第15節 影の国へ
王城へ戻った焔は、訓練を自主的にやるも、更なる強さを求めるようになる。
―日記。実を言うと、アルスターに来て早二ヵ月が経っていた。そのせいで、外が凄く寒く感じた。一気に秋がやって来た。戦は引き続き行われるようだけど、今の所は宣戦布告や軍規模の侵攻は無い。
ノーディンとメイヴが裏で取引をしていたとコンボヴァル王に伝えた所、王はやはりと何となくわかっている様な気がした。推測もしていたのは分かるけど、違和感がどことなく淀む…。
冬でも鍛錬は欠かせない。訓練所で基礎運動に剣技と魔術とルノーやオリヴィエから教わった事を実践していく。そんなある日だった…―
焔は、脇差で素振りを繰り返していた。現時点で、十回を五回繰り返している。
「頑張っている様だ。」
聞き覚えの無い声がして振り返ると、そこにはクーによく似て光に淡く包まれていた。あまりのそっくりさに焔はクーなのか、しかし、口調や声色が全く違っており、本人か否かを頭の中で彷徨っていた。
「驚かせてすまない。はっきり言えば、セタンタじゃない事は言っておくぞ。」
「ま、まさか!太陽神ルー様?!……クーの、お父さんですか?」
焔は太陽神の名で叫んだが、クーの父親なのかは小さく問う。
「其方の言う通り。私はルー、太陽を司る者だ。ここしばらく、戦は続いていないと見た。故に、汝と巫女、赤き竜を導こうと思ってな。」
“巫女?赤き竜?ジュヌヴィエとアーサーの事?”
焔はそう思いながら、自己紹介をしてルーの話を聞く事にした。彼は、太陽神ルーであり、クー・フーリンの本当の父親である。彼女の前に現れたのには、理由があった。
「焔。君と、巫女は、アルスターや世界の為に強くなりたいけど、今では足りないと思っているだろう。」
「え?」
“図星…。でも、ジュヌヴィエも、そう思っているのかな…”
焔は、後にジュヌヴィエに尋ねる事にした。
ルー曰はく、もし、巫女も焔と同じ気持ちなら、その翌日に北西の海岸へ来て欲しいとの事、また案内する炎の鳥を遣わすと約束した。
そう話したルーが消えて、焔は訓練所を後にして自分の部屋に戻るとジュヌヴィエがアーサーを寝かしつけていた。
「あ、おかえり、焔。」
「た、ただいま。あのさ。ジュヌヴィエ、突然で悪いんだけど、皆の為に強くなりたいって思う時はある?」
「…思うよ。焔と同じ。神託も、汝、勇者の娘と共に影の大地へ赴き、己を鍛えよって。」
「なら、一緒に影の国に修行をしに行かない?実は、太陽神ルー様が、私たちを影の国へ行く事を知っているんだ。もし、明日、大丈夫なら。」
「……構わないよ。それで、少しでも強くなれるなら。」
ジュヌヴィエは影の国へ赴く事を決意した。焔は、約束通り、明日の朝に急いで北西の海岸へと向かう事になった。急にいなくなって問題を起こしたくないので、焔は手紙を執筆した。
『太陽神の導きにより、私たちは影の国へと向かいます。心配は無用です。修行をして帰ってきます』
数時間後。久しぶりのディナーもあり、焔は様々な料理をこまめに食べる。
「ん~‼美味しい!」
そう言う彼女の隣にいるアーサーは、果物の他に料理を食べる。アッシュは食間にアーサーに話しかける。
「お前、他の料理も食べれるのか?その姿じゃ、食べにくくないのか?」
「キュ‼キュ、キュ、キュウ!キュ、キュキュ、キュウ!」
「え?人の姿には出来ないけど、平気…って、マジか…。てっきり、喧嘩を売る理由がそれなのかと思った。」
「キュウゥッ‼キュ‼(特別意訳:そうじゃない‼他だ‼)」
アーサーはそう言って怒る。アッシュは、喧嘩すると怒られる事が目に見えているのでアーサーに慌てて言う。
「分かったからぁ…。って、暴れるな。零すぞ…。」
と注意した。一方、アストルは隣で何かを考えこんでいるルノーに話しかける。
「ねぇ、ルノー。どうしたの?」
「…考え事をしていた。」
「もしかして、ノーディンの裏でコノートが関わっていた事?」
「あぁ。どうも、嫌な予感だ。俺の気のせいであればいいが…。」
ルノーはそう言って目を細めた。アストルは、気分を変えようと決めて彼に言う。
「そんな事より、食べようよ!ほら、早くしないと無くなるぞぉ~!」
「分かったから、そ、そんなに大盛にするな!」
ルノーは、アストルの盛り付けに苦労するのだった。ロランとオリヴィエは、楽しく食事をしながら小声で話をしていた。
「あの黒水晶、何か分かりましたか?オリヴィエ。」
「残念だけど、全くだよ。黒水晶と言っても、見た事の無い材質だった。焔の証言によると、女やイグラド村を襲撃した男が持っていた様なんだ。何か共通点があればいいけどね。」
「手がかりが少ないと言う事ですね。様々な情報を集めなければいけませんね。」
一方、コノート城、王の間。
「何ですって!ノーディンがやられた?あの女も…。」
少女、否、女王メイヴは伝令を聞いて怒りを露わにした。
「申し訳ございません。しかし、あの娘は、まだ精神に負荷はある可能性も…。」
「くッ……。そうね。と言っても、今日の寒さじゃ、兵士が冷え切って死ぬわ。当分、晴れる日か少し暖かい日を待って、その間に訓練は怠らぬ様に‼」
メイヴの言葉に、伝令兵はキリッと返事をして王の間を後にした。メイヴの隣に座る青年アリルは彼女に話しかける。
「すまない。君には、負けっぱなしだな。」
「フン。当然ですもの。私一人で軍の指揮をしているけど、その下で働く男たちと王としての貴方のおかげでもある。好機は見逃さないわ。必ず、私の国が勝利を挙げて、アルスターも支配するわ。」
メイヴはそう言って高笑いをした。アリルは、メイヴの夫であり、コノートの国王でもある。しかし、カリスマ性や軍の統率はメイヴの方が上だった。無駄のない美貌を兼ね備え、戦士たちを魅了している。
また、彼女がアルスターと戦う理由を知っている。一つ目は、クー・フーリンを我が物に。二つ目は、自分たちにとって脅威である者を殺してアルスターを支配する為。
翌日、早朝。焔は手紙を机に置いて、ジュヌヴィエとアーサーを連れて外に出る。彼女はタサドルを率いてジュヌヴィエを後ろに、アーサーを肩に乗せて出発させた。兵士によって門をくぐり、焔は空に炎を纏う鳥を見つけ、後を追っていく。
“綺麗な鳥…不死鳥みたいだ”
「タサドル、あの鳥を追いかけて!」
「御意。」
そして、焔たちは北西の海岸へ到着する。そこには、炎の鳥を肩に乗せたルーの姿があり、隣には二頭の馬が付いた戦車があった。ルーは、彼らに戦車へ乗る様に促して言う。
「君たちの馬は私が預かるよ。…私の馬たちは影の国の生き方を知っているから、手綱で前進か停止を指示すれば問題無い。安心して行きなさい。」
「あ、ありがとうございます。」
「感謝申し上げます。」
「キュウ!」
彼らは礼を言った。焔は、手綱を握って二頭の馬に全身の指示を出すと、その指示に従って戦車が走り出した。戦車は海に出るも、沈む事無く海面を進む。ジュヌヴィエは海岸へ目をやると、静に見送るルーとタサドルの姿が徐々に霧に包まれていた。
“霧…。アレ?さっきは、霧なんてなかったよね…”と焔、
“思い出せ、焔。影の国は、常に雲に隠されている島だ”とエフ、
“じゃぁ、影の国に到着しつつあるってことか?”とユウは思う。
すると、正面に石ころが転がった道が見え、戦車は跳ね上がる。
「うわぁっ‼」
「きゃぁっ!」
「キュウ?!」
彼らは驚いた。ジュヌヴィエとアーサーは焔にしがみつく。何とか、馬は止まった。焔は、ジュヌヴィエをエスコートして降りると―
「……っ!」
焔は、言葉に出来ない。島だ。海岸と岩肌だけではなく、森が生え、その奥には黒の城が見えた。空は雲に包まれて、灰色であった。ジュヌヴィエとアーサーも、その景色に言葉が出てこない。
“ここが、影の国、なのか?”
焔がそう思った時―
「よくぞ、参られた。我が影の国へ。」
と威厳のある女性の声がした。彼らが声がする方角を見ると、槍を二本携えた美しい女性の姿があった。艶のある藍色の髪、宝石のように輝く紅の瞳、容姿端麗とも言うべき女性だ。
“あの人、もしかして、ま、まさか!”
「あ、貴女は‼ス、スカアハさんですか?」
「如何にも。汝の申す通り、影の国の支配者にして、戦士の育てるスカアハだ。」
「戦士を育てる?」
ジュヌヴィエは首を傾げる。焔は、スカアハの知る伝説を少しだけ話した。
スカアハは『影の者』という意味を持ち、アルスター伝説では勇敢な女性の武芸者であり、予言を言い当てることもできる千里眼所有者である。影の国は時間外の時空であり、時間に縛られず、肉体的成長は無い。
「良く知っているな。褒めて遣わそう。…さぁ、お前たちを歓迎しよう。特別に、我が城へ入る事を許可する。」
スカアハはそう言い、彼らを案内した。影の城は、灰色の壁に黒の屋根と名に相応しい外見をしている。玄関直ぐの広い居間に到着して、スカアハは彼らに説明を始める。
「さて、太陽のルーから事情は聞いている。しかし、修行を見事にこなさない限り…悪いが、この影の国から出る事は許可できぬ。儂も全力で、お前たちを支える。良いな?」
『はい‼』
「キュ!」
彼らは一斉に返事をして、スカアハの言葉を受け入れた。
“ここからだ。頑張って、行こう…”
焔は己を鼓舞するように、心でそう呟いた。
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焔:まさか、太陽神ルーに、スカアハ師匠に会えるなんて驚いた…。
ルー:呼んだかい?
焔:うわぁっ‼ルー様‼
ルー:私は、君の思いに答えただけさ。ちなみに、私は他の国に存在する太陽神とは親戚の関係だ(『イリュド豆知識!』)。会った際には、よろしく頼むよ。
焔:わ、分かり、ました…。じ、次回。『第16節 影の国Ⅱ ―修行・守―』。頑張って、皆を支えたい‼