一直線
『一騎打ち』は『覇究祭』の目玉といっても過言ではない。
リンドナー王立魔法学院生達の純粋な実力を発揮させるという、ただそれだけの場だ。
そのルールは全種目の中で最もシンプル。
一学年五組、三学年で十五あるクラスの中で代表である一人を選出。
出場選手達が学年に関係なくクジを引き、引いた数によってトーナメントに配置されれば、あとはそれに勝ち抜いていく。
そして最後に、一位から三位までの選手の所属しているクラスに得点が与えられる。
故にこの大会において必要なものは強さだけ。
ヘルベルトが引いた番号は十一番、そしてマーロンが引いた番号は一番であった。
真逆のブロックに配置された彼らがもし『一騎打ち』でぶつかり合うのだとすれば、それは最後に行われる決勝戦だ。
「――勝者ッ、マーロン選手っ!」
ヘルベルトは闘技場の方を振り返る。
遠くからは、実行委員の声と会場から湧き出してきた歓声が聞こえてくる。
マーロンが勝つのは当然のことだ。
というか、そうでなくては面白くない。
上にいる上級生達を軒並み蹴散らして、決勝の舞台で全力を尽くして戦う。
それでこそ始めて、ヘルベルトも全力を出せるのだから――。
待つことしばし、ようやくヘルベルトの出番がやってきた。
壇上に上がり、自分と戦うことになる選手のことを見据える。
彼の相手は、二年生であるベック先輩だ。
出場に当たって、『一騎打ち』に出てきそうな生徒達の主要な情報は確認している。
(たしかベック先輩は、自分と同じく火魔法が得意だったはずだ)
頭を回していたヘルベルトに、チッと舌打ちの音が聞こえる。
見ればベックは、ヘルベルトのことを睨んでいた。
「ダイエットに成功した程度で、調子に乗ってんじゃねぇぞ後輩」
「いや、調子になど乗っていないが」
「先輩に対するその口の利き方が、調子に乗ってるっつってんだよ!」
ベックが構える。
手には剣を持ち、そして左手を前に出す。
魔法と剣のどちらでも戦える、魔法戦士特有の構えだ。
今まで好き勝手に振る舞ってきていたせいで、ヘルベルトの上級生からの受けはすこぶる悪い。
公爵の父の権威を笠に着て上級生相手に噛みついたり、別に悪くない相手にも謝罪をさせた経験が何度もあるからだ。
ヘルベルトは改心したが、成績が優等なイザベラやマーロンのように誰に対しても分け隔てなく接するようになったかと問われれば、それも否である。
公爵家嫡男として、ヘルベルトに軽々と頭を下げることは許されない。
一応彼なりに悪いとは思ってはいるのだが、そう簡単に謝れる身分でもないのだ。
故に未だにヘルベルトを目の敵にしている人間も多い。
それに対して彼が取れる手段は、一つしかなかった。
ヘルベルトは――背中で語らなければならない。結果を出させなければ、己の改心を示すことはできないのだ。
両者が向かい合うのは、ステージの上。
引かれている白線の上で、試合が始まるのを待っている。
その距離は数メートルほど。
剣が届くには遠く、魔法を放つには近い距離だ。
「それでは『一騎打ち』一回戦、第四試合――始めッ!!」
ドガッ!
会場に響く鈍い音。
目では追えず先に鼓膜が震えた観客達が見たものは――。
「な……がっ……」
思い切り地面に叩きつけられ、倒れているベックの姿であった。
それはあまりにも一瞬の出来事だった。
試合開始と同時、ヘルベルトは時空魔法のアクセラレートを使い加速して前進。
観戦していた誰もが見失ってしまうほどの速度で肉薄した彼は、そのまま背後を取り、手に持っていた模造刀で殴りつけたのだ。
「おい、今の動きって……」
「人間業じゃねぇ……」
「なんだよあれ、すごすぎだろ……」
観客から漏れ出す声を聞き、ヘルベルトは口角を少しだけつり上げた。
「しょ、勝者っ――ヘルベルト!」
アナウンスの声が鳴り響き、ベックを運びに救急隊員達がやってくる。
(俺にとって、決勝までの試合は全て前哨戦に過ぎん。なあ、お前もそうだろ……マーロン)
ヘルベルトとマーロンは、順調に勝ち進んでいく。
上級生だろうが、女生徒だろうが関係ない。
彼らは他の出場選手達を鎧袖一触で打ち倒していった。
そして……彼らは決勝の舞台へと上がる。