45話
ゴールデンウィークまで、もう間もなくだ。
僕は、長期連休を使って階層を進めるつもりでいる。
エミリアたちとパーティーを組んでからも、連日ダンジョンに通い詰めてるから。お金にも余裕が出来てきたし、周りの視線にも慣れてきた。
ソフィアの全身甲冑はどうしてるのかと思ったら。ギルドに預ける事が出来るサービスがあって、それを利用しているとの事だった。
有料な上に、パーティー単位でしか使えない倉庫サービスだ。
他にも、パーティーで得たお金の分配とか、倉庫代の引き落としとか、設定しておけばみんな自動的にやってくれる。
この辺りに、パーティーに所属する価値がある。
ソロで活動する時は、だいたいここを通るようにしている。
以前、『青いウサギ』を見かけた所だ。
あの後調べてみたけど、あのウサギの情報はどこにも載っていなかった。
レアモンスター確定だ・・・、せっかくだから、僕が一番に倒したい。
だから、まだ誰にも言ってない。
すでに1度、僕は遭遇する事に成功していた。
だけど、その時も逃げられた。
後一歩だったんだ!
左利きの僕は、左のナイフを逆袈裟に切り上げて、ウサギに回避された所を空の右手で掴みに行って、触る所までは行けたのに!ウサギを捕まえられなかった・・・。
巣穴の近くで、ジッと息を潜めて待てば、運さえ良ければ遭遇出来ると、今の僕は考えている。
普通のウサギを見かけた時も、静かに休憩してる最中だった。
だから、おそらく間違ってはいないだろう。
「ふぅ・・・、ゴールデンウィークまでに、お前を倒して。僕は先に行く・・・。」
最近パーティーを組むようになって、独り言が減ったのに、それでも1人になるとついつい出てしまう。
ウサギに聞かれたら、出て来てくれないかもしれないのに。不用意な事なんだけど、なかなか止められない。
視線も定めずに半ばぼーっとして待つ、そろそろ休憩を終わりにしようかと、僕が考え出した時、視界の端にひょっこりと現れた、奴だ!
僕は、1度脱力するように力を抜き、素人なりに一生懸命気配を消す。
奴は、巣穴から顔を覗かせ、辺りを注意深く見回している。
今動けば、巣穴に逆戻りしてしまうだろう。
それにしても、僕が視界に収めていた、どこの巣穴でもない所から出て来るなんて。敵もやるものだな。
奴に意識を向けないように、出来るだけ思考と視線を外しながら、僕は武器の準備を始める。
『青いウサギ』は巣穴から出て、巣穴の直ぐ近くを探りながら移動して行く。
焦りそうになる思考を深呼吸で和らげ、ナイフの握りを確かめる。
巣穴はあちこちに存在する、だから、しっかり離れたと思っても、違う巣穴に入られるのがオチだ。
だから、出て来た巣穴と、ウサギの距離だけを考慮して、タイミングを計る。
カウントダウンはしない。リズムを取れば、どうしても力が入る。
『青いウサギ』が、何かに夢中になるしゅん・・かん・・・。
ここだ!
僕は『青いウサギ』に向かって、全力で駆けた。
その瞬間、時間は引き延ばされ、思考は研ぎ澄まされて、眼が奴の一挙手一投足を追いかける。
殺れる!
僕はこの瞬間に確信した。
ダンジョンに来るようになってから、時々起きる現象。マンガなんかにも出ていて、いつか、自分もこんな超人みたいな事を、やってみたいと思っていた。
いわゆる、『ゾーン』ってやつだ。
走馬灯と同じ原理じゃないかと、思うけどね。
僕に気づいて逃げ始めたウサギを、この間と同じように逆袈裟に切り上げる。だけど、ちょっとだけ、この間よりも脇を締めてショートに。思い切り振り回すんじゃなくて、必要な分だけ、素早く。
僕は、ウサギの後ろ脚を斬り飛ばす事に成功した!
直ぐさま右手で、奴を捕まえる。
「・・・やった!・・・やった!!よし!よし!」
「キュ・・・、キュ・・・。」
そんな円らな瞳で、こっちを見るなよ・・・、ミラみたいでトドメを刺し難いだろう・・・。
ああ、捕まえたけど・・・。なんて、やり難いんだ!
ゴブリンみたいに醜悪なら、少しも良心が痛まないのに!!
でも、僕が斬りつけた脚が無くなっている。
どうせ、このままじゃあこのウサギは助からない。
「ごめんな。僕の事、怨んでくれていいからな・・・。次に出て来る時は、人間に見つからないようにしろよ。」
ダンジョンのモンスターの、出現条件なんて僕は知らない。
モンスターが何なのかさえ、サッパリ分かっていない。
だから、自己満足だと分かっている。だけど、僕は何か声をかけずにはいられなかった。
せめて苦しまないように、その首に深くナイフを突き刺した。
『青いウサギ』がドロップした、ライチらしき果物を僕は静かに食べた。
「・・・美味かったよ。」