魔法陣
「な、なんだよ、あれ……」
通常、傷を癒やすために使われるのはポーションと呼ばれる薬品類である。
魔力を多く含む薬草や魔物の素材を煎じて作られたポーションを使って、人は傷を癒やす。
緊急時には振りかける形で使い、時間をかけて根治をしようとするのなら飲用することが多い。
ポーションは、それを作る薬師と素材の善し悪しによる影響がとても大きい。
振れ幅が大きいため、有能な薬師は貴族や商人に抱えられることもしばしばだ。
だが今回の『一騎打ち』において、ポーション類の使用は認められていない。
けれどマーロンの持つ光魔法は、そこいらのポーションでは出せないような回復効果を叩き出す。
「シッ!」
己の傷を回復させたマーロンの横薙ぎが、ヘルベルトへ襲いかかる。
ヘルベルトはそれを加速させた攻撃で軽々といなした。
けれど彼の顔色は、それほど良くはない。
時空魔法を使い続け慣熟したとはいえ、やはりこの系統外魔法は主要四属性魔法と比べると魔力のコストパフォーマンスがあまり高くない。
アクセラレートは使い続けなければ効果を持続させることができない。
移動を高速化するためには常に魔力を消費することとなってしまうためだ。
対しマーロンの系統外魔法である光魔法は、初級魔法であれば主要四属性の半分程度の魔力消費で使うことができる。
おまけに治癒魔法であるヒールに、常時使用しなければならないなどという縛りもない。
「あれがマーロンの使う系統外魔法の力だ」
「この大会の規定では、ポーションは使えない……」
「そう、そもそも光魔法など想定されてすらいないから、この大会ではマーロンが魔法を使って回復することを制限するルールがない」
治癒魔法は即座に傷を癒やすようなものでない以上、使用は許可されている。
「最初は優位だったとしても、あまり意味はない。マーロンが治癒魔法を使って傷を治しながら戦ううち、傷の多寡は逆転し、気付けば追い詰められてしまう……」
ジョゼはそれだけ言うと、黙ってしまった。
少し青くなったその顔を見れば、恐らく自分が負けた時のことを想像しているのであろうことは、容易に想像ができる。
たしかにそれは脅威かもしれない。
けれどベックはジョゼから話を聞いても、顔色を変えなかった。
怪訝そうな顔をするジョゼに、ベックは眉を顰めながら答える。
「俺はあのヘルベルトのことは大嫌いです。傲慢で、独りよがりで、自分がこうと思ったら曲げない。リンドナーの貴族を煮詰めたようなあの人間性を褒めそやす奴らもまとめて気にくわない」
ヘルベルトが振った剣が、マーロンを強かに打ち付ける。
それを食らって苦悶の表情を浮かべるマーロンだったが、治癒魔法を使うことでその傷と痛みを取り除いてからはまた活発に動き出す。
そんな膠着状態は長くは続かないはずだ。
こんな戦いをしていてはジリ貧になるばかりのヘルベルトが、自らが負ける方へ舵を切るような人間ではない。
悔しながら、その部分は認めざるを得なかった。
見れば持久戦の構えを見せるマーロンに対抗するのは不毛だと感じたためか、ヘルベルトは魔法の使用を明らかに減らし始めていた。
そのせいで攻守は逆転し、今ではヘルベルトの方が傷の数は多くなっている。
「けれどアイツはそう易々とやられるたまじゃないでしょう……ほら、どうやら戦局が動き出したようですよ」
二人は食い入るように試合を見つめ始める。
傷を負い出したヘルベルト。
けれど彼の不遜な表情は変わらない。
それを訝しむマーロンが再度の攻撃。
ヘルベルトは正面から受けきり、そして叫んだ。
「マーロン、何も回復ができるのはお前だけじゃないぞ。――リターン!」
時計のような形をした魔法陣が浮かび上がったかと思うと、信じられない現象が起こった。
マーロンにつけられたヘルベルトの傷が治っていく。まるで……時計の針を逆さに回すかのように。
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