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クラージュ・イストワール - 第8節 夜叉の青年・アールシュ
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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅱ章 大秦王帝国 インぺリウム・ローマ 編 ―長命菊の名君―
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第8節 夜叉の青年・アールシュ

 あの出来事から、焔は皇帝ネロに鬼の青年の監視役を担う様に命じられた。

 その日の夕方。クーは焔に頼まれて、青年を風呂場へと向かわせていた。焔は風呂を済ませて、タオルを持って浴室前でクーに言う。


「兄貴!タオル、置いておくよ。」


「おう、サンキュー!」


 焔はその間に部屋に置かれたお茶を用意して、アーサーと共に彼らを待つ。アーサーは、彼女の膝の上でゆっくりと束の間の休みをと仮眠している。彼女は、アーサーの頭をそっと撫でる。


 “色々と大変だな…。ん?待てよ。ボッパエアさんは、高官の家の娘だけど…ネロの母・アグリッピナは彼女を良しとしなかった。

 でも、偽皇帝の正体は女性だけど、まだ確信まではいかない。アグリッピナだったら、心当たりはあるけど…”


 そう考えていると、風呂場からクーが帰って来た。焔は、彼に青年の分のお茶を用意したと言う。彼は、礼を言って、青年に来るように言う。青年は、クーの指示に従ってゆっくりと姿を現す。


「うん。綺麗になったね。」


「あぁ。土汚れとか、返り血で酷かったからな。一応、洗い方を教えてやったさ。」


「ありがとう、兄貴。さぁ、座ってお茶でも飲みながら話をしましょう。」


 焔は青年にそう言って、座る場所へと案内した。青年はゆっくりと座って、彼女とクーのお茶を飲んでいる姿を見て、目の前に置かれたコップを手に口へ運ぶ。しかし、勢いよく飲んだため、コップの端からお茶が零れてしまった。


「おっつつ!」


 焔は急いでタオルを手にして、青年の濡れた洋服や口元を拭く。彼は言語が乏しいだけでなく、生活にも影響を及ぼしている事がはっきりと分かる。彼女は、青年に丁寧に質問をする。


「私は式守焔。焔で良いよ。貴方の名前は?ゆっくりでいい。」


「……アー、ル、シュ。や、く、しゃ…。」


「アールシュって言うのか…。珍しい響きだ。それより、ヤクシャって何だ?」


 クーは、聞いた事の無い言葉に首を傾げる。


「多分、東方の鬼の一族の事だと思う?悪鬼とは違って、夜叉(ヤクシャ)は善なる鬼を示すんだ。となると、コーサラ王国方面にいる一族だね。」


 焔は確信して言う。また、夜叉は悪鬼と違って善なる心を持ち、太陽の下にいる事を許されている一族だ。

 それに対して、悪鬼羅刹は夜に活動する事が多い。弱い悪鬼羅刹なら日の下では灰になるが、ヴリドラやラーヴァナは強力な力を持つ悪鬼羅刹は、日の光の効果はなく、神器が必要となる。


「へぇ~、よく知っているなぁ。」


「それ程じゃ無いよ。この世界に住む以上、最低限の理解は必要だから。」


 クーの言葉に、(ユウ)は謙遜して返答する。クーは彼女の返事に、なるほどなぁ、と返えす。アールシュは、言葉を出さずに焔を見る。記憶の底で、懐かしいものが浮かんでくるような無い様な…。

 すると、外から烏が飛んできて、クーの肩に止まった。


「おや、会談中だったか。」


「モリガン様!」


「何かあったのか?焔、モリガンと話をするから、アールシュのことは任せるぜ。」


 クーは、適当な距離を置いてモリガンと話をする。焔はアールシュを見ると、彼の言っていた言葉を理解した。どうやら、アールシュは烏であるモリガンに警戒している様だった。


「アールシュ。大丈夫、敵じゃないよ。」


「てき、じゃ、ない?」


 アールシュは、ちょっとずつ言葉を発して行く。


「うん。クーの相棒だ。」


「あい、ぼう?」


「えっと、仲間だ。……ん~、友達、ちょっと違う様な…。」


 焔はどう説明して良いか、考えに悩む。アールシュは、そんな彼女の行動をじーっと見る。クーはモリガンが空に旅立つのを見送って、彼らの元へと戻る。


「驚かせて悪かったな、アールシュ。」


「兄貴。一応、説明した。何となくの様だけど、理解したようだよ。」


「ありがとさん。でも、アールシュは、ちょいと言葉の理解に時間がかかるようだな。人前に出るまでに、俺たちで何とかするしかないぜ。」


 クーの言葉に、焔は頷く。確かに、今の彼では人前に出るのは正直厳しいだろう。しかし、焔はネロから直々の監視、オブラートに言えば保護者的な役目を与えられている。

 アールシュの言語能力については、おそらくは長い間、鬼の本質を曝け出す事が多かったのだろう。


()、と言う人間の()()()偏見によって、人肉を食らわせたのかもしれないわ。夜叉は、絶対にそんな事はしない。」


 (レイ)は強く断言した。夜叉は、人々に恵みを与える善なる鬼神だ。


「何かしらの強制、脅しがあったのだろうな。アールシュの心を、折らせるようなものが…。」


 クーは、そこまで言って口を噤んだ。これ以上は考えたくない。それは、焔も同じだった。彼女は—


 “酷い…。確か、グリンの一族も人の手で…。何で、人間ってこう言う生き物なんだろ…”


 と思う。焔は決意を固めて、クーに言う。


「皇帝さんの命令でもあるけれど、アールシュを絶対に助けたい。出来る事は、少ないと思うけど。兄貴は、その手伝いをして欲しい。い、良いかな?」


「当たり前だろ。お前はフロリマールたちと一緒に、アルスターやコノート、俺を助けてやったじゃねぇか。俺が、お前を助けない訳無いだろ?」


 クーは焔の頭をそっと撫でた。彼女は、そーゆところだよ、と思いつつも、手伝いをしてくれる感謝の言葉を述べた。アールシュは、二人の様子を見て微かに脳裏に過る。


 “なつか、しい。だれかと、いっしょに、わらった、ような…”


 焔は、アールシュに言う。


「しばらくは、喋れる様になるまで一緒に話をしよう。まだ、外へ出られないけど、私とクーが付いているから、困った時は我慢せずに言って。」


 アールシュは焔の言葉に、コクリと頷いた。まだ、本格的に理解はしているかは不明だが、二人は味方だと言う事は彼も理解できただろう。時間は多くある。

 まずは、アールシュの事を知るべく、焔は質問をする。クーは二人を見守りつつ、外の景色を眺める。


「アールシュ。貴方は、どんな食べ物が好き?」


「たべ、もの…。わから、ない。」


「う~ん。分からなかったら、一緒に探そう。ん~。じゃぁ、貴方の家族、兄弟はいる?」


「……おぼえて、いない。でも、()()()が、いたような、きがする。」


「そっか。ゆっくりでいいから、思い出した時は言ってね。」


 “知能は意外と早くに取り戻せている…”と焔、

 “夜叉の血もあるのか、あるいは、何かの影響があったか、の二択だな”とエル、

 “もしかして、当事者にとって大事な人と無意識に被せた、的な?”とユウ、

 “一理はあるだろう。家族や兄弟について、いたような、と言っているからな”とエルは思う。


 焔は、彼について聞くのはここまでにしようと考える。そこに、丁度扉をノックする音がして、暗殺者(アサシン)夕食(ケーナ)の時間だと伝える。焔は、アールシュと自分の分は部屋に、とお願いする。

 クーはアールシュを大勢の前に連れて行く訳には行かないと、代表として食堂へ向かう事を決意。焔は、彼にオリヴィエから託された薬を飲むように勧める。彼は、彼女の言う通りに薬を飲んだ。

 召使いが食事の準備をしている間に、焔は手洗いを済ませるべく、アールシュを呼ぶ。彼は名を呼ぶ彼女の後ろに付いて行く。

 焔はアールシュに手洗いを指示すると、彼は彼女の見様見真似で手洗いを行い、布で水分を拭き取る。


 “見様見真似って所だけど、その内、自分で行動できる様になるかな。兄弟もいないのに、なんだろ。世話好きの様で、恥ずかしいな。兄か弟が欲しいとはいえ…”


 焔は、アールシュと一緒に昼食後を共にする。銀のスプーンにナイフ、フォークに皿があり、色とりどりの料理が並ぶ。


「うまそぉ~‼いっただっきまーす!」


 焔は曇りなき眼で言って、食べ始める。アールシュは—


「い、た、だき、ます…。」


 と、また彼女の見様見真似で言うも、食べようとしない。(レイ)は、一口を食べ終えてからアールシュに、食べていいよ、と言う。彼は、えっ?と言うかのように首を傾げる。彼女は言う。


「もう、アールシュを怖がらせる人はいません。貴方は、自由の身。今は、部屋にいる事が安全だから、その内、外に行きましょう。さぁ、食べたい物を指で指して。」


 (レイ)の言葉に、アールシュは自分が食べたい物を指で示す。彼女は彼の指した豆のスープを、彼の器に盛りつける。


「落ち着いて食べて。食べ物は逃げないから。はい。」


 彼女(ユウ)はそう言って、彼の前に器を置く。アールシュはフォークでスープを掬おうとした。彼女は、スープはスプーンで食べるものである事を教え、食べ方を見せる。アールシュは、スープをゆっくりと食べ始めた。


「おぉ!その調子だよ!」


「お、おひ、し、い……!」


「うん。美味しいね‼」


 “アールシュ、瞳が青空みたいで綺麗。いいなぁ…。いや、それよりも、髪が長いし、今度、別の髪紐買ってあげないとな”


「アールシュ。ちょっとじっとして。えっと、予備の髪紐っと。」


 アールシュは彼女の言葉に手を止めて首を傾げる。焔は彼の髪を後ろに束ねて、ルミソワで買っていた朱に近い色の髪紐で結んだ。


「はい。これで食べやすくなったでしょ?」


 焔はそう言うと、アールシュはスプーンを口に運ぶ。食べづらさが無くなった為、彼はパクパクと食べ始めた。

読んでくださいまして、ありがとうございます。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


焔:監視役だけど、アルは悪いことはしないよ。


アーサー:キュ!


焔:お前も思うか。だよな!

  と、ここで『イリュド豆知識!』。アールシュという名前は、彼の地元で「太陽の日差し」という意味があるんです!


アーサー:キュウ!


焔:ホント、いい名前だ。次回、『第9節 歓迎の宴 ―状況一変―』。お楽しみと言いたいけど、油断禁物ッ!

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