き出しそうだ。それとは逆にモレリアはいつも通りだ。


「大丈夫、大丈夫。そこのベイルみたいに僕の胸を揉みたがっていた連中はたくさんいたんだ。幸い一個は残ったから、そう言う連中が客として指名してくれるでしょ。ねえ、ベイル」

「・・・だな。お前のデカい乳を揉んでみてえって奴はコーバスには多かったからな」

「ほら、ほら」


 俺の言葉にモレリアが乗ってくる。こいつ全然悲壮感ださねえな。


「まあ、それで少しはどうにか生きていけるでしょ。それで時間稼いで、飽きられる前にまた、良い手を考えるさ」

「そう言う事ならのんびりしていても大丈夫だ」

「どういう意味だい?」

「俺がお前を指名してやるって言ってんだよ。てめえの乳は前から揉んでみたかったんだ。それが金払えば蹴られる心配なく堂々と揉めるんだ。お前が食うのに困らねえぐらいは頻繁に通って指名してやるよ」


 俺の軽口に驚いたのか、モレリアは目を丸くさせた後、大きな声で笑い出した。


「フフフ。アッハッハッハ。ベイルは、相変わらずだねえ。全く嬉しくないけど、食べるのに困らないようにしてくれるのは助かるよ。これなら先の事はあんまり急いで考えなくても大丈夫そうだ」


 何がそんなに面白いのかモレリアは涙を流して笑いだした。こいつがこんなに顔に出して笑うなんて初めて見た。


「そんじゃあ。俺はもう帰るぜ。娼婦になったら教えてくれ。指名しに行ってやるよ」

「ああ!僕のお客第1号だからね。ちゃんと連絡するよ」


 軽口を叩くモレリアに背を向けて扉に向かうと、モレリアが声をかけてきた。


「ベイル、君はそのまま変わらないでいてくれよ」

「あったり前だ!俺は自由気ままに好き勝手生きてくって決めてんだよ」


 故郷から逃げ出してコーバスで組合員になった時に決めた事を、振り返ってモレリアに伝える。





「・・・・・いいなあ」


 扉を閉める直前にモレリアの声が聞こえてきたが、俺は何も聞かなかった事にして部屋を後にした。



・・・はぁ。暗いなあ。


 組合に戻った俺は一人エールを飲んでいるが、誰も俺に絡みに来る奴はいない。いつもなら自慢話や馬鹿話、時々喧嘩で騒がしい組合に今日は普段の喧騒は全くない。周りに飲んでいる奴も少ないながらもいるが、その表情は暗く、会話もボソボソと同じテーブルにいる奴にしか聞こえないぐらいの大きさで話している。


 たまに組合に入ってくる奴もいるが、受付で依頼処理が終わると、すぐに帰ってしまう。

 

 今日は酒が美味くねえ。・・・帰るか。


 こういう時は帰って寝るのが一番だ。そう決めた俺は馴染みの宿に足を運ぶ。


 おいおい、ここも半壊してんじゃねえか。


 俺がしょっちゅう泊っている宿は、屋根が無く、壁も一部崩れていた。それでも他の建物に比べたら被害は少ない方だ。一応建物内の瓦礫は全て外に出されているようなので、泊まれないって事は無いだろう。


「よお、オヤジ。一泊頼む。いつもの部屋は空いてるな」


 受付に座ってボケーっとしているオヤジに声をかけると、慌てて立ちあがった。


「べ、ベイルさん。無事でしたか・・・。見て分かるようにウチは今、こんな有様で・・・」

「別に泊まれねえ訳じゃねえだろ?壁が残っているだけ、野宿よりマシだ。あ!宿代はこんだけしか無いけど、大丈夫か?」


 有り金全部を受付に出すと、3000ジェリーぐらいだった。ここは通常一泊5000ジェリーだけど、こんな状態だからこれで泊めて貰える事になった。本当はオヤジは金はいらないって言ったんだけど、無理やり渡しておいた。


 ここまで崩れた宿に泊まっている奴なんて俺しかいねえから、いつも空いていれば選ぶ部屋に入る。部屋の壁はしっかり残っているが、天井は無く、空が丸見えだ。そんな部屋に置かれたベッドに寝っ転がって空を見ながら考える。


 ・・・・金が無くなった。ならず者たちから巻き上げた金だから、別に無くなってもいいんだけど、明日から働かねえといけないのが面倒だ。大怪我しても元気に働いている奴には悪いが、俺は働く気分にはならねえ。


 そうすると、手持ちを売り捌くってのが手っ取り早い。


・・・俺には必要ねえし、アレ売るかあ。今なら需要はあるから買ってくれるだろう。別にあいつらの為じゃねえ、俺の金の為だ。


 ヨイショっとベッドから立ち上がり、部屋の隅の床板を外していく。オヤジには悪いが少しここに細工して簡単に外れるようにしてたんだ。そうして見えてくるのは固められた土の地面。この部屋しょっちゅう俺が泊っているって言っても、俺が依頼で街にいない時は誰か知らない奴も泊ってるんだ。床板外すだけで見つかる場所には隠してない。


 床板が外れて見えている地面を足で軽く踏みつけると、床板を外された部分の地面だけが大きく波打つ。


・・・・・結構深くに埋めたからなあ。壊れてたりしねえよな・・・ああ、良かった、無事だったか。


 俺の心配は不要だったみたいで、しばらく待つと、波打つ地面の中から鉄の箱が姿を見せたので、一安心。そうして出てきた鉄の箱を開けると、中には真っ黒な液体が入った容器が入れられていた。


 よしよし、割れてねえな。しっかし相変わらず気持ち悪い色してんな。・・・結構長い事放置してたけど腐ってたりしねえよな?・・・本人が腐るもんじゃねえって言ってたから大丈夫か。


 容器を傾けて見たり、蓋を開けて匂いを嗅いでみるが、別に腐っている様子は無い。


 そんで、どうやって売りに行くかなんだけど・・・改良型マスクは匂いの検証終わってねえから、仮面の方使うか。それで誰にするか何だけど・・・いきなり知らない奴が売りに来ても信じて貰えねえ可能性があるから・・・・。






 ここは信頼と実績のある『ドルーフおじさん』で行くか。

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